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第40回 快適UNIXユーザーから陰の力持ち「システム管理者」への転身



1998年7月号 UNIX USER誌掲載「ルート訪問記」の過去記事

第40回 快適UNIXユーザーから陰の力持ち「システム管理者」への転身

今回は、A’BOXにある株式会社エイエムエス [注1](以下AMS)の
菊岡順子(きくおか じゅんこ)さんを訪ね、AMSとA’BOXのネット
ワーク環境や菊岡さんのお仕事、とくにシステム管理についてお聞
きしました。


*サーバーにはUNIXとWindows NTの両方を利用

私(以下Y):こんにちは。京都の町中に、このようなマルチメディ
ア関係の会社が集まった芸術的なスペースがあるとは思ってもいま
せんでした。このA’BOXというスペースは、いつごろできたのでしょ
うか。

菊岡さん(以下K):A’BOXでマルチメディア工房としての活動が
スタートしたのは1994年で、私が入社する2年ぐらい前のことでし
た。A’BOX自体は、その5年前(’89年)から「クリエータにより
よい制作環境を提供する」という目的で活動を始めており、映像や
写真関係のクリエータへのサポートとして、AMSが貸しスタジオな
どを運営していました。その後、これがマルチメディア工房に発展
し、A’BOX内にネットワークが張り巡らされることになりました。

Y:AMSとA’BOXは、どういう関係にあるのでしょうか。

K:AMSというのが私の所属する会社で、

A’BOXというのはこの場所(建物)の名称です。この建物の中には、
ビデオ企画制作の会社、CG制作会社、デザイン会社、MAスタジオ、
撮影スタジオ、写真ラボなどが入っています。AMSは、滋賀県大津
市に本社のある「綾羽株式会社」のグループ会社で、A’BOX内の会
社の母屋としての役割を持ちつつ、独自に各種マルチメディア・コ
ンテンツの制作活動も行っています。

 たとえば、 ’97年12月に京都で実施されたCOP3(地球温暖化防
止京都会議) [注2] のインターネット中継プロジェクトにおいて、
私の上司に当たる八田雅哉(取締役プロデューサ)が映像・音声部
門のディレクタを担当しました。COP3のインターネット中継は、7
か国語同時通訳のために複数のサーバーを使うなど、ネットワーク
技術という側面から見ても非常に興味深いプロジェクトでした。

 それから、当社が映像・音声を担当し、ほかの会社と共同で制作
した祇園祭のCD-ROMが、「MULTIMEDIA GRAND PRIX ’97パッケージ
部門公共サービス賞」を受賞するなど、質の高いものを作り出して
います。

 A’BOXのよいところは、映像・音声・CG・デザイン・写真といっ
た専門分野の優秀な会社が集まっていることです。「専門的な会社
が集まることで、よりよいデジタル・コンテンツを提供できる」と
いう点で、A’BOXは広告宣伝・番組制作といった幅広い範囲での総
合力を誇っています。そして、その複数の会社間での共同作業を可
能にするネットワーク環境を提供しているのが、AMSなのです。

 当初は、「外部プロバイダと契約して、A’BOX内の会社間ネット
ワーク環境を提供しよう」という予定だったのですが、その後「内
部でサーバーを持とう!」となり、A’BOX内部でWebサーバーとメー
ル・サーバーを立ち上げることになりました。さらに、1年半ほど
前からは「アムズアイネット [注3]」というプロバイダ業務も行っ
ています。同プロバイダは、年会費1万円で使い放題、ホームペー
ジも5Mバイトまで無料と、なかなかお得です。

Y:そうですね。ということは、A’BOX内部用とプロバイダ業務用
の2つのネットワークが存在するわけですね。

K:はい。A’BOX内部はamsnet.co.jpドメイン、プロバイダ業務は
amsinet.ne.jpドメインとなっています。また、A’BOXの館内サー
バーにはWindows NTが、プロバイダ業務のサーバーにはSolaris
(for x86)が2台使われています。さらに、クライアントには
WindowsやMacintoshがあるので、UNIX、Windows、Macintoshの混在
環境といえます。A’BOX 内の会社は、自由にインターネットが利
用できるようになっており、違う会社間でもかなり自由にデータ交
換可能な環境を実現しています。これが、複数の会社で1つのマル
チメディア・コンテンツを制作するときに、大いに役立っているわ
けです。

 A’BOX内では複数の会社が1つのネットワークを共有しています
から、「AMSのシステム管理者である」ことは、同時にA’BOX全体、
すなわち複数の会社のシステム管理者ということになります。AMS
社内でシステム管理を仕事の一部にしているのは私だけですが、技
術サポートに関してはNetIRDの西村昌明さん [注4] にお願いして
います。西村さんは、以前ルート訪問記に登場されたこともありま
すね。

 プロバイダ業務用のサーバーは、西村さんがUNIXを使って構築さ
れました。一方、館内サーバーの方は、1年ほど前まで私と同じ部
署にいらした先輩が構築・運用していたのですが、その方が別のグ
ループ会社に異動され、私が担当しなければならない状況になりま
した。こちらの運用に関しても、西村さんに協力していただいてい
ます。

Y:つまり、現在はUNIXとNTの両方のサーバーが使われているわけ
ですね。

K:実は、プロバイダ業務用のサーバーを決める際、館内サーバー
と同じWindows NTにすることがほぼ決まっていました。しかし、私
が大学で4年間、UNIXを使っていたことを西村さんにいうと、「そ
れなら、サーバーはUNIXにしよう! [注5]」となったのです。

 SolarisにはApache(Webサーバー)、sendmail(メール・サーバー)、
INN(ニュース・サーバー)が、Windows NTにはIIS(Webサーバー)、
sendmail with POP3 for NT(メール・サーバー)がそれぞれ導入
されており、後者ではニュース・サーバーを立ち上げていません。

 大学時代、ずっとUNIXを使っていたとはいえ、私の出身大学(立
命館大学BKC [注6])ではUNIX環境やネットワーク管理が行き届い
ていたこともあり、単にユーザーとして使用していたにすぎません。
また、1回生のときに、Windows 3.1を少し使った以外はずっと
UNIXユーザーでしたし、情報学科に所属していたためにUNIXやプロ
グラミングの授業も受けてはいましたが、ネットワーク管理につい
ては詳しくありませんでした。

Y:UNIXの場合、ユーザーとして使うのとシステム管理やネットワー
ク管理をするのでは、必要となる知識が違いますよね。私も、快適
な環境でUNIXを使っていた時期が長いので、その気持ちはよく分か
ります。

K:ネットワークの調子が悪くて、電子メールが届く場所と届かな
い場所ができるという事態が一度発生したのですが(新しいソフト
ウェアをインストールすると直りました)、大学時代、電子メール
は確実に相手に届くものだと思っていたので、なぜこういうことが
起こるのか不思議で仕方がありませんでした。

Y:陰の力持ち「システム管理者」が作り出す快適なネットワーク
の偉大さは、それがなくなって初めて気がつくものなんでしょうね。


*コンピュータ=プログラミングするもの

Y:ところで、小さいころからコンピュータに興味があったのです
か。

K:中学1年くらいのとき [注7] に、父親がテレビにグサッとつ
なげてBASICのプログラミングができるパソコン(マイコン)を買っ
てきました。ほとんどわけも分からず、

Hello! World

と画面表示させて喜んだり、本に書いてあるプログラムをそのまま
入力し、「ハノイの塔」ゲームなどを作ってカセット・テープに保
存して遊んだものです。

 その後は、コンピュータから遠のいていたのですが、大学で情報
学科に進み、プログラミングの勉強をするようになりました。大学
にあるコンピュータは、WindowsでもUNIXでも、コンパイラがすぐ
に使える状態になっていたこともあり、私の中では「コンピュータ
=プログラミングするもの」という図式が出来上がっていきました。

 そのため会社に入って初めて「人が作ったソフトウェアを使うも
の」としてパソコンを使う人々と出会い、カルチャー・ショックを
受けました。コンパイラが入っていないWindowsマシンを使う先輩
社員の方に「プログラミング開発はしないのですか!?」と不思議そ
うにたずねたことさえありました。

Y:ところで、菊岡さんはどういうきっかけでAMSに就職したので
すか。

K:学生時代、研究室(画像処理)の先生の紹介で、(就職を前提
としたアルバイトとして)AMSのホームページを中心としたコンテ
ンツ制作を担当したことがきっかけです。アルバイト期間は私がど
れだけできるのか試されていたようで、いつの間にやら就職が決まっ
ていました。

Y:「就職を前提としたアルバイト」で就職が決まるなんて、学生
にとっても企業にとっても理想的ですね。大学4回生は、就職活動
のために授業や卒業研究に集中できないうえに、多くの企業を訪問
すればそれだけ交通費などもかかる [注8] でしょう。菊岡さんは、
現在もコンテンツ制作の仕事をされているわけですか。

K:はい。CD-ROMの制作や、Webコンテンツ制作を担当しています。
WebコンテンツのCGIは、Perlで書いています。

 CD-ROM制作とWebコンテンツ制作は共通する点も多いのですが、
1つ大きく違う点があります。CD-ROMは一度焼いてしまったら直せ
ないため、焼く前には非常に注意深く内容を検討しなければなりま
せん。一方、Webコンテンツは、間違いに気がついたときにコソっ
と直すことも(やろうと思えば)できますから、その点ではCD-ROM
制作と比較して少し気が楽ですね。


*UNIX対Windows、そしてシステム管理の仕事

Y:大学ではUNIX、会社ではWindowsを使っているということなの
で、この2つを比較していただきましょうか。

K:いま考えると、UNIXのネットワーク機能は大変便利だと思いま
す。大学時代、全学年が自由に使えるコンピュータ実習室と、自分
の所属している研究室の両方で別のUNIXマシンを使っていました。
どちらの前に座っていても、telnetでもう一方のUNIXマシンにログ
インし、

% setenv DISPLAY ホスト名:0.0

のように入力してから、起動したいXアプリケーションのコマンド
名を入力すれば、自分がいま使っているUNIXマシンのX上に表示さ
れるんですから。ただ、そのとき、

% xhost +ホスト名

と入力して、もう一方のマシンからのアクセスを許可しておく必要
もありましたね。

 また、大学時代、旗が立つことでメールの着信を知らせてくれる
xbiff [注9] も使っていましたから、メールの着信というのは
「常に監視しておくもの」と思っていました。このような使い方が
「UNIX特有のもの」だったことは、UNIXを使わなくなってから知り
ました。

 それから、UNIXにはユーザー管理の概念があるため、自分に届い
たメールが他人の目に触れることはあり得ないですよね。でも、会
社に入った当初、他人と共有していたWindows 95のマシンでは、他
人に届いたメールでも読めてしまうことに驚きました。先輩から
「読まれたくなかったら、消せばいいだけのこと」といわれたので
すが、妙な感じがしました。

 ただ、大学でUNIXを使い始めた当初は、Muleの操作 [注10]、た
とえばカーソル移動がC+nキー(次の行)や C+pキー(前の行)
だったり、メールの送信がC+c C+cキーだったりするのが覚えに
くかったうえ、突然、わけの分からないモードになってしまってパ
ニックに陥っていました。その点では、一般的なWindowsのソフト
ウェアは「初心者にも親切かな」と思います。操作がメニューで選
べたり、適当にマウスをクリックしていれば、やりたいことができ
てしまうのですから。

 でも、UNIX上のgrepコマンド [注11] やsedコマンドで簡単に文
書処理できたことや、Mule上で、たとえばPCやMacintoshなどで作っ
たテキスト・ファイルの行末に付いている余分な“^M” [注12] を
取っていたことが懐かしいです。行末に付いた“^M”を消す方法は、

M-x query-replace-regrep

と入力しリターンとすると、「どの文字列を?」という意味で、

Query replace regexp: 

のように置換前の文字列を聞かれます。そこで“^M”と入れてリター
ンとすると、

with: 

と置換後の文字列を聞かれるので、今度は何も入れずにリターンと
すると“^M”の部分にカーソルが飛びます。確認の画面でLーあ
るいはyキーで実行、Dキーあるいはnキーでスキップ、!キーなら一
括変換されるんですよね。

Y:機能文字としての“^M”を画面入力するためには、C+q C+m
キーを入力する必要がありますよね。でもこれは、だれかが教えて
くれないと、どのように入力してよいのか分かりません。これらの
ユーザー・インタフェースは、初心者には使いやすいとは思えませ
んが(笑)、慣れてしまえばこちらの方が便利だと思えるから不思
議です。

K:大学時代にはとてもUNIXに詳しい同級生がいて、本当にいろい
ろと教えてくれました。UNIXの絶対パス名と相対パス名 [注13] に
ついて、授業では分からなかったときも、その同級生に教えてもら
いました。

Y:UNIXの昔ながらのインタフェースは、周りに詳しい人がいてコ
ンピュータに向かう時間が長い人に適していると思います。大学時
代の菊岡さんが、その典型ですね。逆に、詳しい人に恵まれていな
い場所でたまに使う場合は、メニュー形式で機能が選べる方が便利
ですよね(コラム)。

 ところで、菊岡さんは現在、UNIXに詳しい人が隣にいない環境だ
と思いますが、UNIX関係、とくにシステム管理関係の質問はどうし
ているのですか? 雑誌や書籍を読んでも解決できないこともあり
ますよね。

K:それは、NetIRDの西村さんに聞いて解決しています:-)。

Y:では、最近、西村さんに聞いたことを紹介してください。

K:システム管理に関しては、「私はこんなことも知らなかったの
か」と愕然とするような話が多いので恥ずかしいのですが……。先
日、地区停電があったんですよ。コンピュータはすべて無停電装置
が付いているのですが、取りあえず1台ずつ終了させていって、
Solarisを終了させようとして、私自身、一度もこのマシンをシャッ
トダウンしたことがないことに気づいたんです。

 西村さんに電話して、「停電なんですけど、シャットダウンした
方がいいですか?」と聞くと、「そりゃそうですね」という返事だっ
たので、「あのー、シャットダウンのためのコマンドは何でしょう?
 [注14]」と聞き、

# init 0   [注15]


だということを教えてもらいました。「こうすれば、内部でsync
(シンク)の機能が働いて、正常に終了できる」といわれ、「syncっ
て何でしょう?」と聞いてしまいました。

Y:syncについて、西村さんはどのように説明されましたか。

K:UNIXでのディスクの読み書きでは内容をいったんメモリにバッ
ファリングし、一定の間隔ごとにデーモンがディスクに書き込んで
います。このため、ある時点で突然電源が切れると、メモリの内容
とディスクの内容に不一致が起こるんです。メモリの内容とディス
クの内容を明示的に同じにするのがsyncコマンドで、synchronize
(同調する)の最初の文字だと教えてもらいました。

 それから西村さんに「ゾンビ・プロセスができている」といわれ
て、「ゾンビって何ですか?」と聞いたこともありました。これは、
killコマンドでは強制終了させることができず、マシンを再起動す
る必要があるプロセスのことだそうです。

Y:psコマンドのステータス・フィールド(STAT)が、“S”は活
動中、“I”はアイドル中で、“Z”になったプロセスがゾンビです
ね。

 では最後に、これからの抱負をお願いします。

K:システム管理の業務に関しては、まずは「西村さんにもっと難
しい質問をしたい!!」ですね。また、コンテンツ制作の仕事に関し
ては、現在は単に「デジタル化」というような仕事も多いのですが、
もっともっと人に感動してもらえるようなものが作れればと思って
います。

Y:なるほど。今日は、どうもありがとうございました。次は、西
村さんも交えておしゃべりできることを楽しみにしています。



[注1]  株式会社エイエムエス

1962年に設立された綾羽グループの会社。マルチメディア時代に必
要とされるハイレベルなコンサルティング、ソフトウェア制作、コ
ンシューマ・サービスなどの事業展開を行っている。住所は京都市
中京区西ノ京銅駝町48。同社のホームページは
http://www.amsnet.co.jp/ 。


[注2]  COP3(地球温暖化防止京都会議)

’97年12月1日〜10日に京都で実施された国際会議。COP1は’95年
にベルリンで、COP2は’96年にジュネーブで開催されている。同会
議のインターネット中継については、“Conference on Demand”
( http://www.cop3.ckp.or.jp/index-j.html )参照。実施のシ
ステム概念図( http://www.cop3.ckp.or.jp/system.html )も公
開されている。


[注3]  アムズアイネット

AMSが行っているプロバイダ( http://www.amsinet.ne.jp/ )。年
会費1万500円(税込)で使い放題、ホームページは5Mバイトまで
無料で使える。問い合わせ先は、
メール・アドレスがinet@mb.amsnet. co.jp、電話が
075-821-2131(FAX:075-821-6534)。


[注4]  NetIRDの西村昌明さん

’97年8月号の本連載(タイトルは「学生時代に踏み出したベテラ
ン・ルートへの長い道のり」)で取材させていただいた方。
今回、菊岡さんを取材できたのも、西村さんの紹介のおかげである。


[注5]  サーバーはUNIXにしよう!

西村さんによると、サーバーにはUNIXを使った方が安定性の高いネッ
トワークが構築できるが、運用する際に「リストを見る、DOSのdir
に相当するUNIXコマンドは何でしょう?」という電話がかかってく
るようではお互いに大変だと思い、Windows NTを導入するつもりで
いたらしい。しかし、菊岡さんが元UNIXユーザーと分かった瞬間、
「サーバーはUNIXに変更だ!」と叫ばれ、一夜のうちにSolarisへ
と華麗な変身を遂げたそうだ。


[注6]  BKC

’94年4月、理工学部が全面移転してオープンした滋賀県草津市に
ある「びわこ・くさつキャンパス」のこと。立命館大学には、この
ほかに衣笠キャンパス(京都市)がある。BKCオープン当初は、
UNIXを中心とした最新のネットワーク環境が話題となり、東のSFC
(慶應義塾大学の湘南・藤沢キャンパス)、西のBKCといわれた。 

’98年4月からは、経営学部、経済学部もBKCに移転している。BKC
において学生が自由に使えるUNIX環境は非常に整っており、UNIXの
主なフリー・ソフトウェアはすべてインストールずみで、ユーザー
向けの操作マニュアルも用意されている。インターネット環境はも
ちろん、画像データを扱うImageMagickや文書処理のTeX環境なども、
(学生は何もしなくても)最初から使えるように整備されている。


[注7]  中学1年くらいのとき

菊岡さんが中学1年というと’86年ごろとなり、この時期、テレビ
と接続してBASICのプログラミングができたパソコン(マイコン)
の機種とはいったい何であろうか?


[注8]  交通費などもかかる

交通費の問題よりも、就職活動のために授業に出席できなかったり、
卒業研究などの学業に打ち込めないというデメリットの方が大きい
だろう。


[注9]  xbiff

X上でメールの状態を監視し、着信すると旗を立てて知らせてくれ
るツール(ちなみに米国では、基本的に郵便ポストには旗が付いて
おり、郵便を入れた配達員がその旗を手動で立ててくれるらしい)。
xbiffの応用形として、Kazuhiko Shutoh氏が作成したxpbiff
(Popup biff for X)というフリー・ソフトウェアも存在する。こ
れは、郵便が届いてないとき、届いたときのそれぞれの画像に、自
分が作ったビット・マップ画像が使えるうえ、旗が立った瞬間に、
届いたメールの相手先とSubjectを画面表示してくれるという優れ
もの。


[注10]  Muleの操作

Muleでは、“M-x help-with-tutorial-for-mule”と入力すること
によって、画面にチュートリアルを表示できる。“Language: ”
(言語は何にしますか?)という問いに“Japanese”と入力すると、
日本語版が表示される。なお、本文中の“C+c C+c”という表記
は、Cキーを押しながらcキーを2回押すことを意味しており、通常、
“C-c C-c”と表現される。


[注11]  grepコマンド

ある特定のパターンを検出するために使われるコマンド。「grep 
パターン ファイル名」で、ファイルの中から指定したパターンを
含む行を検出する。


[注12]  行末に付いている余分な“^M”

これは、改行を示す機能文字がUNIXではLF(^A)、Macintoshでは
CR(^M)、DOS(Windows)ではCR+LF(^M^A)というように異なる
ために起こる問題である。たとえば、Windows上で作成したテキス
ト・ファイルの行末には“^M^A”が付いているため、これをUNIXの
テキスト・ファイルとして表示させた場合には、余分な“^M”が画
面表示されてしまう。


[注13]  絶対パスと相対パス

ルート・ディレクトリ(/)を起点としてファイルの位置を示すも
のが絶対パスであり、カレント・ディレクトリを起点としてファイ
ルの位置を示すものが相対パスである。


[注14]  シャットダウンのためのコマンドは何でしょう?

大学時代、菊岡さんは主にX端末を使っていたため、シャットダウ
ンのためのコマンドを入力する機会はほとんどなかったようだ。


[注15]  init 0

サン・マイクロシステムズのWSの場合は、柘top+aキーを押すとモ
ニター・モードになるため、ここでsyncコマンドを実行してメモリ
の内容をハードディスクにダンプしてもシャットダウンできる。PC
ではこういった機能がないので、いったんルートでログインして、
「init 0」や「shutdown」でシャットダウンしなければならない
(西村さんによる補足)。


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コラム ユーザー・インタフェース

UNIXの昔ながらのインタフェース

 筆者自身は「周りに詳しい人がいて、コンピュータに向かう時間
が長い人」としてUNIXを使ってきました。さらに、「インターネッ
ト(とくに電子メール)を使うにはUNIXが基本」という時代からの
UNIXユーザーだったため、UNIXの昔ながらのインタフェース、すな
わちコマンド・ラインからの実行や、Muleなどの中から「Cキーを
押しながら何らかのキーを押す」ことに、それほど違和感は感じて
いませんでした。しかし最近のように、「詳しい人に囲まれていな
いうえ、コンピュータに向かう時間が短い人」が、このインタフェー
スを使い込むのは難しいかも……とも思っています。

 ご存じのように、UNIXのインタフェースにはよい面もたくさんあ
りますが、コンピュータを使うこと自体は本質ではなく、何かした
いこと(情報の整理・収集・発信・交換)を助けるツールでしかな
い場合、より簡単に扱えた方が好ましいこともあるでしょう。たと
えば、「電子メールにシグニチャ(署名)を付けたい」とか「届い
たメールを印刷したい」と思ったとき、メニューを少し触っていれ
ばその方法が理解できるインタフェースは、(それはそれで)魅力
があると思います。とくに、詳しい人(先輩や先生)に対して教わ
る人(後輩や学生)の数が多かったり、その教育に使える時間的な
制約がある場合、この環境はより重宝されるでしょう。

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(UNIX USER誌連載「よしだともこのルート訪問記」より)
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