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第49回 生徒のための、生徒による、生徒のネットワーク作り物語



1999年4月号 UNIX USER誌掲載「ルート訪問記」の過去記事

第49回 生徒のための、生徒による、生徒のネットワーク作り物語
−世の中には変わり者の先生もいるもんだ!−


今回は愛知県江南市の滝学園 [注1] メディア・コミュニケーショ
ン・センター(以下MCセンター)を訪ね、滝高等学校の教諭(物理)
の栗本直人(くりもと なおと)さん、メディア・コミュニケーショ
ン・クラブ(以下MC部)に所属する高校生8名から、滝学園のネッ
トワークの概要やネットワーク構築時の苦労話などをお聞きしまし
た。また、愛知県立中村高校の教諭(英語)の古井雅子(ふるい 
まさこ)さんを交えて、「東海スクールネット研究会 [注2]」の
活動についてもお聞きしました。


*MCセンターとMC部の関係

私(以下Y):お久しぶりです [注3]。さっそく、MCセンターに
ついて紹介していただけますか。

栗本さん(以下K):MCセンターの生徒用端末室は、一般の生徒が
PCを自由に使える部屋である(1998年秋以降)と同時に、MC部の活
動の場でもあります。一般の利用は金曜日と土曜日の放課後で、そ
のサポート(利用者にカギを渡したり、使い方を教えたり)はMC部
が担当しています。部員の多くは、毎日放課後、ここで活動してい
ます。来年度は各クラスからMC委員を募集して、もう少し一般の利
用時間を増やすつもりです。

 ネットワークの構築・運用は英語科の原 博先生にも手伝ってい
ただいていますが、明らかにマン・パワー不足なので、MC部員にも
協力してもらっています。たとえば、サン・マイクロシステムズの
WSによるサーバー構築・管理は副部長の鬼頭信貴君、Windows NTサー
バーの実験は小塚真啓君、Linuxマシンの担当は柴山裕輝君という
ように、それぞれが得意分野を持って分業制で作業しています。そ
のほか、右から水野光仁君、神山(こうやま)祐一君、森 永理さ
ん、そして次期部長の山西佑季君と伊藤尚徳君です。

 今日来ているのはこの8人だけですが、全部で約20人の部員がお
り、サーバー構築が専門の人、インターネットを利用した学校間交
流や国際交流の活動をする人、その他の活動をする人など、各自が
興味を持っているテーマごとに活動しています。

Y:滝学園のネットワークについて、具体的に説明していただけま
すか。

K:校内配線のバックボーンには、光ファイバを採用しています
(図1)。生徒用セグメントと先生用セグメントはシスコシステム
ズのPIX Firewallで完全に隔離させており、先生側ではプライベー
ト・アドレス、生徒側ではグローバル・アドレスを用いています。

 教員や生徒宅からの着信用としては、INS 1500(光ファイバ
1.5Mbps)を利用してMAX 6000に接続するため、23回線同時利用で
きます。アカウントを持っていれば使用可能なので、MC部の何人か
は自宅からも利用していますよ。

 校内LANに関しては、来年、各教室まで光ファイバを通す予定で
す。さらに、外部接続用として別の専用線を追加して、マルチホー
ムにしたいと考えています。


*手作りネットワーク環境の自慢話

Y:では、ここのネットワーク環境の特徴は何でしょう。

K:サーバー環境については、いわゆる業者さんの手を一切借りず、
自前で構築しています。サーバーにはSPARCstation 20、SPARC
station 10、SPARCstation 5、SPARCstation 2、そしてUltra 5と
Ultra 1などを使用しました。これらは、会社でリース切れとなっ
た品を入手し、OSから自分たちでインストールしてサーバーに仕立
てたものです。サーバーとしてはWindows NTやLinuxも検討しまし
たが、現在のところ耐久性および汎用性の面からサン・マイクロシ
ステムズのWSを採用しています。

 また、ここの一番の自慢は、生徒が利用する端末室にPCやケーブ
ルがないことです。見ていただくと分かるとおり、自由に移動でき
る「ちゃぶ台型4分割可能デスク」(高さ30センチの座卓を設置)
と「赤外線LANロボット」(以下ロボット)を用意することで何も
ない部屋 [注4] を実現しています。

 PCを使いたい生徒は、生徒手帳と引き換えにノートPCが収納して
あるロッカーのカギ [注5] を受け取り、自分で取り出して好きな
場所の座卓に座り、電源と情報コンセントにつないで使用します。
図書館で好きな本を借りてきて読むのと同じ要領ですね。天井には
赤外線センサーが埋め込まれており、ロボットと通信します。この
システムは日本ビクターさんが開発したもので(NTTデータ通信さ
んがOEM販売)、内田洋行さんから納入してもらいました。なお、
ロボット上部の光無線中継装置と天井備え付けの赤外線センサーは、
だいたい10Mbpsで通信しています。

 赤外線の補助回線としては、部屋の床下にEnhanced Category 5
ケーブルによるギガ・イーサネット対応の配線がなされており、床
に25か所50口の情報コンセントが設置してあります。

水野君:ロボットの光無線中継装置部分は手で別の方向へ向けても、
自分自身で「ガ、ガ、ガ」と動き、天井の装置の方を向きます。

Y:すごいですね。

小塚君(以下小塚):赤外線利用の歴史はけっこう長くて、一昨年
から実験機を使っていました。昔は「すごい」と思っていたのです
が、もう見慣れてしまいました。

Y:皆さんは慣れていても、普通の生徒さんは驚くのではないでしょ
うか [注6]。

山西君(以下山西):少しは驚く人もいましたが、びっくりして後
ろに飛び上がった人を見たことはありません。

森さん(以下森):だいたい最初から赤外線センサーの方向を向い
ていますから、それほど「ガ、ガ、ガ」と動くところが見られるわ
けではありませんし……。

Y:ケーブルのない端末室は、このような仕組みで実現していたの
ですね。

K:「コンピュータのないコンピュータ室を作りたい」というコン
セプトは、 ’93年ぐらいから徐々に温めてきたものでした。この
ころ、私はポケット・マネーでNeXTstationを買いました。いわゆ
る黒NeXTですね。NeXTのユーザー会で南山大学の後藤邦夫先生と出
会い、実験的に南山大学とUUCP接続させていただきました。その縁
で’94年12月に「東海スクールネット研究会」が立ち上がり、同年、
藤田保健衛生大学総合医科学研究所と滝高校間でPPP接続を開始し
たのです。

 今回、このネットワークを構築するに当たって、研究会を中心と
する多くの方々からボランティアで援助をいただきました。このよ
うに、人とのつながりを大切にして「いかにお金をかけずに、満足
できるネットワークを作るか」を目標に活動しているので、MC部員
の多くもネットワーク構築の強力な戦力です。しかも、私はネパー
ルに行ったり [注7]、チベットに行ったりと、常に飛び回ってい
るため、サーバーの構築・維持・管理はほとんど生徒に任せていま
す。そのあたりの話は、本人たちから直接聞いてください。


*高校生がネットワーク構築の戦力に!

Y:では、ネットワーク構築のためにどのような貢献をしたのか、
MC部員の皆さんにお聞きしたいと思います。端末室のケーブル張り
も担当されたようですが、いつ、どのくらいの期間、働いた(!)
のでしょうか。

神山君:端末室のケーブル張りは、 ’98年のゴールデン・ウイー
クあたりの約1週間です。途中で3回ぐらい仕様が変わって、とに
かくすごく大変でした。

鬼頭君(以下鬼頭):イーサネットのケーブル(100BASE-T)作り
も、MC部員が担当しました。ケーブルを何メートルかに切り、両端
にモジュラー・プラグを付ける作業です。ここには、工具や本格的
なケーブル・チェッカーが用意されています。

Y:ケーブル作りの腕前は、全員プロ級なんですか。

小塚:私はケーブル作りだけはぜんぜんダメで……。ケーブル作り
の名人は伊藤君です。

Y:では、伊藤君に質問です。これまでに何本ぐらい作りましたか。

伊藤君(以下伊藤):失敗も合わせれば、100本ぐらいは作ってい
るはずです。

Y:次に、WS担当の鬼頭君には、インストールの回数を教えてもら
いましょうか。

鬼頭:WSへのインストール回数は20〜30回です。OSのインストール
自体は、ブートCDを入れるだけなので非常に簡単です。各種サーバー
類のインストールと設定までして、ネットワーク・サーバーとして
使えるようにした台数は……正確には数えていませんが、少なくと
も5台以上はあります。

 ここに来るWSはリース切れのものばかりなので、そのための苦労
があります。たとえば、インストールしてみたらビデオ・カードが
異常だったことがありました。8Gバイトのハードディスクをクラッ
シュさせた経験もあります。

小塚:ここができるまでの部室は大変狭く、多くのサーバーを置い
て作業していたので、供給される電圧が低くなって頻繁に停電して
いました。そのため、クラッシュするのは日常茶飯事だったのです。
もちろんクーラーもなく、夏でも扇風機だけだったので、部屋の中
はすぐに35度ぐらいになります。そこに人が(男ばかり)10人以上
[注8] いるので、まさにサウナ状態となり、夏には約8キロやせ
たこともありました。結局、この環境に耐えたサーバーはWSだけで、
PCを利用したマシンは次々とクラッシュしていったのです。


*MC部としてのクラブ活動

Y:サーバー構築やLAN設置以外の活動をいくつか紹介していただ
けますか。

鬼頭:地域への貢献という意味で、近くに住む60歳以上の方(歩い
て来られることが条件)を対象とした「インターネット講習会」を、
’97年と’98年の秋に2年連続で行いました。

小塚:まず、Webページの見方とメールの読み書きを行い、最後に
ホームページを作るところまで進みました。2時間ちょっとだった
ので、さすがにホームページ作りの部分は無理がありましたが……。

Y:メールの読み書き用に受講生のアカウントを発行したのですか。

小塚:アカウントは、user1、user2、user3、user4、……のような
ものを用意しました。メールの設定なども教えましたが、たぶんだ
れも分かっていないでしょう [注9]。

鬼頭:参加者は約10人だったので、受講生1人に対してMC部員が1
人もしくは2人ずつ横につきました。結局、横についたMC部員がだ
いたいの設定などを行ってしまったのですが……。

Y:そのほかの活動としては、何を行いましたか。

小塚:’97年度の文化祭で、校内にネットワークを張ったことがあ
りました。まず、屋根に登ったりしながら、図書館に向かってイー
サネットのケーブル(10BASE-2 [注10])を引き、次に玄関前と体
育館前に無線LANを引きました。

鬼頭:光ファイバを引く計画もあったのですが、時間の都合上、ア
ウトになりました。このようにして、ネットワークを張った校内の
いろんな場所にマシンを配置しました。このネットワークは「災害
時のインターネット利用実験」という名目だったので、電気の供給
に発電機を使った場所もありました。

小塚:校内の各所に置かれたマシンでネット・サーフィンできるよ
うにしたのですが、あまり見てくれなかったようです。文化祭の日
は、それぞれの場所にデモする人が張り付いていたわけではなく、
ただ置いていたことが原因かもしれませんが。

Y:それはもったいない……。 ’98年度の文化祭では何をやった
のですか。

森:プリクラをしました。2日目に行う予定だった国際交流の企画
は、大きな台風が来たので中止になってしまったのです。実は、文
化祭に合わせてネパールから15歳の女の子が滝高校に来ていました
し、そのほかにもバングラデシュからの留学生を招いて環境や教育
をテーマにした討論会を行う予定でした。

Y:そのプリクラは、どのようなシステムでしたか。

伊藤:「デジタル・カメラで撮影した写真をPCに取り込み、加工し
てシールに印刷する」という単純なものです。

山西:最初、1枚300円だったのですが、だれも来ないので最終的
には100円まで下げました。これでは原価を切っているのですが、
100円にしてもあまり人気は出ませんでした。

森:MC部(いまでも昔の名称の「物理部」と呼ぶ人が多い)のイメー
ジが「暗くて [注11] 、オタクっぽい [注12] 」のも原因の一部か
もしれません。


*すでにLinuxユーザーだった中学時代

Y:MC部には、ネットワークやUNIXに詳しい方がいて驚きました。

K:鬼頭君なんか、2年前に私が中学生のクラスを担当したときに
「家のPCでLinuxを使ってる」といっていましたからね。

Y:どういうきっかけで、中学生がLinuxをインストールすること
になったのですか。

鬼頭:3年ほど前(中学2年)、読んでいた雑誌『C Magazine』の
特大付録CD-ROMにSlackwareが収録されていたので、私が最初にイ
ンストールし、PCが好きな同級生たちに順番に布教していきました。
だから、同学年には、とくにLinuxを使う人が多いのです。

Y:ということは、C言語なども中学生のころからバリバリ組んで
いたりするのですね。

鬼頭:はい。

小塚:滝中学校の自然科学部は、「そこら中にMSXやPC-8801が転がっ
ている」というかなりすごいところでした。マシンの分解の楽しさ
や、プログラムが動いたときの楽しさは、そこで学びました。「い
まの原点は、自然科学部にある」といえるかもしれません。

 私は、家のPCがPC-9821 Cb10だったので、Linux使いにはなりま
せんでした。中学3年の夏に『C言語入門』という書籍を買い、
Lsic86でCを始めました。その後、お年玉でDelphi 2.0を購入しま
した。

Y:小塚君はUNIXとWindowsの両刀遣いのようですが、両者を比較
してもらえますか。

小塚:どっちかを強調したり、否定するのはどうかと思います。文
房具として使うにはWindowsも便利だし、UNIX側にはオープンであ
ることのよさもあるし、単純に比較できるものではありません。

 UNIXの一番の魅力は、Ruby [注13] が開発されていることです。
あの言語は完全なオブジェクト指向言語なので、非常に気に入って
います(コラム1)。いまは、これでCGIを書いています。Rubyの
メーリング・リストにも入っているのですが、ああいうコミュニティ
の開発モデル [注14] は魅力的ですね。


*LinuxでのIP Masqueradeの実験結果

Y:サン・マイクロシステムズのWSにもLinuxをインストールされ
たそうですね。

柴山君:はい。IP Masqueradeの実験のために、Linux/SPARCをイン
ストールしました。

小塚:Linux/SPARCのインストールは、けっこう面倒くさかったで
す。というのも、Linux/SPARCをインストールしようとしたWSのフ
ロッピーディスク・ドライブが壊れていたため、ネットワーク・ブー
トしてインストールしたからです。黒い画面が出てペンギンの絵が
表示されたときは、「おー」と思いましたね。通常は白い画面です
から。

 結局、Linux/SPARCは、IP Masqueradeが使えるかどうかの実験の
ために3日使っただけですぐに消しました。

鬼頭:この実験は、「現在、先生側のセグメントのセキュリティ用
に使用されているPIX FirewallをIP Masqueradeで置き換えられな
いか?」というものでした。PIX Firewallは高価なため、IP
Masqueradeで置き換えればコストが節約できると思ったからです。
正常に動きましたから、「そこそこ使える」という結論に達しまし
た。

K:でも、このようなことを雑誌に書いたら、シスコシステムズが
「商売できなくなる」と怒ってしまうかもしれませんね。


*熱い先生たちの集団「東海スクールネット研究会」

Y:滝学園のネットワーク構築には、東海スクールネット研究会の
存在が非常に大きいということでしたね。その世話人ともいえる愛
知県立中村高校の古井雅子 [注15] さんから、同研究会の活動につ
いてお聞きしたいと思います。昨年の夏、京田辺市で実施された合
宿に参加させていただいたとき、熱心な先生と生徒たちに圧倒され
ました。

古井さん(以下F):あの合宿は、「東海スクールネット研究会 
第22回特別例会 先生と生徒のための合宿−in 京田辺市竜王野外
活動センター」という名称でした。先生と生徒のそれぞれにプログ
ラムを用意したり、講師を呼んだり [注16] することを含めた全運
営(食事を含む)を、ボランティアとして集まった教師たちで担当
しました。

Y:2泊3日の合宿のために、大々的なLANを構築されていた点に
も非常に感銘しました。

K:ある意味、異常な集団ですよね(笑)。

F:そういうことが大好きなメンバーが集まってますからね。研修
部屋まではすでにネットワークの線がきていますが、あの合宿では
さらに5つの宿泊小屋(バンガロ)間に光ファイバの線を張りまし
た。また、滝高校からは各種の線やギガ・スイッチ、10/100BASEの
スイッチング・ハブ(アライドテレシスから借用)、サン・マイク
ロシステムズのWSが5台、Windows NTマシンが2台、Macintoshが
2台、WindowsのノートPCが20台運び込まれ、その他の学校からも
何台かずつマシンが運び込まれました。結局、約50名の生徒が1人
1台利用できるPC環境とネットワーク環境が構築されました。

Y:古井さんも中村高校の生徒の方を連れて参加されてましたが、
中村高校の現在のネットワーク環境はどのような感じですか。WSで
サーバーを構築されていますよね。

F:’98年度、中村高校はネーム/メール・サーバーを動かしてい
ます。そもそものきっかけは、 ’93年、NeXTのユーザー会で栗本
先生が藤田保健衛生大学の伊藤 渉先生に出会われ、その後、自分
のところだけではなく「ほかの高校もつないであげましょう」とい
うことになり、勉強させていただきました。

また、栗本先生が南山大学の後藤邦夫先生と相談され、100校プロ
ジェクトの学校だけでなく「ほかの学校も一緒にやっていきましょ
う」と東海スクールネット研究会を始められました。私もそこに参
加していたため、自分の高校(中村高校)をインターネットに接続
する際に面倒を見ていただきました。

 最初はUNIXという言葉も知らず、あきれられました。ただ、皆さ
んに教えていただきながら自分でも勉強し、また栗本先生には学校
まで来ていただいてサーバー設定を行ってもらうなどして、学校の
インターネット環境を整えていきました。

 その当時、 ’94〜’96年ごろは、インターネット接続する絶対
数が少なかったため、技術のある人が初心者をフォローすることが
できた時代なんですね。でもこれからは、絶対数が増加していくた
めにどんどんと困難になってくるでしょう。

K:現在、文部省は予定を早めて、2001年までに学校をネットワー
クで結ぶと発表しています。郵政省は300億という金額を、学校の
ネットワークに投入しようと計画しています。しかし、業者さんが
作業を行う場合、自分たちで作業するのと比べて(同じ金額なら)
何十分の一、何百分の一のことしかできないのです。それだけ費用
がかかりますからね。

 業者さんの手によって人の温かさのないネットワークが構築され、
それを使うようにいわれた先生の方も「やらされている」という気
分になっては、せっかくお金をかけても残念ながらよい教育環境は
作れないでしょう。環境を作るには、線が引かれただけではダメで、
人(それを活用できる先生)を育てるのが一番重要になってくるの
です。

 現在は、「明治維新以来の情報維新だ」と一部ではいわれていま
す。明治維新のときも、10年ぐらいかかって廃藩置県などが実施さ
れていったわけで、教育界もこれから10年ぐらいかかって、いろい
ろな改革を実施することになるでしょう。

Y:なるほど。興味のあるお話を、どうもありがとうございました。

 取材後、「女性*BSDユーザ会 [注17]」をオープンすることが決
定しました。ネットワークの知識が豊富な古井さんも、ぜひ勧誘し
てみたいと思います。



[注1]  滝学園

私立滝学園(滝中学校・滝高等学校)は、大正15年に滝実業学校と
して創立された。所在地は、愛知県江南(こうなん)市東野。最寄
りの駅である江南駅は、名古屋から名鉄で30分程度。詳しくは、
http://www.taki-hj.ac.jp/ 参照。


[注2]  東海スクールネット研究会

’94年12月12日に設立された、学校でのインターネットワークを促
進する草の根団体。「どうやってインターネットに接続するか」、
「どのように教育に役立てるか」を徹底的に研究しており、他地域
の同種の研究会からも[注目されている。


[注3]  お久しぶり

筆者は、京田辺市竜王野外活動センターで実施された「東海スクー
ルネット研究会−先生と生徒のための合宿」(’98年8月25〜27日)
に講師として参加したとき、栗本先生やMC部員に会っている。その
ときの講義の内容は、「空想ゲームで文章力を身につけよう」およ
び「自分の作成したWebページを批判的に読むためのチェック・リ
スト」であった。


[注4]  何もない部屋

ちゃぶ台を片付ければ、部屋の中には何もなくなり、じゅうたんが
ひかれただけの状態になる。中学校や高校では、なかなか見られな
い風景だろう。


[注5]  ロッカーのカギ

各カギには、栗本先生(実は登山家らしい)がスイスで購入したカ
ウベルが付けられていた。


[注6]  驚くのではないでしょうか

自分が驚いたので、このような聞き方になったが、あとで考えてみ
ると、いまの中高生が天井の装置の方向にロボットが向いたり、無
線でデータが飛んでくることに驚かないのは当然かもしれない。


[注7]  ネパールに行ったり

東海スクールネット研究会のメンバーは、ネパールの病院と学校と
をインターネットでつなぐ活動をしている。詳しくは、「ネパール
のドリケル病院と、高校のネットワーク設置支援活動報告会」
の資料参照。


[注8]  人が(男ばかり)10人以上

女子部員の森さんは、新しい部屋になってからMC部に参加するよう
になった。男子部員曰く、「あの部室に女子は誘えなかった」との
こと。また、滝高校は共学ではあるが、男子生徒よりも女子生徒の
人数が少ない傾向にある。


[注9]  だれも分かっていないでしょう

SMTPサーバーやPOPサーバーの設定を説明したが、分かってもらえ
なかったそうだ。ちなみに、SMTP(Simple Mail Transfer
Protocol)は、TCP/IPを用いたメール配送のプロトコル。また、
POP(Post Office Protocol)は、配送されたメールの置かれる計
算機にログインすることなく、メールを読むためのプロコトル。


[注10]  10BASE-2

10BASE-2には、「Thin Wire」あるいは「チーパ・ネット」という
別名もある。伝送媒体には直径5mmの同軸ケーブルを使用し、伝送
速度は10Mbpsとなっている。また、最大ケーブル長は、1セグメン
ト当たり185メートルまで。


[注11]  暗くて

山西君によると、MCは「メディア・コミュニケーション」ではなく、
「マニア・コミュニケーション」とも呼ばれているらしい。筆者の
「今回雑誌に載ることで、イメージアップを図りましょう!」とい
う発言に対して、「『UNIX USER』に載ったら、ますますオタクだっ
ていわれますよ」との意見が……。


[注12]  オタク

大学の研究室で研究されているようなテーマに詳しいことと、アニ
メなどに詳しいことは基本的に同じで、どちらも一般の人には理解
できない面がある。その場合、大学の研究のような世間的に認めら
れていることは「オタク」とはいわず、そうでないものを「オタク」
と呼ぶ傾向がある。ただ、Linuxなどに代表されるフリー・ソフト
ウェア開発コミュニティの生産性の高さを世間が認め始めたため、
この世界は最近、「オタク」から脱しているようだ。


[注13]  Ruby

Ruby(7月の誕生石)という名前は、Perl(6月の誕生石)にちな
んで付けられたものである。『SunWorld Online February 1999』
の中の“Regular Expressions: New choices for scripting”とい
う記事でも、Rubyが取り上げられている。日本発の言語が、世界で
注目されるのは大変うれしいことである。


[注14]  開発モデル

 ’97年5月にEric S. Raymond氏が発表した、「伽藍とバザール
(TheCathedral and the Bazaar)」というフリー・ソフト/オープ
ン・ソース・プロジェクトの開発スタイルについての論文がある

同論文において、「バザール・モデルとは、限られた少人数だけが
ソース・コードを変更する権限を持っているのではなく、多人数で
開発するスタイルであり、バージョンアップを頻繁に行っていく。
その典型がLinuxである」と述べられている。これと対になるスタ
イルが、少人数の天才だけが、静かにCathedral(大聖堂といった
意味の単語。論文では伽藍と翻訳される)を作り上げる伽藍(がら
ん)モデルである。GNUのソフトウェアの開発スタイルは、こちら
に分類される。


[注15]  古井雅子さん

筆者は、’96年に稚内北星短期大学のサマースクール「UNIXネット
ワーク管理コース」に参加した際、古井雅子さんと出会った。当時
は、「英語の先生なのに、なぜこんなにネットワークに詳しいの?」
と驚いた。その秘密は東海スクールネット研究会の存在のようであ
る。


[注16]  それぞれにプログラムを用意したり、講師を呼んだり

たとえば、入門期の生徒用の講習としては、南山大学の後藤邦夫先
生による「正しい電子メールの書き方」、東金女子高等学校の高橋
邦夫先生による「ネチケット」、日本サン・マイクロシステムズの
松田慎一さんによる「JAVA入門」、そして「インターネットを利用
した、高校の学校間を超えた活動と国際交流」が用意されていた。
大人向けの講習としては、日本AMPの堀場信夫さんと栗本先生によ
る「ケーブル講習」、NECの佐野 晋さんによる「IPv6説明」、そ
してサーバー構築の話やWindows NTの可能性の話などが行われた。


[注17]  女性*BSDユーザ会

’99年2月13日(日)に奈良女子大学で「若草OpenBSD友の会」
http://www.openbsd.ics.nara-wu.ac.jp/wakakusa/  の会合
があり、筆者も参加させていただいた。参加者12名のうち4名が女
性だったということもあり、3月3日(ひな祭り)に「女性*BSDユー
ザー会」(Ladies' *BSD Users Group:L*BUG)をオープンするこ
とが決定した(*BSDとはFreeBSD、NetBSD、OpenBSDなどのBSD系OS
を意味する)。詳しくは、
http://www.openbsd.ics.nara-wu.ac.jp/lbug/  参照。


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コラム1 オブジェクト指向言語Ruby 滝高等学校2年 小塚真啓

●What is Ruby ?

 Rubyとは、まつもとゆきひろ氏が開発したオブジェクト指向のス
クリプト言語です。これは、数多くのプラットフォーム(Linux、
FreeBSD、Win32など)で動作する、オープン・ソースのソフトウェ
アです。ソースやドキュメントの一次配布場所は、

http://www.ruby-lang.org/ja/

です。

●What is property of Ruby ?

 Rubyの特徴を一言で表すと、

本当にオブジェクト指向なんだ

という表現が一番適当だと思われます。Rubyでは、配列、連想配列
などはすべてクラスとして提供されています。このため、Perlで連
想配列を扱おうとするとKeysなどの専用関数を使う必要があります
が、Rubyではその必要がありません。

 具体的には、

fruits = {"apple"=>{"name"=>"apple", "color"=>"red", "smell" =>"sweet"}}
printf("%s:color=%s smell=%s\n", fruits['apple']['name'],
fruits['apple']['color'],fruits['apple']['smell'])

のように、ハッシュの中には文字列だけでなくクラスを埋め込むこ
とも可能です。しかしこれは、ほんの一例にすぎません。

 たとえば、 ’99年1月号の『Linux Japan』に掲載されたやまだ
あきら氏の連載「Linux奇譚」では、Rubyについて以下のようにコ
メントされていました。

Rubyの守備範囲はPerlと似ていて、テキスト処理などが得意です。
RubyもPerlもネットワーク系の機能を備えていますが、これに関し
ては、Rubyのほうがよりお手軽な印象があります。また、ある程度
以上複雑なデータ構造を必要とする場合にはRubyのほうに明らかな
優位があるようにも思います。


●What is characteristic of Ruby ?

 Rubyには、日本語のサポートをするKconvやネットワーク、スレッ
ドなどの便利なライブラリがそろっており、Gtk、TkなどのGUIのラ
イブラリも扱うことが可能です。また、拡張ライブラリの制作が比
較的容易であることも特徴でしょう。

 私なりにRubyのメリットをまとめてみると、

 @日本語の扱いが非常に楽(作者が日本人であることも心強い)
 A繰り返しが非常に洗練されていて直感的
 Bかゆいところに手が届くクラス・メソッドの数々
    (Cと比較すれば歴然)

となります。

 最後に、私の今後の目標を2つ。

 @Rubyに何か貢献する
 AだれかをRuby使いにする

 なお、近く、まつもとゆきひろさんが書かれたRubyの書籍がアス
キーから出版されるそうなので、とても楽しみにしています。

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(UNIX USER誌連載「よしだともこのルート訪問記」より)
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