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第39回 UNIXを用いたシステム構築から誕生したGopher



1998年6月号 UNIX USER誌掲載「ルート訪問記」の過去記事

第39回 UNIXを用いたシステム構築から誕生したGopher

今回はGopher [注1] を開発されたMark P. McCahill氏にお話を伺
うため、米国ミネソタ大学 [注2] Shepherd研究所を訪ねました。
McCahill氏はGopherやURL [注3] の規格(RFC 1436、RFC 1738)
の作者でもあります。Gopher開発にまつわる話、および同開発グルー
プが現在携わっているプロジェクトについてお聞きしました。


*Gopherは学内ネットワーク構築から誕生

私(以下Y):はじめまして。私は、日本で「UNIX USER」という
月刊誌に記事を書いているよしだです。学生時代、ミネソタ州に短
期留学していたことがあるため、ミネソタ大学で開発されたGopher
には以前から興味を持っていました。

 Gopherというのはミネソタ州など北米に住む動物の名前 [注4] 
で、ミネソタ州立大学のマスコットでもありますよね。しかし、日
本でGopherのことを動物だと分かる人はほとんどおらず、インター
ネットで用いられるサービス(プロトコル)としか認識されていま
せん。

  私は常々「Gopherの開発関係者を取材できれば、ミネソタ大学で
開発されたプロトコルが、なぜGopherという名前なのか雑誌で紹介
できるのに」と思っていたところ、今回、ここミネアポリスに住む
Jim Winsor氏がGopherの開発関係者を紹介してくださったおかげで、
取材を決行できました [注5]。

Mr. McCahill(以下M):「Gopherの開発関係者を取材したかった」
ということですが、私はGopherの開発において、プロジェクト・リー
ダーをしていました。

Y:リーダーの方にお会いできて光栄です。まずは、このプロトコ
ルが開発されることになった歴史的な背景からお話ししていただけ
ますか。

M:このプロジェクトは、ミネソタ大学内のネットワーク構築が始
まったときにスタートしました。当時(1980年代後半)、大学全体
で1つのネットワーク・システム(全キャンパス向けのスーパー掲
示板)を作ることが流行しており、多くの大学がキャンパスの個々
のシステムを1つにまとめようとしていました。ほとんどの場合、
IBMのメインフレームをVT100端末や3270エミュレータ端末から利用
していたのです。

 このような状況において、私たちは「情報を作り出す人々が使っ
ている計算機自体を、情報提供用にも使いたい」と考えました。す
なわち、「1つの集中管理的な計算機が情報を配る」という考えか
ら脱皮し、「各所に散らばった計算機をネットワーク化して使用」
したかったのです。

 このシステムの構築にはUNIXサーバー、およびMacintoshとPC、
UNIX用クライアントをそれぞれ作成することになったわけですが、
1か月半という短い期間で稼働させたかったため簡単にコード化す
る必要がありました。このとき、簡単にプログラムが作成できるよ
うなプロトコルとシステムを作ったことが、結果的にGopherプロト
コルの普及を促進することになりました。

 なお、各クライアントおよびサーバーの初期バージョンについて
は、Paul Lindner氏がUNIXサーバーを、Farhad Anklesaria氏が
Macintoshのサーバーとクライアントを、Dan Torrey氏がPCクライ
アントを、Bob Alberti氏がUNIXクライアントをそれぞれ書き、同
時に開発を開始しました。そして、まず最初にFarhad氏が
Macintoshサーバーの動作確認をし、その後、各クライアントの動
作確認作業に移りました。

 これが’91、’92年の春の話ですからずいぶん昔のことで、私に
は古代の歴史のように思えます。


*GopherサーバーにはSunOSとNeXTを使用

M:初期バージョンのUNIXサーバーには、SunOSとNeXT [注6] を
使いました。私が担当したのはNeXTに全文検索エンジンを組み込む
作業で、これによってGopherサーバー上で情報を検索する部分を作
りました。

 当時はキーワード検索が一般的だったのですが、「キーワード指
定の大変さ」および「簡単な文書の場合には、キーワード指定しな
いことが多い」ことから、キーワード検索よりも「全文インデック
スを自動生成して検索に使う」全文検索を用いることにしました。
ちょうど、NeXTマシンには全文検索ソフトウェアが付属されていた
のです。これが、全文検索システムGopher誕生のきっかけとなりま
した。

 そしてついに、大学内にあるいくつかのサーバーで運用する段階
になりました。まずはキャンパス内ネットワーク・システムのメー
リング・リストに、

  便利なシステムを開発したよ。これで1つの集中管理された計算
  機を使う必要がなくなるよ。

というアナウンスを流し、技術的に興味深いデモができる文書を用
意しました。このデモは、料理の調理法(レシピ)閲覧や全文検索
ができるように、ネット・ニュースのcookbookから情報を取り込み、
Gopherで利用できるようにしたものでした。

 次第にほかのサイトにおいてもGopherが使われるようになり、料
理レシピのような一般的な文書や、技術的なサポートのFAQなどの
情報がサーバーにアップされました。当初、10〜20程度のサイトで
使われればよいと思っていましたが、その予想をはるかに超えるサ
イトがGopherを使ってくれることになり、大成功を収めたのです。

 Gopherがこれほど普及した理由は、インストールが簡単だったか
らでしょう。インストールした人が、次々とUNIXサーバーにアクセ
スしていきました。また、「他人がまとめた情報を、文献として参
照できる」という部分も重要だったと思います。Gopherクライアン
トをインストールするだけで、自分自身はほとんど作業せずに便利
な環境が手に入るわけですから。さらに、「非常によいタイミング
でリリースできた」ことも普及の大きな要因でしょう。

 また、興味深い点として、日本や中国などで使われる漢字のサポー
トもあげられます(コラム)。最初の数か月間で、「Gopherでは漢
字がうまく使えそう」ということが分かりました。Macintoshクラ
イアント部分の担当者が日本語を勉強したことのある優秀なプログ
ラマであったため、彼がMacintoshクライアントに漢字表示機能を
追加しました。

 その後の数年間、Gopherはますます発展しました。より多くの人
がインストールすることで各サーバーからさらに多くの情報が入手
可能となり、自己増殖的に広まっていったのです。

 Gopherが成長していった時代 [注7] というのは、現在のような
高速ネットワーク環境はなく、計算機自体も高速ではありませんで
した。このため、Gopherをテキスト・ベースのシステム [注8] と
しました。しかも、当時はインターネットの商用利用を禁止する規
則(AUP:Acceptable Use Policy)もあったので、広告文書に対す
る配慮はしていませんでした。その後、これらの状況は大きく変化
していきます。すなわち、ネットワークとコンピュータが高速化し、
商用利用に関する規則も変わりました。このことが、画像を多用し
た広告文書の表示ができるWWWに最適な状況を作り出し、広く普及
することとなったのです。


*Gopher開発メンバーとUNIXとのかかわり

M:’80年代後半から’90年代初頭の基本的な運用モデルは、UNIX
サーバーを使用するものでした。UNIXサーバーは扱いやすくて高速、
かつ融通が利くため、本研究所でも1台所有していました。これを
使えば、メインフレームの運用担当者と話をすることなく、自分た
ちで自由にMacintoshやPCとのインタフェースをセットアップでき
たのです。

 そのような理由もあり、私たちはGopher開発以前にもUNIXに関連
した電子メール配送関係のプロジェクトに従事していました。UNIX
の電子メール配送システムは非常に優れていましたが、使いこなす
にはある程度のスキルが必要だったのです。つまり、一般ユーザー
にとってUNIX上のElm [注9] は操作が複雑で使いこなせるもので
はありませんでした。

本学においても技術者以外では、メール・パッケージと格闘しなが
ら「もっと簡単な方法があれば……」という人がいたのです。そこ
で私たちは、Gopher開発の1〜2年前にMacintoshやPC上のクライ
アントから電子メールが読み書きできるシステム(UNIXのメール・
サーバーに対してPOP [注10] を利用したもの)を開発しました。
これによってGopherを開発するための専門知識が身につきましたし、
また初期のGopherクライアントにはここで使用したコードを多用し
ていました。

 このように、われわれのUNIXサーバー利用の歴史はGopherよりも
古いわけですが、 ’80年代後半にはMacintosh上で動くアップル純
正UNIXのA/UX [注11] を使用していました。この理由は、1番安く
入手できるUNIXだったからです。当時、サン・マイクロシステムズ
のWSはだれもが憧れるスーパー・マシンでしたが、非常に高価なた
めに私たちのグループでは1台だけしか導入できず、代わりにA/UX
を活用していました。

 A/UXはサン・マイクロシステムズのUNIXほど優秀ではありません
が、十分実用に耐えるものでした。そこで、デスクトップ・マシン
がより速いMacintoshにリプレースされるたびに古いマシンをクロー
ゼットの中に置き、その上でA/UXを走らせてサーバーに仕立てていっ
たのです。


*現在進行中のプロジェクト

M:Gopherの開発後も、われわれは同じような考えでシステムを開
発しています。現在のプロジェクトもGopher開発メンバーと進めて
おり、やはりサーバーにはUNIXを使っています。

 進行中のプロジェクトは主に2つあり、1つは“Forms Nirvana
 [注12] ”(Formsは稟議書や購入依頼書のような書類)というも
のです。ある人が書いた書類は、通常、紙に印刷して回覧し認可さ
れますが、これを完全に電子化してしまおうというのが“Forms
Nirvana”です。データベース・システムとしてOracleを走らせた
UNIXマシンをサーバーにし、現在書類がどこを回っているのか常に
把握します。そして、デジタル署名の暗号技術を使うことで、本当
にその人がサインしたものかを確認します。同システムによって、
大学内の物品購入依頼に要する期間が約10日間短縮できます。しか
も、紙を使っていたときよりも、会計元帳の内容をより鮮明に提示
できるようになります。

 2つ目のプロジェクトは、本学職員の予算の実行提案書作成を援
助するものです。“National Institute of Health”や“National
Science Foundation”では、提案書の書き方に独自のガイドライン
がありますが、これが大変複雑な構造となっています。そこで私た
ちは、質問に答えていくだけで自動的に提案書が作成されるソフト
ウェアの開発に着手しました。同ソフトウェアは記述に関する全規
則を把握しており、ユーザーに次々と質問するようになっています。
システムとしてはデータベースにOracleを、インタフェースにWWW
プロトコルを使っています。このように、現在でもサーバーとして
UNIXを活用していますね。

Y:ところで、McCahillさんがリーダーをなさっているグループは、
何という名前なのでしょうか。

M:“Information Technology”という組織の中にある、
“Academic and Distributed Computing [注13]”というグループ
です。私のグループでは、主に新しいソフトウェアと新しいシステ
ムを開発しています。いったん稼働し始めると、運用自体は別の組
織に移管するため、このグループで構築するネットワークはスパゲ
ティやヌードルの大皿のようなものです。別の組織に移管される時
点で、よりきれいなネットワークになります。

Y:ミネソタ大学のネットワーク管理・運用は、別の組織が担当し
ているというわけですね。

M:はい、そうです。“Networking and Telecommunications
System”という組織が、学内のネットワークと電話関係のシステム
の両方を管理・運用しています。

Y:McCahillさんが所属するグループのメンバー数を教えていただ
けますか。

M:約15名です。このほかにプログラミング以外の仕事をしている
人がいます。

Y:グループのメンバーはミネソタ大学出身なのでしょうか。
McCahillさん自身は、いかがですか。

M:そうですね、別の大学出身者もいますが、私自身を含めてほど
んどが本学出身です。私は、学生時代に化学を専攻していました。
ところが、化学を専攻すると決めたあとで、あまり好きでないこと
に気づきました。データを得るために実験室にいるよりも、データ
を分析するためにコンピュータを使っている方が好きだったのです。
それに、コンピュータを使う方が、化学の実験よりもきれいなんで
す。ビーカーなどを洗う必要がありませんからね。

Y:McCahillさんの年齢をお聞きしていいですか。

M:42歳です。

Y:数年前まで、日本の大学では電子メールを読むためにUNIXを使
わなければなりませんでしたが、最近ではMacintoshやPCのクライ
アントが使われるケースが増えています。ミネソタ大学ではいかが
ですか。

M:本学では5〜6年前に、すべての教員、職員、学生に電子メー
ルのアカウントを発行し始めました。このアカウントはUNIXマシン
で用意していますが、スタート当初、多くの人はUNIXマシンのアカ
ウントは使わずPOPクライアントからメールを読んでいました。
UNIX上でMHやElmなどを使いたい人には、UNIX上でメールを読む環
境も提供していました。

 最初の1、2年はそれでもよかったのですが、より多くの人が使
用するようになるとサービスの運用に問題が生じてきました。UNIX
のアカウントをインタラクティブに使う場合、POPを利用する場合
と比較してより多くのシステム・リソースが必要となります。とい
うのも、POPクライアントがサーバーのメールを取ってくる場合、
メールを読んでいる最中はサーバー側のリソースを使用しないから
です。私たちが調査したところ、アカウントをUNIX上でインタラク
ティブに使う場合には、POPやIMAP [注14] のクライアントよりも
約30倍のリソースが必要でした。

 そこで、運用方針を少し変更しました。POPクライアントからメー
ルを読み書きする場合は全員無料ですが、UNIX上でインタラクティ
ブに使いたい場合には有料としたのです。現在では、大多数の人が
POPクライアントを無料で使い、少数が有料でUNIXを利用していま
す。工学部に所属するテクニカルな学生は、研究室のUNIXへアクセ
スするために多少の費用を負担しているのです。

Y:なるほど。でも、学校機関でPOPクライアントを使ってメール
を読み書きする場合にも問題があると思います。学生は常に異なる
マシンを使用しているため、取り込んだメールをどのマシンに置い
たのか分からなくなってしまうのではないでしょうか。

M:それについては、POPを拡張したプロトコルおよびソフトウェ
アを新たに作成し、この問題を回避しています。読み手が削除しな
い限り、すべてサーバー側に保存されます。ただ、こまめに削除し
なければロード時間が長くなることが、不要メールの削除を促進し
ています。これは、サーバー側ディスク・スペースの開放にも役立っ
ています。

 上記の問題を回避するためにIMAPを使うことも検討しましたが、
複雑な機能を持っているため、「一般の人が使うには難しいのでは
ないか?」と感じました。ここでも平均的な人のことを心配したの
です。スマートな(頭のよい)人は自分で解決するから問題ありま
せんが、平均的な人に対してはこちらで考える必要があります。

Y:なるほど、そのとおりですね。ところで、Gopher開発時に、漢
字を使うユーザーのことまで考慮して機能を付加した点に興味を持っ
たのですが。

M:Gopherにおいて日本語表示をサポートしたかった理由は、太平
洋の向こう側にあるサーバーの内容を日本語表示させれば、素晴ら
しいデモになると思ったからです。たとえば、リンク先に飛んだと
きに日本語のページが表示されるとします。こちらの人はページの
内容は読めませんが、画面に漢字が表示されていることがグローバ
ルという意味で効果的なデモになるわけです。

Y:余談ですが、私はWnnという日本語/中国語/韓国語の入力シス
テムに関するドキュメントや、Muleという多言語対応Emacsエディ
タのドキュメントも書いています。McCahillさんは、Emacsを使っ
ていらっしゃいますか。

M:いいえ。私はviを使っています。Emacs派とvi派の間では、宗
教戦争がありますね。

Y:はい。私はEmacs派です。日本語を入力するには、viよりも
Emacsの方が使いやすいのです。私の友人には、プログラムを書く
ときはviを使い、日本語の文書を書くときはEmacsを使っている人
がいます。

M:私はプログラマで、しかも日本語の文書は書きません。

Y:そうですね。日本語を入力・表示するには、文字コードのこと
も考えないといけないのが面倒です。といって、日本語が使えなく
ても困ってしまうんですが……。

M:私が現在かかわっているプロジェクトの1つでも、使える文字
の種類は問題になっています。たとえば、ASCIIコードだけが使え
る状態ではギリシャ文字が入力できないため、数学記号として使用
したい数学の教授はギリシャ文字の部分を最悪の場合、手書きで対
応しなくてはなりません。

Y:ASCIIコードを拡張 [注15] する主な方法は、ISO 2022と
Unicodeですが…… [注16]。

M:Unicodeは実用段階にはなっていません。そうかといって、グ
ラフィック・イメージの外字などを使って対処すると、データベー
スでの検索で困ります。米国でも使える文字の種類の問題は、深刻
になりつつあります。

Y:英語圏である米国でも問題になっていたのですね。話は変わり
ますが、McCahillさん自身はクライアントとして何を使っています
か。

M:Macintoshです。サーバーがUNIX、クライアントがMacintoshと
いうのが私のお気に入りの環境で、Macintoshの中ではPowerBook
3400が理想的なマシンです。これなら、どこへでも持ち運べますか
らね。

 “Academic and Distributed Computing”内には、非常にXが好
きで自分のデスクにサン・マイクロシステムズのWSを置く人もいま
すが、私自身はXに夢中になったことはなく、クライアントとして
はMacintoshの方が好きです。


*LinuxとWindows NTについて

Y:最近、日本ではLinux人気が高まっていますが、こちらではど
うでしょう。

M:Linuxは、テクニカルな人々にとても人気があります。私がも
しPowerBookを使っていなかったら、ノートPCにLinuxを導入してい
たことでしょう。Linuxは優れたOSであり、私も大好きです。ただ
問題は、システムを提供する側の人間としてLinuxを用いた場合、
ディレクタやマネージャに「Linuxはよいシステムだ」ということ
を説得する必要があることです。Solarisを用いれば、彼らは無条
件で安心します。名前を聞いたことがあるからです。私たちが作成
したソフトウェアの安全性を説明するだけでも大変なため、Linux
がいくらよいOSだとしても、現在開発しているような大きなシステ
ムではSolarisを選択するしかありません。

Y:私は技術者でない人たちにも、Linuxという名前を知ってもら
えるような記事が書きたいと思っています。

M:Linuxのアピールの仕方として、「ソフトウェアというものが、
何もないところから全世界のボランティアの手によって育てられ、
進化することがあること」を強調する方法もあります。ソフトウェ
アが、何でもかんでもマイクロソフトから出てくる必要はないので
す。

Y:マイクロソフトといえば、Windows NTをWebサーバーやメール・
サーバー [注17] に使っていこうとする動きがありますね。

M:こちらでは、それほどテクニカルでない人がサーバーを構築す
る場合、Windows NTにソフトウェアをバンドルしたマイクロソフト
製品を選択しているようです。ただ、私たちが恐れているのは、
「Windowsでは拡張性に問題がある」ことです。もし、システムが
大成功して、多くのサーバーをより高速に運用しなければならなく
なった場合、UNIXを使っていた方が安全です。たとえば、サン・マ
イクロシステムズはマルチに処理できる非常に高速なマシンを作っ
ていますし、データベースのOracleでも大規模なアプリケーション
においてはマイクロソフトよりも優れています。

 つまり、UNIXが適している場合と、Windows NTが適している場合
があるわけです。現状では、「企業の基幹システムで使う場合には
UNIXを、1人で構築するような小さなサーバーではWindows NTを用
いる」という選択がなされているようです。

 私自身は、システムとして長い期間経験を積んでいる [注18] と
いう点でUNIXに好感を持っています。セキュリティ・ホールがきち
んと理解され、多くの場合すでにフィックスされていますからね。

Y:なるほど。「サーバーは、やはりUNIXが理想」というのが、今
日の取材の結論になりますね。Gopherの開発の背景やその前後に開
発されたシステムについてお聞きできたことで、「Gopherが突然で
き上がったものではなく、UNIXをサーバーとしたサーバー/クライ
アント方式のシステム開発の中で生まれてきたもの」ということが
よく分かりました。今日はどうもありがとうございました。


 その後、筆者はミネソタ大学の図書館でGopherプロトコルに関す
る書籍や文書をコピーし、生協で胸にGopher(大学のマスコット名
やスポーツ・チーム名など)と書かれたTシャツなどを買い、大学
内にある“Bell Museumn of National History”で写真を撮り、大
学を後にしました。


[注1]  Gopher

「ゴーファー」と発音する。インターネット上に分散している文書
の検索や取り出しを定めたプロトコルで、アプリケーションはサー
バー/クライアント方式で動作する。Gopherクライアントからはツ
リー構造のユーザー・インタフェースを使って、それぞれのGopher
サーバーに置かれた文書をたどっていく。日本のGopherサーバーと
しては、 gopher://gopher.ncc.go.jp/ などが有名。
現在では多くのWebブラウザで、Gopherクライアント機能をサポート
している。


[注2]  ミネソタ大学

1851年、米国中北部のミネソタ州(州都St. Paul)に創立された大
学( http://www.umn.edu/ )。Twin Cities (Minneapolis、
St. Paul)、Duluth、Morris、Crookstonという4つのキャンパス
があり、 ’97年秋期の学生数は6万6135人。ちなみに、ミネソタ
州に本社のある3M(ポストイットでも有名)の社名は、Minnesota
Mining Manufacturingの頭文字から命名されている。


[注3]  URL

Uniform Resource Locatorの略。インターネット上の各種情報リソー
スにアクセスする手段(使用する通信プロトコル)とリソースの名
前を指定する規格。書式は“プロトコル名://サーバー名/ファイ
ル名”のとおりで、指定できるプロトコルにはHTTP、NNTP、FTP、
Telnet、Gopherなどがある。


[注4]  動物の名前

「ほりねずみ」、または「ほりりす」。地下で生活する北米産の動
物で、ほお袋を持っている。なお、ミネソタ州には“Gopher State”
という愛称がある。


[注5]  取材を決行できました

Mr. Jim Winsor と Mrs. Judy Winsorは、 ’81年にホームステイ
させていただいて以来、筆者がアメリカの両親として慕っているミ
ネソタ州ミネアポリス(の郊外Bloomington)に住む夫妻。 ’98年
3月上旬、筆者がミネソタに滞在した際は、大変お世話になり感謝
している。


[注6]  NeXT

’88年10月に発表され、 ’89年に出荷開始した多機能WS。OSには、
Mach(Multiple Asynchronously Communicating Hosts)と呼ばれ
るカーネルが搭載されている。現在、同WSは製造されていないが、
OS部分がOPENSTEPとして販売されている。


[注7]  Gopherが成長していった時代

これは、’91年からの数年間のこと。Gopherの成長を示したインター
ネットの歴史が http://www.isoc.org/internet-history/ で見るこ
とができる。また、

  インターネットの歴史の年表
  http://www.isoc.org/guest/zakon/Internet/History/HIT.html

によると、 ’91年はインターネットの歴史において重要な年であっ
たといえる。主な出来事は、「アメリカでCIX(Commercial
Internet eXchange:商用ネットワークどうしが直接相互接続した
相互乗り入れ拠点)協会の設立」、「WAIS(Wide Area
Information Servers)のリリース」、「Gopherのリリース」、
「WWW(World Wide Web)のリリース」である。


[注8]  テキスト・ベースのシステム

GopherではWWWのようにインラインのイメージ表示はサポートして
いなかったが、画像データ自体はダウンロードしてブラウザで表示
できた。ハイパーリンク形式のユーザー・インタフェースを持つ
Gopherは、FTPよりも断然使いやすかった。


[注9]  Elm

Electronic Mail for UNIXの略。UNIX上でメールを読み書きするア
プリケーション。フル・スクリーンのソフトウェアとして、
/bin/mailやmailxの代わりに使用できる。


[注10]  POP

Post Office Protocolの略。メール・クライアントが、メール・サー
バーにアクセスして電子メールを取得するためのプロトコル。


[注11]  A/UX

SVR2をベースとした、アップル純正のMacintosh用UNIX。A/UX上の
1プロセスとして、Mac OSが動作する。このほか、Macintosh用
UNIXには、Mac OS上のアプリケーションとして動くMachTenや、
NetBSDを移植したNetBSD/Mac68k、AtariのMiNTを移植したMacMiNT
などがある。詳しくは、
http://www.sra.co.jp/people/hoshi/unix-for-mac.html 参照。


[注12]  Nirvana

サンスクリット語の「吹き消すこと」、「消滅」という意味から、
ヒンズー教では「生の炎の消滅」、仏教では「涅槃(ねはん)」を
表す言葉。取材時に筆者は、「ラスベガスのある、ネバダ州のこと
ですね」というトンチンカンな受け答えをし、とても恥ずかしい思
いをした。


[注13]  Academic and Distributed Computing

同グループが、ミネソタ大学のネットワーク構築やサポートの技術
部隊となっている。詳しくは、 http://www.umn.edu/adcs/ 参照。


[注14]  IMAP

Interactive Mail Access Protocolの略。POPよりフレキシブルな
活用が可能なプロトコル。POP3ではメールをサーバー側から取り込
むだけであったが、IMAPはサーバー上のメールを操作することが可
能。たとえば、最初にヘッダー情報だけを取り出し、そのあと選択
されたメールの本文だけを取り出すような使い方ができる。IMAPを
サポートしたメーラーとしてはPineが有名。


[注15]  ASCIIコードを拡張

ASCIIコードを拡張する文字コードの種類が紹介されているWebペー
ジ(http://www.kudpc.kyoto-u.ac.jp/~yasuoka/CJK.html)が
興味深い。


[注16]  Unicodeですが……

Javaの国際化にはUnicodeが採用されているが、これを使えばただ
ちに国際化できるわけではない。情報処理学会の会報誌「情報処理」
の’98年4月号に、「Javaの国際化」や「Unicode問題」について
多くのページを割いて掲載されており、興味深い。アメリカ人は文
字コードについて無関心なのかと思って話を切り出したところ、深
刻な問題だといわれたため、「この分野では米国より日本が先進国
ですよー」とアピールしてきた。


[注17]  Webサーバーやメール・サーバー

Windows NTのWebサーバーIIS(Inernet Infomaition Server)
やApache NTなどが使用されている。


[注18]  経験を積んでいる

システムとして長い期間経験を積んでいる。英語では“UNIX has
been around for quite a while”と表現されていた。なお、本稿
の“English Draft”(英語版)と日本語の対訳版が、
translate.htmlで読める。


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コラム Gopherの日本語サポートの歴史

 ’93、’94年当時のGopherにおける日本語サポートの状況を紹介
しましょう。

●’93年の状況

 Gopherサーバー(gopherd)は当初より8ビットを通す構造であ
り、とくに問題なく日本語を扱うことができました。

 UNIX環境でのGopherクライアントとしては、主にMule(NEmacs)
が利用されており(gopher.elを使用)、これによって日本語以外
の文字コードについても表示可能でした。また、Xgopherを使うこ
とで、日本語EUCについても問題なく表示できました。

 一方、Macintosh環境ではTurboGopher(the Macintosh Gopher
client)の使用によってシフトJISのみサポートされ、その後、 ’
93年10月にリリースされたTurboGopher 1.0.8b1で、

 ・ “Japanese Filtering”オプション選択時、日本語文字コー
ド(日本語EUC/JIS/シフトJIS)で書かれた日本語メニュー名が表
示可能

 ・Osakaフォントが選択され、かつ“Japanese Filtering”オプ
ション選択時、日本語文書が表示可能

のようなJapanese Language Support機能が、ミネソタ大学の開発
者であるDeve Johnson氏の手により追加されました。当時の状況は、

gopher://gan1.ncc.go.jp:70/1m/INFO/jp-gopher-news/1993/EUCgopher://gan1.ncc.go.jp:70/1m/INFO/jp-gopher-news/EUC を参照しました。


●’94年の状況

 ’93年の状況に加えてMosaicなどの選択肢が増え、主な環境としては、

 ・UNIX Gopher Cursesクライアント+日本語対応ターミナル+日本語対応ページャ
 ・Nemacs/Mule+gopher.el
 ・Xgopher+日本語ターミナル・エミュレータ+日本語対応ページャ
 ・Xgopher+国際版Athena Widget
 ・TurboGopher+KanjiTalk
 ・Mosaic for X 2.1+Multi-Localization patch

となりました。

 当時の状況は、松永賢次氏によってネット・ニュースにポストさ
れた「gopher/supplement(Gopherの日本における事情などの補足
を目的とした文書)」
http://cpsun3.b6.kanagawa-u.ac.jp/HomePage/documents/FAQ/net/gopher-faq-j.txt
を参照しました。

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■参考文献

@F. Anklesaria, M. McCahill, P. Lindner, D. Johnson, D. Torrey,
B. Alberti,“The Internet Gopher Protocol (a distributed document
search and retrieval protocol)”, RFC 1436, University of Minnesota,
March 1993( ftp://ds.internic.net/rfc/rfc1436.txt )

AF. Anklesaria, M. McCahill, P. Lindner, D. Johnson,
D. Torrey, B. Alberti,“Gopher+: Upward compatible
enhancements to the Internet Gopher protocol”, University
of Minnesota, July 1993
ftp://boombox.micro.umn.edu/pub/gopher/gopher_protocol/Gopher+/Gopher+.txt 

BT. Berners-Lee, L. Masinter, M. McCahill, “Uniform
Resource Locators(URL)”, RFC 1738, December 1994
( ftp://ds.internic.net/rfc/rfc1738.txt )

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追記

実は、この記事の「一般ユーザーにとってUNIX上のElmは操作が複
雑で使いこなせるものではありませんでした」という記述に関して、
読者の方から、「Elmの操作は複雑ではない」という投書がありま
したので、次の号('98年7月号)に、以下の補足を掲載しました。

Elmの操作性

 ここで、前回の記事に対しての補足をさせていただきましょう。 

’98年6月号のルート訪問記の中に、「一般ユーザーにとってUNIX
上のElmは操作が複雑で使いこなせるものではありませんでした」
(98ページ)という文章がありました。これは「Elmの操作が難し
い」という意味ではなく、「日常的にUNIXを使ってない一般ユーザー
が、メールの読み書きのときにだけUNIXを使わざるを得ないのでは、
操作が複雑で……」という意味でした。つまり、通常はWindowsや
Macintosh上で「メニューをクリックして……」という操作しか行っ
たことがない人たちが、UNIXのコマンド・ラインからコマンドを入
力して操作すること自体が難しいということでした。

 ElmはELectronic Mailの略であると同時に、Easy-to-Learn Mail
programの略であるともいわれており、MHなどに比べて操作が簡単
なようです。そのため、前回の文章が読者に「Elmを使うのが難し
い」という誤った印象を与えたこと、また「Elmは操作が簡単」と
利用を促進している方に不快な印象を与えたことを深くおわびしま
す。

  実は、もともとは英語の原文(We don't think that we can
train average users to use "Elm".)の直訳「平均的なユーザー
に、Elmを使えるように訓練できるとは思いません」が意訳され、
このような誤解される文章になってしまいました。

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http://www.tomo.gr.jp/root2/ に戻る
UNIX USER誌連載「よしだともこのルート訪問記」by tomo@tomo.gr.jp