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第18回 ネットワークを再構築するのは、大学最強のお笑いコンビ



1996年7月号 UNIX USER誌掲載「ルート訪問記」の過去記事

第18回 ネットワークを再構築するのは、大学最強のお笑いコンビ[新規注]

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[新規注]   大学最強のお笑いコンビ

『大学最強のお笑いコンビ』というのが、全学教授会で認定されて
いませんので、『大学最強(仮称)のお笑いコンビ』とでもしません
か(笑)。(1999.8.1、大垣 斉)
==========


今回は、大阪産業大学 [注1] 工学部情報システム工学科の大垣斉
(おおがき ひとし あんでれ)さんと、同じく情報システム工学科
の中村孝(なかむら たかし)さんを訪ね、同大学で1995年4月か
ら1年間にわたって行われた「大学教育用次期システム構築プロジェ
クト」について、学内ネットワーク整備を整備し、インターネット
へのIP接続を実現された際の話をお聞きしました。


*UUCP接続からIP接続までの道のり

私(以下Y):中村さん、ごぶさたしています。大垣さん、はじめ
まして。大阪産業大学は、外部へのIP接続と同時に、IPアドレスの
サブネット化 [注2] とサブドメイン化 [注3] を実現されたとい
うことですので、そのあたりのお話を聞かせていただきたいと思い
ます。

中村さん(以下N):では、今回のプロジェクトにいたるまでの、
歴史的な経緯を順番に説明していきましょう。

 私が赴任してきた6年前は、ちょうど工学部に情報システム工学
科ができたときなのですが、すでに、FDDI [注4] によるネットワー
クが構築されていました。しかし、パソコン演習室のパソコンとWS
とがイーサネットでつながっていただけで、外部とは一切つながっ
ていませんでした。せっかくのFDDIもまったく生かされていない環
境だったのです。

Y:中村さんとは8年ぐらい前にメールを交換した記憶があるのに、
その後、音信不通になっていましたよね。その理由を、いま思い出
しました。電子メールの届かない大学に移られたからだったんです
ね。

N:私がここに赴任して1年ほどたった’90年、いまは大阪市立大
学におられる村田先生が、自分の研究室のマシンを大阪大学の研究
室のマシンにUUCP [注5] で接続されました。そのおかげで、やっ
とネットワークが外部に接続され、外部と通信できる環境が整いま
した。

大垣さん(以下A):翌年には、環境がずいぶん整ってきました。
電子メールだけではなく、ネット・ニュース [注6] の購読もスター
トしました。ネット・ニュースに関しては、まだすべてのニュース・
グループではありませんでしたが。

 その後、村田先生が大阪市立大に移られてからは、私たちがその
マシンの管理を引き継いで運用してきました。JPNIC [注7] のデー
タベースには、「運営責任者:中村、技術責任者:大垣」と登録さ
れています。

 UUCP接続の時代は、ネット・ニュースは3日遅れ、電子メールは
30分ごとのポーリングで運営していました。3日遅れると、ネット・
ニュースの議論には参加できず、悲しい状況でしたが。

N:そんな悲しい運用を学科内で続けているうちに時代は流れ’95
年に入ると、学科ごとにばらばらにコンピュータを運営しているこ
れまでの体制を見直し、新しい大学全体のシステムを考えようとい
う「大学教育用次期システム構築プロジェクト」がスタートしまし
た。整備期間は’95年度の1年間で、学内のネットワークを充実さ
せ、同時に外部ネットワーク、具体的にはORIONS [注8] に専用線
(512Kbps)でIP接続 [注9] することになりました。

 この学校には、大学全体の部門として「情報科学センター [注10]」
があり、ここに大型計算機を設置して、事務業務と学生のFORTRAN
 [注11] の実習に使っていました。今後は、大型計算機だけではな
く、WSを核とした学内ネットワークの運用にも本センターの管轄を
広げていくことになったのです。

 「情報科学センター」の下に、私たちのような教員も入った「運
営委員会」という組織があります。その下に今回、「ネットワーク
専門委員会(委員長は中村さん)」という組織を作り、作業を進め
ていきました。すなわち、「情報科学センター」の下に「運営委員
会」があり、その下に「ネットワーク専門委員会」があるという形
です。

この委員会では、これまで大型計算機を使って行っていた授業を、
NetWare [注12] を使って運用していこうという意見もありました。
しかし、われわれが詳しいのはUNIXによるコンピュータ・ネットワー
クの方面なので、NetWareについてはそれに詳しい先生に別に集まっ
て進めてもらうという方針をとりました。

A:ネットワーク専門委員会が、実際に顔を合わせて行う会議は月
に1度程度でしたが、情報は頻繁に流すようにしていました。非公
式ですが、メーリング・リスト [注13] を作って、「こんな風にやっ
ていきたい」という文章をどんどんと流しました。

Y:「文句がある人は発言してね。黙っていたら承諾ね」という方
向で、主担当者が複数のメンバーにメールをバンバン流すという、
オーソドックスなメーリング・リストでしょうか。

N:いえ。メールを使っていない方もおられたので、メールはあく
までも補助的なものにとどめることにし、正式な決定は会議で決め
ていきました。

 去年(’95年)の10月には、ついに専用線 [注14] でORIONSと物
理的につながりました。普通の人の感覚だと、「線が物理的につな
がったんだったら、もう使えるんでしょう」というところです。し
かし、実際は違いますよね。そこから、彼の奮闘が始まったのです。


*IP接続とサブネット化とサブドメイン化を同時に実施した理由

Y:いよいよ、「IP接続、サブネット化、サブドメイン化同時実現!」
というあたりの話に入っていくわけですね。

N:うちの大学は、’91年のUUCP接続時でクラスB [注15] を取得
していました。しかも、UUCP接続なのに133.64というとても若いIP
番号をもらっていたのです。

A:よく、返せといわれなかったものです [注16]。:-)

N:しかも、アドレス担当者は当初よく事情を分かっていなかった
ようで、クラスBをサブネットで切らずにフラットに割り振ってい
ました。最終的には、1000台を超えるマシンを1つのネットワーク
につないでいる状態でした。さらに、番号の振り方も学校独自の方
針で決められていて、計算機の世界では通じない割り振り方でした。
たとえば、教育用は3桁目を1にして、研究用は3桁目を0にする
といった調子です。

 そのため、以前からサブネット化の必要性を感じていましたが、
各マシンのIPアドレスを変更しないといけなくなるでしょう。普通
に使用しているマシンのIPアドレスを変更するのは大変なことです
から、なかなか実施できずにいたのです。今回は、ちょうどいい機
会だったといえるでしょう。

 「IP接続されました。インターネットを使うには、IPアドレスを
変える必要があります。この番号に変更してください」といえば、
分かりやすいでしょう。これで、ウソはいってませんよね。

A:12ある各学科にDNSサーバー [注17] を設置して、ネットワー
クの分散管理をしようということになりました。そこで、
SPARCstation 5 [注18](HDDのみ2.1Gバイトに増設)を12台導入
し、これの設定は私が担当することになりました。[新規注]

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[新規注]   SPARCstation 5 を12台

担当者(つまり私)の趣味でこのマシンのOSは Solaris 2.x でなく、
SunOS 4.x です。この夏休みに Y2K 対策のパッチを当てる予定で
す。(1999.8.1、大垣 斉)
==========

 ネットワークの管理を各サブドメインに移管することで、将来的
には情報科学センターでする仕事(これがわたしに回ってくるので
すが)を減らせるという見込みがあったので、あえてわたしが12台
すべてのサーバーを設定することにしたのです。ただ、日程が少々
タイトでした。12台のサーバーが納品(SunOSはインストールずみ)
されたのは2月半ばで、そこから1台(自分の学科用)のセットアッ
プをして、残りの11台に設定をコピーし、各学科用に変更する作業
を4週間で行わなければなりませんでした。これに加えて、IP接続
とサブネット化の準備も必要でした。最終的な日程を書いてみまし
たので、参考までに紹介します(表1)。

-----表1----

「サブネット化、サブドメイン化、IP 接続」同時実現の具体的な日程


  1996年3月18日    午前:サブネット化に関してルーターのメーカーと打ち合せ
	           午後:サブドメインサーバーの最終確認
       	3月19日    サブドメインサーバー11台への環境のコピー
                   (卒業式は失礼させていただきました)
        3月21日    サブドメインサーバーを各学科に配布
        3月22日    サブドメイン化完了、サブネット化完了、
                   UUCPからIP接続へ移行完了

-----表1おわり----


 サブドメインの下に接続されている各マシンのネットワーク設定
は、こちらで「設定の手引書」を作成して配布し、各ユーザーにやっ
てもらいました。しかし、すんなりその日のうちに設定できたのは、
私のところだけだったと思います。

N:最近は、WSを買ったらOSのインストールまで業者がしてくれる
でしょう。IPアドレスの設定とか、ネット・マスク [注19] やデフォ
ルト・ルート [注20] の設定、ホスト名の設定まで、普通のユーザー
さんはしたことがないケースがほとんどです。だから、きちんと動
いていれば、何がどのように設定されているかは意識していないユー
ザーが大多数なんです。[新規注]

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[新規注]   何がどのように設定されているかは意識していない

流行りの GNU/Linux System でも、大抵はインストール段階で、マ
シンのホスト名や IP Address を聞いてきて設定してくれますよね。
後からそれらを変えようとして、『どうしたらいいか判らない』と
いう質問が、Linux Users メイリングリストにも流れていますね。
(1999.8.1、大垣 斉)
==========

Y:最近のWSのユーザーというのは、そうなんですよねえ。昔のユー
ザーとは違って恵まれていますよねえ。

N:昔は、VMSが動いているVAX-11 [注21] のHDDを外し、UNIXの入っ
たディスクに入れ替え、CTRL+pから立ち上げて、ブート・コマン
ドを入力して起動していました。よしださんもその時代から、UNIX
を使っているんでしたね。

Y:はい。それが、’84年ぐらいのことですよね。私のところでは、
VAX上でVMSが動く時間とUNIXが動く時間とが決められていたように
記憶しています。

N:VAX-11の750と780の時代ですね。UNIXのバージョンは、たしか
4.2 BSDだったと思います。1MIPS [注22] のマシンを複数の人で
使っていましたから、3〜4人でコンパイルすると、動かなくなり
ましたね。昔話は、話し出したらきりがないので、このへんでやめ
て本題に戻りましょう。

 「ユーザーは、IPアドレスやネット・マスクを設定したこともな
いのだから、変更できなくて当然だ」という話をしていました。そ
こで、こちらが用意する手順書は、「これこれの設定を行ってもら
います。具体的に、SunOS 4.xの場合は……。Linux+JEの場合は……」
と、かなり親切なものにして、各ユーザーに配布しました。その後、
別の先生方から、Solaris 2.xとHP-UXの場合の操作手順をもらって
追加しました。

 この資料には、Netscapeのproxy [注23] などの設定や、Windows
やMacintoshから学内ネットワークに接続する場合の設定について
の説明も含んでいます。

 ユーザーのうち、自分で変更できるだろうと思ったのは工学系の
学科だけで、経営、経済は苦しいということは最初から分かってい
ました。彼らにしてみれば、何もしなくてもこれまで平和に動いて
いたのに、急に設定が必要になったというのが納得できなかったと
思います。

A:センターの仕事を押し付けられているという印象を持ったみた
いです。

N:われわれにしてみればいちいちセンターに行って、センターに
申し出て何かしてもらうより、各ドメインが学科単位で自分たちで
何でもできるようになることはうれしいことなのですが、そうでな
い学科も多かったというわけです。大型計算機の時代のスタイルを
好むユーザー層ですね。

 自分たちでサブドメインのシステム管理をするのが大変な学科に
対しては、私たちがメンテナンス用にルートと同じ権限を持つ別の
ログイン名を用意し、そのアカウントでリモート・サポートしてい
ます。この程度は序の口で、極端な例として、サブドメインのサー
バーに電源が入っていないということもありました。電源が入って
いないマシンに対しては、こちら側からはどうしようもありません
からねえ。

 今後、運用面で学生にどのように使わせていくかなど、これから
詰めていかなければいけない点は残っていますが、なんとか無事’
95年度中に学内ネットワークが構築できて、ほっとしているところ
です。

Y:ところで、FireWall [注24] は厳重に作っておられるのですか。

A:FireWallに関しては、極力フリーにしています。外から入るの
に関して、一部制限を設けていますが、学内から出るのは極力フリー
にしているのです。FireWallの情報は、あちこちから少しずつ情報
を得るのが秘訣です。さまざまなノウハウを少しずつ盛り込んでお
けば、どのようなFireWallなのか、他人からは分かりにくくなりま
すから。[新規注]

==========
[新規注]  情報は、あちこちから少しずつ得る 

これは、『サンダーバード2号を修理する時に、いろんなところか
ら部品を少しづつ集めた、そうすればなんの修理か判らない』に相
当します。2号が無国籍の未確認の航空機として海軍に攻撃されて
エンジンにダメージを追う、しかたないので海軍の軍艦に4号を運
んでもらって救助に行くというエピソードなのですが、SF(系)ヲタ
ク(のはずの)中村師匠は『その話は知らない』そうです。
(1999.8.1、大垣 斉)
==========

N:マルチIP [注25] の話もしてはどうでしょう。

A:本学では、クライアント数を多く確保しなければならない都合
上、FDDIのルーターで21ビットのネット・マスクを設定しようと考
えていました。各FDDI間は、RIP [注26] でパケットを流すことに
しており、ネット・マスクの幅が全部同じであればRIP-Iが使える
ものの、サーバーのUNIX系ネットワークはすでに24ビット・マスク
で設定してありました。そうなると、ネット・マスクの幅が可変の
RIP-2を使わないといけないことになります。ただし、UNIX系OSの
routed [注27] はRIP-1しか扱えないので、今回はRIP-2の採用は見
送られました。

 そうこうしているうちに、ルーターの1つのポートに複数のアド
レスを割り振る「マルチIP」設定ができるとの話をメーカーから聞
き、さっそくそれを使うことにしました。ネットワーク全体は24ビッ
ト・マスクで運用されており、本来ならサブネットを設定すると
254台分 [注28] のアドレスしか割り振ることができないのですが、
マルチIPの採用により、それ以上の台数分のアドレスがサブネット
上で使えるようになるのです。

通常のルータだと次のイメージですね(ネットマスク21bitの場合)。

	====================================== FDDI
			[Router]
			   |
		X----------+--------------X 133.64.32.0/21


これだと、C Class相当のネットワークが1つでいいサブネットも、
8つ必要なサブネットもすべで、同じ数のIPアドレスを割り当てる
ので、無駄ができます。また、一部に古いOS(4.2BSDなど)では、ネッ
トマスクは8bit単位でしか設定できないので、ルータないし、どこ
かのマシンでproxyを設定しておかないとルータを越えて通信でき
ないのです。

一方、マルチIPの場合は、次のようになります。

	====================================== FDDI
			[Router]
			   |
		X----------+--------------X	133.64.32.0/24
						133.64.33.0/24
						133.64.34.0/24

すなわち、24bitのネットマスクを持つサブネット複数個を物理的
に1つのネットワークに混在させることができます。大阪産業大学
では、

	サブネット		Default Route
	133.64.32.0/24		133.64.32.1
	133.64.33.0/24		133.64.33.1
	133.64.34.0/24		133.64.34.1

となるようにしています。これで、各サブネットに必要な数のIPア
ドレスを無駄なく割り当てることができますし、ネットマスクも
255.255.255.0なので面倒な計算は不要になります。

 このマルチIPを、われわれのように100以上設定するケースは珍
しいようで、ルーター [注29] のメーカーから、「200まではテス
トしてありますので、大丈夫だと思いますが……」といわれ少々不
安だったものの、一応きちんと動いています。[新規注]

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[新規注]   一応きちんと動いている

ところが、物理的に同じ支線でもサブネットが違うとルータ経由の
通信になるので、ルータに負荷がかかるのです。ネットワークが遅
いという話で、ルータとFDDI関係を担当してる会社に調査してもらっ
て、その結果ルータの OS のヴァージョンをあげたら以前より不安
定になりました。;_;

学内から対外ルータ(専用線の本学側)まではほとんど遅延が
ないのに、ORIONS 側ルータ(専用線の ORIONS 側)はトラフィック
が増えると遅延が大きくなります。どう見ても、FDDI やルータで
なく、専用線の速度が問題だと思います。(1999.8.1、大垣 斉)
==========


*スーパー・ユーザーでログインしたまま9日間……

Y:最近、別の学校で、「ネットワーク整備担当業者の仕事の質が
低くて困る。結局は技術をよく知っている内部の人間がすべて設定
する羽目に陥り大変だった」という話を聞いたのですが、こちらで
はいかがでしたか?

N:うちの業者さんもいろいろありました。一番はやっぱり、あれ
でしょうね。業者さんがルートでログインして、ログアウトしない
で9日間ほったらかしにしていたというものです。これでは、WSを
使って仕事をする資格はないでしょう。

A:「ここから立ち入り禁止」というドアの先にあるマシンですか
ら、学生がスーッと入ってくる場所ではないんです。でも、とくに
鍵がかかっているわけでもないので、やっぱりその9日間はものす
ごく危険な状態だったわけです。

 それから、業者の技術さんとの打ち合わせに、私が「bit別冊イ
ンターネット参加の手引き」 [注30] と「インターネットの使い方」
[注31] を持参したところ、「へえ、先生こんな本あるんですね。
帰りに本屋で買って帰ります」という反応が返ってきたこともあり
ました。これらの本は、コンピュータ・ネットワークを構築する者
にとってのバイブルでしょう。だから、「えっ、この本の存在を知
らんの?」と驚いてしまったというか、あきれてしまったというか。

Y:業者さんをあまり批判してはいけないとは思いますが、ちょっ
と許せないものはありますねえ。

N:こちらとの意思の疎通がうまくいかなかったという理由による
ものもあったとは思います。一度、「今後は、連絡を密にいたしま
す」といわれたのに、それからもまったく連絡が入らなかったこと
がありました。「もしかして、その「密」というのは、連絡をより
甘くするという意味の「蜜」だったの?」といいたくなりました。:-)

Y:密?  蜜?  分かりました。中村さんのお話って、面白いですね。

A:学祭で2人で漫才をしようかと思っているのですが、2人のボ
ケ・ツッコミは、技術的なネタが多いので、学生が勉強不足だと笑
えず、ちょっと苦しいかもしれません。[新規注]

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[新規注]   技術的なネタが多いので、ちょっと苦しい

一部の大学院生がやっとついてきてくれるようになって嬉しく思っ
ています。横にいる学部生がついてこれないというのはしばしばで
すが…。(1999.8.1、大垣 斉)
==========

 以前、学生が「バイトします」といってきたので、「ワードの方
が効率ええで」と何気なくいったら、「先生、それなんですか? 
ワードってバイトより儲かるんですか?」とまじめな顔で聞かれた
ことがありました。

N:Wordより一太郎の方がええんちゃう?

A:ジャスト嫌いやから、一太郎はいやや。

N:ジャストって洗剤のことちゃうの?

Y:急に漫才を始めないでくださいよ。それも大阪弁で。:-)

A:中村先生、ネタのためだけにスパークという名前の洗剤を買っ
てきて、SPARCstationの横に置いてるんですよ。

N:なんとその洗剤のケースには、「面白いほどよく落ちるスパー
ク」と書いてあるんです。

Y:ひえー。「面白いほどよく落ちるSPARC」なんてあったら怖い。:-)
 


*私は電話が嫌いです [新規注]

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[新規注]   私は電話が嫌いです

最近は(情報科学センタ関係の)委員会などは、委員会のメイルリス
トができるようになり、非常に嬉しいです。電話も『電話で悪いん
だけど…』と前置きが入るようになりました。(1999.8.1、大垣 斉)
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Y:ところで、大垣さんにメールを送ったときに、vacationの機能
で「メール、届きました。返事は……」という旨のメールが自動返
送されてきましたね。

A:私からの自動返送メッセージの中に、

「連絡は極力メールでお願いいたします。メールを利用できない場
合はFaxにてご連絡ください。Faxも利用できない場合は、電報ない
し郵政省メールでご連絡をお願いいたします。<食事のお誘い以外
の内線電話は歓迎されません>」

という部分もあったでしょう。それを伝える目的もあって、あのよ
うな自動返送メッセージを送るようにしています。私は音声電話は
嫌いです。理由は、電話をかける側の都合で割り込みが入る、イン
タラクティブな応答を要求される、出先に電話は回送されない、の
3つですね。あのようにしっかり書いておいても、電話でネットワー
クに関することを質問されることがたびたびあります。

 私にかかってくる電話はたいてい長電話なので、研究室の電話は
ソニーのTL-7(トーク・フリー・アダプタ)を改造したものを使っ
ています。無線用のヘッド・セットが電話のハンド・セット代わり
なので、両手が自由に使えますし、ケーブルも延長してあるので、
ある程度動けます。これで、自分の仕事を中断せずに電話の応対が
可能になります。[新規注]

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[新規注]  無線用のヘッド・セットを電話のハンド・セットに

最近、機種変更はありましたが、相変わらずこういうことをしてい
ます。(1999.8.1、大垣 斉)
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Y:それは便利ですね。私も長電話だと分かると、受話器を肩では
さんでコンピュータに向かって仕事を再開することもあるのですが、
キーボードの音が相手に聞こえたら困るなあと思うと、届いたメー
ルを読む程度の作業しかできないんですよ。

A:私は、キーボードを打つ音が電話の相手に聞こえるのは、別に
失礼だとは思っていませんよ。相手から割り込みをかけているので
すから、それぐらいはガマンしてもらうべきだと思います。

 電話が嫌いな最大の理由は、一度こちらが電話で説明したことを、
同じ人からまた聞かれると、ほとんど同じ説明を繰り返さなければ
いけないことです。[新規注]

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[新規注]  ほとんど同じ説明を繰り返さなければいけない

最近、某メーカーのサポートに電話したら、「受付」→「とりあえ
ずの担当」→「わたしの知りたい話の担当」と電話を回していった
結果、『同じ説明を最初から三回させるなよ!!』というのがありま
した。これはどうにかならんかなぁ…。(1999.8.1、大垣 斉)
==========

Y:電話で説明された人は、最初の説明ではきちんとメモがとれる
ほどには、理解できていないですよ。だから、いざ設定しようとか、
ドキュメントにまとめようと思った時点で、同じことをもう一度聞
かないといけなくなるんですよ。最初の説明は概要を理解するため
に聞き、二度目の説明は詳細を記録するために聞き、確認が必要な
場合は三度目もあるかも。私も経験者だから分かります。:-) でも、
私はそれを避けるために、電子メールを使うようにしてますのでご
心配なく。

A:電話口で、「同じことを前にも説明しましたけどー」といいた
くなることが、たびたびあります。

Y:なるほどね。ところで、vacationの設定方法を教えてください。
大学生が夏休みに前に設定しておくのに、最適だと思いますので。

A:操作手順を書いたものを、あとでメールで送っておきます(ま
めちしき参照)。

Y:vacationの設定をして、設定を解除したくなったときはどうす
るんでしたっけ?

A:~/.forwardファイルを削除するか、ファイルの内容を編集して
ください。vacationの設定は、資料を自動で送り返すような目的で
も使えます。「Subjectのフィールドにある文字列がきたときに、
このファイルを自動的に返送する」のような使い方ができるわけで
す。これには、MH [注32] のslocalの機能を使います。slocalは、
メールのヘッダーを見て自動的に分類するための機能です。ですか
ら、slocalでSubjectの文字列を見て、こちらがあらかじめ指定し
た文字列があった場合は、シェル・スクリプトに渡して、そのシェ
ル・スクリプトがメッセージを自動的に送り返すようにできます。


*今後の運用に期待がふくらむ

Y:各学科にサブドメインを置いて学内ネットワークのインフラが
整備できたことで、今後は、運用面の工夫をしていかれると思いま
す。お2人が所属している情報システム工学科では、どのように運
用していくのでしょうか。

N:うちの学科のプログラミング演習室には、学生用の82台のパソ
コン [注33] があり、これらにはすべて、Windows 95がインストー
ルされています。その上にMicrosoft Office [注34] を入れていま
すし、WWWブラウザとしてはNetscape 2.0を入れています。[新規注]

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[新規注]  演習室の学生用のパソコン

演習室のパソコンは、その後、

   PC-98NX 100台(学生用:NT 4.0 WS) 
   + 2台(教員:NT 4.0 WS) 
   + 1台(サーヴァ:NT 4.0 Server) 

という構成に変更しました。
# GNU/Linux System とのデュアルブートにしたいよぉ〜
(1999.8.1、大垣 斉)
==========

この部屋を、授業時間以外は学生が自主的に使える演習室として開
放し、レポートはすべてワープロで作成させるようにしています。
また、学生のネットワークの活用もどんどんと推進していこうと思っ
ています。

A:この教室のマシン上のNetscape 2.0を起動すると、「演習室の
ホーム・ページ」というページが表示されるようにしてあり、演習
のページや実験のページ、その他、学生がコンピュータを使ってい
くうえで必要な情報が得られるようにしてあります。すなわち、演
習室のホーム・ページは、学生の自主学習のチュートリアルとして
活用できます。もちろん、授業の課題なども、このページで生徒に
公開するような運用を始めています。

Y:これからが楽しみですね。今日は、貴重な話をどうもありがと
うございました。



[注1]  大阪産業大学

大阪産業大学の前身である大阪鉄道学校は、1928(昭和3)年に創
立された。現在は、経営学部、経済学部、工学部、短期大学、附属
機関、関連教育機関からなる総合大学。大阪府大東市(JR学研都市
線 野崎駅)にある。詳しくは、
 http://www.osaka-sandai.ac.jp/
を参照のこと。


[注2]  IPアドレスのサブネット化

1つの IP アドレスにビット・マスクをかけることによって、複数
のセグメントに分割する方法。IP アドレスは4バイトの長さを持
ち、ホスト部とネットワーク部から構成される。このIP アドレス
を細分化するためには、ネット・マスクと呼ばれる仕組みが用いら
れる。詳しくは、参考文献1の第1章「IPアドレス」を参照のこと。


[注3]  サブドメイン化

あるドメインの中に、さらに小さな範囲のドメインを作ること。具
体的には、大阪産業大学の場合、osaka-sandai.ac.jpというドメイ
ンの下に、12ある各学科ごとにサブドメイン・サーバーを配置した。


[注4]  FDDI(Fiber Distributed Data Interface)

100Mbpsのリング型のLAN の名称。ビル間やビル内の幹線LAN とし
て、あるいはコンピュータ間を高速に接続するために用いる。


[注5]  UUCP(Unix to Unix Copy Protocol)

ユーユーシーピーと読む。UNIXシステム間で電話回線などを使用し
てファイルを転送するためのプロトコル。


[注6]  ネット・ニュース

インターネット上の電子掲示板システム。


[注7]  JPNIC(JaPan Network Information Center)

ジェーピーニックと読む。日本ネットワークインフォメーションセ
ンター。日本のインターネットの管理・運営を目的として、1991年
12月に設立された団体。日本でのドメイン名と IPアドレスをすべ
て管理しており、インターネットに接続されてる組織は、JPNICが
管理するDNSに登録されている。JPNICのDNSに登録されいているネッ
トワークを運営するためには、JPNICの会員になる必要がある。


[注8]  ORIONS(Osaka Regional Information & Open Network System)

大阪地域大学間ネットワーク。学術研究・教育活動の支援を目的と
するネットワーク。


[注9]  IP接続

専用線などを使用し、自分のネットワークの一部として外部と接続
すること。また、一時的に接続するダイヤルアップIP接続もある。


[注10]  情報科学センター

前身は「電算室」。


[注11]  FORTRAN

高水準プログラミング言語のうちの1つ。主に科学技術計算などの
分野で用いられている。


[注12]  NetWare

ノベルが開発、販売しているネットワークOS。いわゆる「パソコンLAN」で
使われる。


[注13]  メーリング・リスト(mailing list)

登録された特定のメンバーに対し、メールを同報通信する仕組み。
特定のテーマに沿った議論を行う場合などに用いる。


[注14]  専用線

あらかじめ決められた2点間専用の回線であり、その2点間の距離
と速度で、NTTに払う回線料金が決まる。料金は固定制なので、通
信するしないにかかわらず、一定の料金を支払う。会社の事業所間
の内線電話などに使われている例が多い。専用線には、アナログ回
線を使った「一般専用サービス」と、デジタル回線を使った「高速
デジタル伝送サービス」の2種類がある。


[注15]  クラスB

IP アドレスの種類の1つ。識別用に2ビット、ネットワーク部に14
ビット (最大 16382個分)、ホスト部に16ビット(最大 65534個
分)が割り当てられる、中規模のサイトに適したクラスである。こ
れ以外に、大規模ネットワークが少数あるサイトに適したクラスA、
小規模ネットワークがたくさんあるクラスCなどが使われている。


[注16]  よく返せといわれなかったものだ

IP アドレスは、JPNIC に申請することによって割り当てられる。
ホスト数が 600台のネットワークの場合、クラスC1つには収まり
きらない数である。その場合、クラスCを3つ使うか、クラスBを
1つ使うことになるが、「クラスBを1つ」の方を希望する組織が
多かったため、クラスBは貴重な資源となっている。そのため、現
在では、それなりの理由がなければ、「クラスB1つ」は割り当て
てもらえず、クラスCをいくつか割り当ててもらうことになる。


[注17]  DNS(Domain Name System)

サーバー各サイト(WANの最小単位をなすLAN)はドメイン名で区別
される。ソフトバンクならsoftbank.co.jpがドメイン名。ドメイン
の下に各ユーザーがIPアドレスで管理されており、これらを一括し
て管理するのがDNSである。


[注18]  SPARCstation 5

サンのデスクトップ型WS。110MHzのmicroSPARCUを搭載。ネーム・
サーバー程度であればこの程度のマシンで十分こと足りる場合が多
い。ネットワーク・プロバイダでも、よほどの規模にならない限り
このクラスのマシンやPCを使用している。


[注19]  ネット・マスク

1つの IPアドレスをサブネット化して使う場合、どこまでがサブ
ネット部でどこからがホスト部かを明示しなければならない。そこ
で、ネットワークを表すビットを 1、ホストを表すビットを0に
したパターンを用いて、どこまでがネットワーク部であるかを表現
する。このパターンのことをネット・マスクと呼ぶ。


[注20]  デフォルト・ルート

目的のネットワークへの経路制御情報が存在しない場合に、デフォ
ルトの経路制御情報が使われ、これをデフォルト・ルートと呼ぶ。
UNIX で、経路制御情報を知るためのコマンドが、netstat である。


[注21]  VAX-11

DEC のコンピュータの名称で、バックス・イレブンと読む。1983 
年にリリースされた4.2 BSDからは、TCP/IPと呼ばれるプロトコル
がサポートされ、イーサネットを用いたLANが構築できるようになっ
ていた。この当時、4.2 BSDが稼働していたコンピュータの主流が
VAX-11であった。


[注22]  MIPS(Million Instructions Per Second)

ミップスと読む。コンピュータの性能を示す指標で、1秒間当たり
の命令実行回数を100万回の単位で表現するもの。現在はあまり用
いられない。


[注23]  proxy

プロキシと読む。直接外部と IP 接続されていない内部ホストから
の WWW、Gopher、WAIS、FTP などを代理で外部に発行する機能。


[注24]  FireWall

インターネットにIP接続されたネットワーク、を不正な侵入から保
護するためにゲートウェイに設けるアクセス制限。


[注25]  マルチIP

最近のルーターが標準的に持っている機能。とくに規格化はされて
いない。メーカーでは「セカンダリ・アドレス」と呼んでいる。


[注26]  RIP(Routing Information Protocol)

インターネット上でのルーティング・プロトコル。ルーティングと
は、相手先ホストにいたるネットワーク上の経路を見付け出すこと
で、そのためのプロトコルがRIPである。固定長ネット・マスク対
応のRIP-1と、可変長ネット・マスク対応のRIP-2がある。


[注27]  routed

ルーティングを行うUNIXのシステム・プロセス(デーモン)。


[注28]  254台分

アドレスの範囲は256バイトあるが、デフォルト・ルート(0)
およびブロードキャスト(255)がすでに予約されているため、
254台分となる。


[注29]  ルーター

異なるLAN同士を相互に接続するための装置の一種。TCP/IPを例に
とると、LAN間接続装置の一種であるブリッジが物理層レベルでパ
ケットを判別して透過させるのに対して、ルーターは論理層のIPア
ドレスを見てデータ(パケット)のルーティング(中継経路設定)
を行う。


[注30]  bit別冊インターネット参加の手引き

WIDE Project編、村井 純・吉村 伸 監修で出版された「bit」別冊
(共立出版)。インターネットへ接続しようとしているサイト、接続
しているサイトの管理・運用に必要な情報をまとめてある。ネット
ワーク管理必携の書。


[注31]  インターネットの使い方

石田晴久・後藤滋樹 編(共立出版)。「参加の手引き」が管理者向
けとすると、こちらはエンド・ユーザー向け。MacintoshやWindows
からインターネット(TCP/IPベースのネットワーク)を使うのに必
要なソフトウェアの紹介や設定、情報発信の方法やその実例なども
書かれている。


[注32]  MH(Message Handling System)

米ランドのボーデン(B.Borden) 氏らによって開発されたメール・
ハンドラ。書類を整理して保存できるフォルダの概念を持つことが
特徴。mh-e は、この MH のコマンドを、Emacs からフロントエン
ドとして利用するためのパッケージ。


[注33]  学生用の82台のパソコン

NECのPC-9801BA3(Pentium ODP 83MHz、メモリ18Mバイト)。また、
この部屋には27台のレーザー・プリンタ(キヤノンLBP-A405 Jr.)
もある。


[注34]  Microsoft Office

スタンダード版には、ワープロ Word、表計算 Excel、プレゼンテー
ション・ソフトのPowerPoint、予定管理ツールの Schedule+ がセッ
トになっている。プロフェッショナル版には、さらにデータベース・
ソフトの Access が加えられている。

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UNIXまめちしき

	vacationの設定のススメ(文:大垣 斉)

 vacationというプログラムを使うと、メールを送った人に対して
自動的に不在を知らせたり、いろいろな情報を提供できる。ここで
は、SunOSの場合の設定を紹介する。すでに.forwardファイルが存
在していて、それを電子メールの回送に使っているユーザーは、以
下の操作をすると既存の.forwardが新しいものに上書きされてしま
うので、注意が必要である。

(1)ログインして、vacationコマンドを実行する

(2)~/.vacation.msgというファイルが自動作成される。これが自動
返送するメッセージなので、あとで適当に書き換える

(3)『~/.vacation.msgを見るか』という意味の質問があるので、と
りあえず「n」としておく

(4)『~/.vacation.msgを編集』という意味の質問があるので、これ
もとりあえず「n」としておく

(5)~/.forwardファイルが自動作成される

(6)「vacationを有効にするか」という質問があるので、「y」と答える

 これだけで設定が完了する。あとは、~/.vacation.msgの内容を
好みに合わせて書き換えてみよう。たとえば、このファイルに「○
月○日までは夏休みですので、メールは読み書きしません」のよう
に、メールをくれた相手に自動返送したい文章を書いておく。

  ユーザーandrew の ~/.forwardファイルで、
  
  \andrew, /usr/ucb/vacation andrew"

となっているのを、

  \andrew, /usr/ucb/vacation -t14d andrew"

とすると、一度自動返送したら(同じアドレスからのメールには)
14日間自動返送しない(デフォルトでは7日間)。この期間は 用途
に合わせて適当に設定してほしい。たとえば、夏休みが 60日間あ
る場合は、この数字を 60 にすればよいだろう。

 また、これを、

  \andrew, /usr/ucb/vacation -t1m andrew"

として1分と指定しておけば、ほぼすべてのメールに自動返送する
ようにできる。

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(UNIX USER誌連載「よしだともこのルート訪問記」より)
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