[Date Prev][Date Next][Thread Prev][Thread Next][Date Index][Thread Index]

第44回 自分たちのインターネット・サービスを作ろう!



1998年11月号 UNIX USER誌掲載「ルート訪問記」の過去記事

第44回 自分たちのインターネット・サービスを作ろう!

今回は、大阪市北区にある有限会社リヒトシステムズ [注1] 社長
の真崎理人(まさき りひと)さんを訪ねました。取材には、安田
 豊(やすだ ゆたか)さん、木谷公哉(きたに きみや)さん、鈴
木岳志(すずき たけし)さんにも同席していただき [注2] 、リ
ヒトシステムズが大家となっている自分たちのインターネット・サー
ビス「まるたご屋」計画について詳しくお聞きしました。

==========
[よしだともこからの新規コメント]  

tomo.gr.jpのインターネットサーバーCobalt Qube君は、1998年9月
23日から、リヒトシステムズに置かせていただいています。
(1999.8.10 よしだともこ)
==========

==========
[真崎理人さんからの新規コメント]  

● サーバーのお引越し 〜DIONの引越し楽楽パック?〜

 ルート訪問記に載せていただいてから今日までに、私たちのお友
達サイトのネットワークには、少々変更が加わっています。ネット
ワーク構成図を見ていただければわかるように、よしだともこさん
の tomo.gr.jpのCobalt Qube君が新たに加わったこと、そして、
rihito.co.jpのインターネット・サーバーがCobalt Qubeに置き換
わったこと。そして、図にはあらわれませんが、リヒトシステムズ
の事務所移転にともない、それぞれのインターネット・サーバーが、
お引越しをしたことがあります。ここではサーバーの引越しのこと
について書いてみることにします。

 いやはや、驚きました。今回のお引越しはとても簡単だったの
です。もちろん引越し屋さんの「楽楽パック」にまかせたから、
というわけではありません。実は今回の引越しでは、びっくりす
るほど仕事に影響が少なかったのです。記事にも書いていただい
ていますが、リヒトシステムズでは、メーリングリストとメールを
核として仕事がなりたっているため、ネットワークの停止は即、開
発の現場への影響へ繋がってしまうことになることもあり心配して
いたのですが、その心配は無用でした。工事が順調にいったとい
うこともありますが、何より「引越しに伴うIPアドレスの変更が無
かった」のです。

  ご存知のとおりDIONや OCNでは、いくつもの線を分割し、個々の
利用者に24bitのアドレスを割り当てています。そんなわけで私は
「その集線局ごとに一定の幅のアドレスが割り当てられているもの」
と思い込んでいたのです。つまり「今回の引越しでは同じ大阪市内
であるけれども行政区も異なり、同時に NTTの集線局も異なるため、
IPアドレスが変更になる」と思い込んでいたのです。IPを変更しな
ければならないとなると、これはなかなか面倒です。各サーバーの
内部の設定変更はもちろん、DNSへの変更の反映も待たなくてはい
けません。ですがこれは大きな勘違いでした。DIONでは同じ大阪市
内であれば引越しにともなうIPアドレスの変更が無かったのです。

  もちろん全ての引越しで IPアドレスの変更がないわけではない
のでしょうが、これにはとても助かりました。おかげで、サーバー
のお引越しは工事日の朝にサーバーを移動させコンセントにプラグ
を差し込むのと同様に、新しい線に繋ぐだけの30分ですんでしまっ
たのですから。 ブラボー DION。


● ちょっと脱線 CobaltQubeは大正解 〜静かなオフィスはすばらしい〜

 先にもちょっと言いましたが、どういうわけかリヒトシステムズと
いう会社はよく引越しをする会社でして、今年もいつものようにPCや
らプリンタやらを抱えてのお引越しとなったわけなのです。

 ところが、新しいオフィスではPCの動作音がとても耳障りなことに
気が付きました。ビルの防音がとてもよくできているおかげで、室
内がとても静かな分、PCが発する音がとても気になるようになってし
まったのです。特に 24時間ずっと動作しつづけるインターネット・
サーバーは美味いコーヒーと心地よい音楽による気持ちのリフレッシ
ュを妨げる壊れたスピーカー以外の何者でもありませんでした。そ
んなわけで、サーバーたちをトイレの個室の奥にでも押し込めてしま
おうかとも考えたのですが、よしだともこさんが運営されている 
tomo.gr.jpのサーバーであったCobalt Qubeがとても静かで(しかもカ
ッコイイ)あったことから、 思い切ってrihito.co.jpもサーバーを 
Cobalt Qubeにリプレースすることにしました。これが大正解でした。

 もちろんCobalt Qubeという製品は他にもとても素晴らしい特徴
を持っているのですが、今回ばかりは、その静粛性と発熱の少なさ
が、新しいオフィスには必要だったのです。

 私たちプログラマーは一種のクリエーターですから、仕事場の環
境には結構気をつかっていたりしているのですが、PCだけはいつも
特別扱いでした。考えてみれば、PCというものは蚊のような羽音
を震わせ、生暖かい息を吐く、とても厄介な代物のくせに、いつも
オフィスの中央に居座っているのですからおかしなものです。

 でもCobalt Qubeをサーバーにしてからは、静かな環境を手に入
れる選択肢を得ることができたわけです。さすがに全てのPCから音
を消し去るわけにはいかなかったのですが、ノートパソコンを使え
ば、美味いコーヒーを静かなオフィスで飲むことはできるようになっ
たのですから。もしかしたら、 Cobalt Qubeは、こんなオフィスに
こそ最適なのかもしれません。(1999.8.9 真崎理人)


図:  リヒトシステムズのネットワーク構成図(1999.8.9現在版) 

DIONバックボーン
   ■
   ■ 1.5Mbps
   ■
NTT集線局
   ■
   ■ 128Kbps
   ■
RT80i(ルーター)
   ■
 ■■(イーサネット・スイッチ)■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■          ■            ■       ■
CobaltQube2700J      FMV5133         CobaltQube2700J  リヒト
(RISC 150MHz       )(Pentium 133MHz        )(RISC 150MHz       ) システムズ
(メモリ 32MB       )(メモリ 48MB           )(メモリ        16MB)  社内ネット
(ハードディスク 6GB)(ハードディスク 1.6GBx2)(ハードディスク 2GB)  ワークへ
(Linux             )(Linux                 )(Linux             )
【rihito.co.jp】    【bakkers.gr.jp】      【tomo.gr.jp】

==========

==========
[安田 豊さんからの新規コメント]  

取材後、1999年1月に、ばっかーずマシンが何者かによってクラッ
クされ、ディスクを消去されるという事件がありました。安全には
気を使っていただけに実に残念です。侵入口はわかりませんでした。
その後継続的に侵入を試みるオーストラリアからの訪問者と戦った
り、WinGateというソフト製品がインターネット中で踏み台にされ
ているのを目撃したり、いろいろ勉強させていただきました。絨毯
爆撃的な傾向が強くなってきた最近のアタックを避けるため、現在
Cobalt の新製品RaQ2に入れ換えようと考えています。

1999年8月現在、RaQ2Jに FreeWnn/Mule などを入れ、次期まるたご
マシンとするための整備が着々と進みつつあります。中身がほんと
に普通のLinuxなので、こういうカスタマイズができるのです。こ
れは、「POP/SMTP」が動けばいい、というユーザーと「僕はtelnet
してMuleでメールを書きたい」という両極端ユーザが同居している
サイトにはありがたいことです。

最後に、この「まるたご計画」でいちばん引合があったのはメイリ
ングリストでした。作り放題というのが受けたのか、20 以上出来
ています。また、家族アカウントとしてホームステイ中の留学生を
登録したり、それらしく使えています。(1999年8月5日、安田 豊)

==========



*128Kbpsの専用線導入時の裏話

私(以下、Y):こんにちは。「まるたご屋」計画の本拠地が真崎
さんのリヒトシステムズだとお聞きして、こちらにおじゃまするこ
とになりました。「まるたご屋」計画のお話に入る前に、まずはリ
ヒトシステムズを簡単に紹介していただけますか。

真崎(以下、M):リヒトシステムズは、Windowsアプリケーショ
ンを開発するソフトウェア・ハウスです。主に中堅ソフトウェア・
ハウスへの開発協力や、コンサルティングなどを行っています。そ
してまさに、「インターネットという便利なコミュニケーション手
段がなくては成り立たない会社」なのです。

 メインのスタッフは本社がある大阪をはじめ、東京、京都、福岡
に住んでいることもあり、私を除く全員が在宅勤務です。そのため、
電子メールによる連絡や会議、FTPによるデータの転送なしでは仕
事そのものが回りません。また最近は、ネットを通じてほとんどの
仕事をいただきますから、私が営業のために外出することも少なく
なりました。発注から納品まで、すべてネットと電話(もちろん書
類は郵送しますが)だけで、「一度もお会いしたことがない」とい
うお客様も何人かおられるほどです。

 こうして営業活動の時間を減らせたおかげで、最近では技術系雑
誌(「Visual Basic Magazine」翔泳社)への寄稿や、町の(おっ
ちゃん)社長さん相手に「自分サイズのコンピュータ導入」をお手
伝いできるようになりました。ただ、自分ではコンサルタントのつ
もりでいるのですが、知り合いからは「昼間から仕事をサボってフ
ラフラ世間話をして歩いている」ように見えるらしいです(笑)。

 そして今年の6月1日、「まるたご屋」計画(後述)の一環とし
て、リヒトシステムズに128Kbpsの専用線を引きました(図1)。

Y:専用線によって、仕事のスタイルは変わりましたか。

M:先にもいいましたとおり、リヒトシステムズはインターネット
に依存しています。とくに、開発チーム内の連絡や技術情報の共有
にはメーリング・リストは欠かせませんし、開発に使うクラス・ラ
イブラリを最新状態に保つにはFTPの利用が大変便利なので、いま
まではレンタル・サーバーを使っていました。これによって、メー
リング・リストの開設・廃止、メンバーの変更がいつでも自由に行
えるようになり、実際の仕事の進み具合に応じて必要な人にだけ情
報を送る(必要でない人へは送らない)など、必要なことはすべて
できるようになりました。

 ただ、時間帯によってはサーバーのパフォーマンスが極端に悪く
なること、およびサーバーの障害時に素早く代替サーバーを立てら
れないことが悩みの種でした。レンタル・サーバーでは、ハード障
害時に初期状態(OSの再インストール)には戻してくれますが、
「数時間後に復旧させる」ことは不可能でした。

 さらに、ひょんなことから安田さんに「プロバイダの安全性」に
ついてのお話を聞き、借りていたレンタル・サーバーをチェックし
たところ、隣のサイトのパケットが丸見えだったのです。このこと
を目の当たりにしたことが、レンタルではなく自前のサーバーを持
つ大きなきっかけになりました。隣が見えるということは、リヒト
システムズのパケットも丸見えなわけですから、セキュリティも何
もあったものではないでしょう。

Y:なるほど。ところで、128Kbpsの専用線としてはOCNエコノミー
が有名ですが、DIONスタンダード [注3] を選択された理由は何で
しょうか。

M:主な理由は、すぐに工事してもらえるという点でした。希望者
が多いためか、OCNエコノミーの方は工事日がずいぶん先になるの
ですが、DIONはすぐに来てもらえるようだったのです。価格につい
ても、DIONの方が少しだけ安く設定されています。

安田さん(以下、や):僕らの場合、OCNエコノミーというブラン
ドは必要なく、楽しめればよいのでどっちでもよかったのですが、
結果的にはDIONにして大正解でした。とにかく速いんですよ。転送
試験を行った結果、速度帯域128Kbpsの回線でSINETとの転送速度が
120Kbpsという驚異的な速さでした。「SINETとの転送速度が速かっ
た」というのは、非常にラッキーでしたね。

 ほかに、「1つの契約に対して複数のドメイン登録を認めてくれ、
セカンダリのネーム・サーバーをいくつでも定義してくれる [注4]」
という利点もあります。

Y:この接続に関して苦労した点などを教えていただけますか。

M:まず、外部との接続開始日、rihito.co.jpのDNSの問題があり、
つながりませんでした。というのも、rihito.co.jpはそれまで別の
場所にあるレンタル・サーバーで使われていたため、そこのネーム・
サーバーがrihito.co.jpを宣言していたのです。

リヒトシステムズ内でrihito.co.jpを使い始めるに当たって、DION
側のネーム・サーバーにこちらの情報を書き換える必要があったの
ですが、その作業が行われていませんでした。そのため、JPNICに
登録されている「rihito.co.jpはここにあるよ」という情報が、以
前のレンタル・サーバーの方を向いていたのです。DION側が書き換
えていなかった理由として、「電話で最終確認をしようとしたとき、
私が出張でいなかったために確認できなかった」からだそうです。
メールで確認してくれれば、よかったんですけどね。

 また、DION側のネーム・サーバーの記述で、rihito.co.jpが
nihito.co.jpと入力ミスされていて、つながらなかったというのも
ありました。私が記述した書類のrの文字がnに見えてしまったよう
です。このようなやり取りを経て、無事接続できたわけです。


*自分たちのネットを作ろう!

や:「まるたご屋」計画は、お友だち集団として「自由に使える専
用線があったら、何ができるだろう?」ということを考えるところ
からスタートしました。

 「まるたご屋」という名前は、「みんなで寄り集まり、ログ・ハ
ウス(丸太小屋)を建てるようにしてネット上にサイトを作りましょ
う!」という部分からきました。しかし、「丸太小屋」とそのまま
書いても芸がないので「まるたご屋」とし、「まるたご」と「屋」
の間で一息おいて発音 [注5] します。

 それはさておき、「専用線があったら、何ができるか」は、みん
な考えることだと思います。私もOCNエコノミーができた時点でそ
れを考え始めたのですが、(個人が)趣味に1か月4万円弱、年間
約40万円を払うのはやはり高い。しかし、「数人がお金を出し合え
ば、1人の金額は少なくなる」ということで、人数を集めようと思っ
たのです。

 ただ、これだけの環境ではダイヤルアップ接続の口を出すことは
できないため、職場や学校にIPリーチャブルな環境を持っていない
人は、これとは別にプロバイダ契約をしなければ利用できない。す
なわち、「単純にネットにつながりたい」人にとってはメリットが
ありません。また、「独自ドメインを使って、独立したサイトから
情報発信できるのがメリットだよ」といっても、それに魅力を感じ
る人はあまり多くないようです。大学やプロバイダから発信できる
程度で十分という人が大半ですし、比較的安い価格でレンタルWeb
サイトが提供されているからです。

 結局、複数の人から同じ金額ずつお金を集めてスタートするやり
方は無理だと判断し、メインの出資者を(私を含めて)3人集めよ
うと考えました。あとは、適当な金額をカンパ的に集めればよいと
思ったのです。そんなときに、真崎さんと話をしていて興味を持た
れたため、取りあえず私と真崎さんの2人でスタートさせました。
その結果、リヒトシステムズにDIONの専用線が引かれたのです。メ
インの出資者は3人を目標としていますが、まだ2人しか集まって
いませんから、残りの1人は現在も募集中です。[新規注]

==========
[新規注]  残りの1人は現在も募集中

私は残りの1人になり、tomo.gr.jpサイトを運営することになった
わけです。というわけで、tomo.gr.jpのインターネットサーバー
Cobalt Qube君は、1998年9月23日から、リヒトシステムズに置かせ
ていただいています。(1999.8.10 よしだともこ)
==========

Y:ところで、メインのお2人を除いて何人ぐらいの人が集まって
いるのですか。

M:だいたい10人程度でしょうか。私は会社として仕事に利用する
ので1人というより1社ですし、安田さんの方は「ばっかーず [注
6]」という40人程度の友だち集団の活動をされるため1人という
より1グループですから、人数の数え方が難しいですね。

 ネットの中に自由なサイトが欲しい人や、立ち上げるのが面白い
人など、参加者の思惑はそれぞれバラバラです。

鈴木さん(以下、S):実は私が「まるたご屋」呼びかけ人、ある
いは「まるたご屋」提唱者なんです。この計画に賛同した人の中に
は、「自分で好きなシェルを導入したい」という人から「ただ単に
好きなメール・アドレスが欲しい」人までいました。また、自宅と
のUUCP接続を計画している方 [注7] もいらっしゃいます。この方
が、UUCP接続を希望される理由は、以下のとおりだそうです。

 『電子メールさえ使えればよいなら、UUCP接続でも十分に実用的
です。自分あてのメールを受け取るだけならPOPでもよいですが、
サブドメインを作ってUUCP接続にすれば、サブドメイン側で自由に
メール・アドレスが作成できます。つまり、POPだと上流側にメー
ル・アドレスの管理を一任する必要がありますが、サブドメインを
作ってUUCP接続すればメール・アドレスの分散管理ができるわけで
す』

Y:なるほど。それは魅力的ですね。

や:このような「お友だちどうしのネット」のメリットは、個人情
報が完全に守れるということです。たとえば、人権に関するメーリ
ング・リストを立ち上げたいと思っている人がいたとしましょう。
その人が「自分がやっていることを公表したくない」とすると、一
般のプロバイダのメーリング・リスト・サービスを使うのは非常に
難しいと思います。というのも、プライバシが守られるかどうか分
からないからです。そういう場合には、知り合いが運営している小
規模サイトを利用する方がよいでしょう。

M:ネットワーク技術はあるけど発信したい情報はそれほどない人、
発信したい情報はあるけどネットワーク技術力がない人、もちろん
その中間の人も、お互いに信頼関係を持って助け合えるのが「まる
たご屋」計画のだいご味だと思います。


*中古マシンを購入してドメイン名を取得

Y:ところで、木谷さんは「まるたご屋」のサーバー・マシン 
[注8] のシステム管理者ですよね。

木谷さん(以下、K):はい。安田さんから「やってみないか」と
声をかけられ、「いままでネットワーク・サーバーは構築したこと
がなかったのでよい経験になる」と思いOKしました。

や:ドメイン名に関しては、「ばっかーず」としてすでに
bakkers.orgを持っていたのですが、JPNICの方でもgr.jpという任
意団体用ドメインが持てるようになったため、bakkers.gr.jpドメ
インを取得しました。gr.jpの申請書類には、「実印登録された印
鑑証明書」を2名分付けて提出する必要があります。「ばっかーず」
のメンバーは半分が学生ですから、「実印って何?」、「印鑑証明
は大事な書類だから、書留にした方がいいのかな?」など、かなり
のメールを交換してみんなで学習しました。

K:「ばっかーず」のサーバー・マシンはとにかく安いものを見つ
けようと、’98年5月3日、7人ほどでツアーを組んで日本橋を端
から端まで歩き回りました。Linuxをインストールする中古のPC/AT
互換機は、当初2万円ぐらいのものを探していたのですが、なかな
か見つからず、かなりウロウロ [注9] していました。結局、CPU
がPentium 133MHz、メモリ48Mバイト、ハードディスク1.6Gバイト、
ネットワーク・カードとCD-ROMドライブが付いて5万2,000円とい
うマシンが見つかったので、それを購入しました。

や:PC UNIXを導入したインターネット・サーバーは、CPUがどんな
に遅くてもメモリさえ増やせば安定して動くことは分かっていまし
た。そこで、なるだけロー・スペックなものをベースにメモリだけ
増設しようと考えていましたが、初めからメモリが十分にあるもの
と出合い、結果的に考えていたよりもハイスペックなマシンが購入
できたわけです。

K:このマシンには最初からネットワーク・カードが付いていたの
ですが、あえて別のものを買って使おうとしたら、うまく動かず、
その対応に2、3週間かかってしまいました。結局、現在はもとも
と付いていたカードを使っていますが、そのうち自分たちが信頼で
きるものに変える予定です。

Y:信頼できるカードと信頼できないカードがあるのですか。

や:イーサネットで一番問題なのは衝突(コリジョン)の問題で、
数あるカードの中にはこれを頻繁に起こしてしまうものが存在しま
す。そのため、自分たちが信頼できるカードを使った方が安全にパ
ケットを送れるわけです。

K:次に問題となったのは、BINDの設定でした。バージョンが
4.9.xから8.xに上がったことで書式の変わったファイルがあり、ど
う記述してよいのか分かりません。そこで、書店に行き、BINDに関
する書籍を探して調べました。

や:最近は、「書式が知りたいから、書店で調べよう」という時代
なんですよ。さらに、書店で見る本も、「FreeBSD(Linux)でネッ
トワーク・サーバーを構築しよう!」という類のもの、すなわち
「こう記述すれば〜ができる」ハウツー本で、概念を説明する書籍
ではありません。

 私はこれが、いまの時代の弊害だと思っています。つまり、何を
しているかについての理解を深める必要もなく、サーバー構築ハウ
ツー本を見ながら操作を終えてしまうのです。これでは、「どうやっ
たら何ができるか」にばかり目がいってしまい、概念的な理解が進
みません。

 基本的にUNIXユーザーのテクニカル度 [注10] を並べると、

 (1)カーネルが書ける
 (2)アプリケーションが書ける
 (3)makeができて、たいていのアプリケーションがインストール可能
 (4)makeはするけど、コンパイル・エラーが出たらソースを見ること
     なくギブアップ
 (5)パッケージ・インストールならOK
 (6)インストールはダメ。セットアップ作業からはOK
 (7)アプリケーションを使うだけ
 (8)コマンド・プロンプトが出たら、その時点でお手上げ

のようになると思います。現在は、PC UNIXの普及によって(5)の人
を量産していますが、その人たちは「完全なシステムを構築する」
視点がないまま本に書かれたとおりに記述し、完成とすることが多
いのです。結果として、ネット上にクラッカー向け踏み台サイトを
大量提供している状態にもなっています。

 現在の「PC UNIXでネットワーク・サーバーを作ろうブーム」で
は、かなり安い費用でサーバーが構築できるために「やってみよう」
という人々を増やしています。しかし、「完全なシステムを構築す
る」には、ネットワーク・システムについてかなり勉強しなければ
なりません。当然、より簡単なサーバー構築法が存在すべきです。

 私は、この問題に対する1つの答えとして、オール・イン・ワン
のインターネット・サーバーであるCobalt Qube [注11] という製
品に注目しています。同サーバーではMIPS上でRed Hat Linuxが動
いていますが、IPアドレスの設定は背面のボタン操作、あるいはネッ
トワーク上のWebブラウザからセットできます。私は、この「UNIX
コマンドを使うことなく、安全なサーバーが構築できる」点を非常
に高く評価しています。

Y:「安全なサーバーが構築できる」という点ですが、具体的には
どのように安全性を高めているのですか? ファイアウォールが用
意されているのでしょうか。

や:現在のCobalt Qubeには、ファイアウォール的な機能はありま
せん。セカンダリのネットワーク・カードを付けてソフトウェアを
インストールすればファイアウォールになり得ますし、実際、その
ように機能を絞り込んだCobalt Qubeも計画されています。

 ただ現状でも、アイ・エス・エスのInternet Scanner [注12] に
よってスキャンしたところ、デフォルトの状態で危険なポイントは
1つもなかったようです。この「デフォルトで穴がない」ことが非
常に大切なんですね。不必要なサービス・プログラムは起動しませ
ん。そして、CPUがIntel系とは異なるため、バイナリ・コードをバッ
ファ・オーバーランで押し込もうとするタイプのアタック・ソフト
は全部機能しません。

 OSはRed Hat Linuxなので、別に特殊なことがされているわけで
はないのですが、「初期状態で安全である」ことが大切でしょう。
ノン・テクニカル・ユーザーがネットワーク・サーバーを構築する
危険性は、そういうところに潜んでいると思います。逆にいうと、
初期状態でネットに接続するには、ほとんどのOSが「危険な状態に
ある」ということです。


*安田さん流「学生パワーの引き出し方」

Y:ところで、安田さんは、昔から本当に学生さんとよい関係を築
いていらっしゃいますね。

や:学生にシステム管理を担当させる体制を作ったのは、単純に自
分の代わりにユーザー・サポートをしてくれる人の絶対数を増やし
たかったからです。片っ端から「あれをやってみないか」、「これ
をやってみないか」と声をかけていましたね。

 ネットワークが使えるようになったことで、以前は大学内での活
動というブラックホールに吸い込まれてしまいがちだった大学生の
パワーが、外(社会)に向って働きかけることが容易になっていま
す。こんな時代ですから、大学内だけの活動で完結して満足するこ
となく、積極的に外に向かっていく学生が多くなってほしいですね。

Y:そのとおりですね。今日は、楽しくてためになるお話をありが
とうございました。


===================================================================
取材後のよしだともこの3大決心


(1)「まるたご屋」計画への参加

 取材直後、筆者は「まるたご屋」計画に参加してWebサーバーを
構築し、情報発信することを決意。真崎さん、安田さんに許可をい
ただいたあと、tomo.gr.jpドメインを取得 [注13] しました。


(2)「Cobalt Qube」の購入

 取材後、「Cobaltユーザー会 [注14]」に参加した筆者は、Webサー
バー構築にCobalt Qubeの使用を決め、Cobalt Qube 2700 Jを購入
しました。

 一辺わずか20センチ弱、重さ2.8キロのコバルト色に輝く筐体の
中では、Red Hat Linuxが動作しています。ほかにも、表1に示す
ソフトウェアがプレインストールされていました。


(3)「Namazuによる全文検索システムの構築」

 ’98年8月に「日本語全文検索システムの構築と活用 [注15]」
という書籍の原稿を読ませていただく機会がありました。これまで
にも、「サーチ・エンジン付きのWebページ」を提供することに強
い憧れはあったのですが、具体的な方法がよく分からず敬遠してい
ました。しかし、この原稿を読んで具体的な方法を理解した筆者は、
現在、Cobalt QubeのWebサーバー上でNamazu [注16]を使ったサー
チ・エンジン付きのページを構築中です。

#このページは、’98年9月、 http://www.tomo.gr.jp/  として、
公開することができました(1999.7.25、よしだ)。

===================================================================


[注1]  有限会社リヒトシステムズ

1996年8月に創業したソフトウェア・ハウス。最近のWindows技術
者不足による注文過多にあえぎながらも、海外慰安旅行をニンジ
ンに毎日深夜までキーボードをたたき続けている。住所は大阪府大
阪市北区豊崎2-5-5-407で、大阪東急ホテルや梅田ロフトの近くで
ある。[新規注]

==========
[新規注]  有限会社リヒトシステムズ

ルート訪問記に載せていただいたおかけで、昨年は社員の願いがか
ない九州への海外慰安旅行へ出かけることができました。 書籍と
なった今年はぜひとも太平洋を渡って真の海外旅行を実現したいと
ころです。
 ところで、社員が増えたことにあわせてオフィスを大阪西区京町堀
2-3-1-1003に引っ越したのですが、近所に大きな公園や居心地のいい
オープンカフェがあることもあって、いつのまにか仕事場はカフェに
なってしまいました。もちろん、専用線はカフェではなくて事務所
につながっているのですけどね。(1999.8.9 真崎理人)
==========


[注2]  同席していただき

安田さん、木谷さん、鈴木さんは、以前('95年8月号)、京都産
業大学へのルート訪問時にお話を伺った方々。これが縁でその後も
交流が続き、今回、再びお話を伺うことになった。3人の現在の所
属は、安田さん(神戸大学 経済経営研究所 機械計算室)、木谷さ
ん(京都産業大学大学院 工学研究科 情報通信工学専攻)、鈴木さ
ん(京都商工会議所 管理部経理課)となっている。ちなみに木谷
さんと鈴木さんは、'95年の取材当時、ともに学部2回生だったが、
現在では木谷さんは大学院生、鈴木さんは社会人となっており、年
月の流れを感じた。


[注3]  DIONスタンダード

第二電電株式会社ISP企画営業部が運営している128Kbps専用線。な
お、DION( http://www.dion.ne.jp/ )は、DDI Integ rated Open
Networkの略。DIONスタンダードのサービス可能域が狭いという弱
点を補うために、現在では新商品「DIONスタンダード2」が登場し
ている。詳しくは、http://www.dion.ne.jp/lan/standard2.html
参照。


[注4]  セカンダリのネーム・サーバーをいくつでも定義してくれる

DIONでは、複数ドメインのセカンダリDNSは無料だが、複数ドメイ
ンの管理料は別途必要となる。つまり、1回線に対してドメインが
1つだと追加料金はいらないが、2つになると年間5,000円、以降
1つ追加するごとに5,000円ずつプラスされる。


[注5]  一息おいて発音

これによって、「まるたご屋、おまえも悪よの」、「ほっほっほっ、
お代官様こそ」と遊ぶことができる。


[注6]  ばっかーず

ばっかーずとは、全世界を「ばか」ばっかりにするために日夜活動
している団体である。'95年活動を開始しており、団長は京都産業
大学の瀧川和子さん。'98年8月現在の会員数は40名程度。詳しく
は、 http://bakkers.org/index-j.html 参照。


[注7]  UUCP接続を計画している方

この方は、OpenBSDユーザーとしても有名な奈良女子大学の鴨 浩
靖さん。


[注8]  「まるたご屋」のサーバー・マシン

「まるたご屋」のWebページは、 http://bakkers.gr.jp/maruta/ 。
なお、中世に地中海沿岸で戦場となった都市カルタゴにちなんで、
トップ・ページではフェニキア文字を使って「まるたご」の部分が
記述されている。[新規注]


==========
[新規注]  フェニキア文字で「まるたご」を記述

「まるたご」がフェニキアの植民地「カルタゴ」を連想させるとい
う安田豊氏の発想を受けて、私がフェニキア語のフォントを拾って
きて「まるたごや」の子音mrgtyだけを拾って右から左に並べたも
のを「京都産業大学OBの味田潤君」が加工したものである。手が込
んでいる割にはその意味がもう一つ理解されていないかもしれない
(苦笑)。(1999.7.31、京都産業大学 竹内 茂夫)

==========
                                  

[注9]  かなりウロウロ

2万円の予算ではディスク容量が少なすぎる(IDEの512Mバイト)
ものしか見つからなかった。しかし、あきらめの悪さからウロウロ
していたところ、予算オーバーではあるが非常にお買い得なマシン
が見つかったらしい。


[注10]  UNIXユーザーのテクニカル度

現在のUNIXユーザーは、(5)の人の割合が一番多いようだ。5年、
10年(!)前は、「(1)、(2)、(3)の人がいて、間がいなくて(6)、
(7)の人がいる」という感じで、(6)、(7)の人もいずれは((1)は無
理にしても)(2)、(3)、(4)に入ることを目指すのが前提だった。
いまは、ほとんどの人がそのレベルを目指していない。それだけ、
UNIXユーザーの層が広がったということだろう。


[注11]  Cobalt Qube

Cobalt Networks,Inc.( http://www.cobaltnet.com/ )が開発し
たインターネット・サーバーで、日商エレクトロニクス、ADAMNET、
ぷらっとほーむ、ふぁすとばっく、日本テレマティークなどから日
本語化された製品が販売されている。なお、すでにオフィシャル・
ユーザーズ・グループのページ( http://cobaltqube.org/ )も存
在する。筆者が購入した日商エレクトロニクスの窓口の方は、山本 
圭さん(kyamamot@nissho-ele.co.jp)である。「ルート訪問記で
見た」といえば、少しお安くなるかも。


[注12]  Internet Scanner

アイ・アイ・エスが開発したネットワーク・セキュリティの弱点
(セキュリティ・ホール)の分析などを行うソフトウェア。詳しく
は、 http://www.isskk.co.jp/prod/isb.html 参照。


[注13]  ドメインを取得

JPNICが発行しているドメイン名情報は、whoisコマンドで調べるこ
とが可能。さらに、 http://www.nic.ad.jp/cgi-bin/whois_gate/
でも調べられる。


[注14]  Cobaltユーザー会

'98年7月25日(16:00〜18:00)、第2回Cobaltユーザー会が大阪
市天神橋筋6丁目のten6/d'Boxにて実施された。詳しくは、
http://cobaltqube.org/  参照。


[注15]  日本語全文検索システムの構築と活用

’98年9月24日、ソフトバンクから発行(ISBN4-7973-0691-2)さ
れた書籍。著者は、'97年10月号でルート訪問した馬場 肇さん。
構築に必要なソフトウェアが付属のCD-ROMに収録されている。


[注16]  Namazu

高林 哲さんが開発した、GPL2に準拠する小規模でお手軽な全文検
索システム。詳しくは、 http://openlab.ring.gr.jp/namazu/ 参
照。



以上


(UNIX USER誌連載「よしだともこのルート訪問記」より)
http://www.tomo.gr.jp/root/ に戻る