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第15回 ISDNで京都にひるがえるは千葉県船橋市の旗



1996年4月号 UNIX USER誌掲載「ルート訪問記」の過去記事

第15回 ISDNで京都にひるがえるは千葉県船橋市の旗

今回は、NEXTSTEPの個人ユーザーであり、“I LOVE NEXT”のホー
ム・ページを作っている小川好人(おがわ よしひと)さんを訪ね、
彼のNEXTSTEP [注1] マシンについて、また、NEXTSTEPから外部の
ネットワークへのISDN接続についてお話を伺いました。


*個人で自宅にNEXTSTEPとISDNを導入

私(以下Y):こんにちは。小川さんは、個人でNEXTSTEPを持って
おられるそうですね。なぜNEXTSTEPを選んだのかを、まず聞かせて
ください。

小川さん(以下O):個人で買うのに、UNIXそのものでは面白くな
いと思いました。また、ちょうどそのころ(1992年)、会社でMac
も使っていたのですが、いくらGUIが優れていても、長年キャラク
タ・ベースの端末を使ってきたもので、コンソールがないと安心で
きなかったのです。

Y:分かります、それ。私もキャラクタ端末で何でもしたい方なの
で。

O:たまたま、会社の近くにキヤノンのゼロワンショップがあって、
そこでNEXTSTEPを売っていました。知り合いで持ってる人がいなかっ
たので、自慢できるかなと思ったのも、これを選んだ理由です。買っ
たのは、NEXTSTEP リリース3.1Jのインテル版が発売されたときで
す。

Y:NEXTSTEPが採用したMach [注2] も、4.3 BSDのユーザー・プ
ログラムがそのまま動く、UNIX互換の新しいOSとして注目されてい
ましたね。

 NEXTSTEPをインストールしているハードウェアは、あの黒いNeXT
マシンではないのですね。

O:PC/AT互換機にインストールして使っています。最初にOSを購
入した後、動くことを確認しながらハードウェアを1つずつそろえ
ていきました。

Y:NEXTSTEP自体はどのくらいの値段 [注3] だったのですか?

O:値段は、ユーザー環境の部分である“NEXTSTEPリリース3.1J”
(以下ユーザー環境)が9万8,000円、開発キットである
“NEXTSTEP DEVELOPERリリース3.1J”(以下デベロッパー)が18万
9,000円でした。総合的な機能と、付属のアプリケーションを考え
れば妥当な値段だと思います。

 当時は、まだWindowsやMacにメールのツールなどはまったく付属
していなかった時代でした。NEXTSTEPはキャラクタ・ベースでUNIX
として使うこともできるし、もちろん自慢のGUIを利用できる点が
いいですね。操作が統一されデザインも美しいため、 総合的に見
て値段は高くないと思いました。

Y:ユーザー環境の部分だけ買えば使えるわけですね。

O:はい。でも、デベロッパーがないとコンパイルも何もできない
ので、結局、両方が必要なんです。

Y:会社員だったからこそ、買えたんですね。

O:いえ、まだ入社してから1、2年のころでしたから、少ない給
料から絞り出して……。

 ちょうどそのころ、仕事でHPのUNIX WSを触らせてもらっていま
した。もともとは、汎用機の運用に携わっていたのですが、上司が
私のコンピュータ好きを分かってくれて、UNIX関連の部署にまわし
てもらえたんです。

 それで、メールやネット・ニュースなどが自由に使える環境を手
に入れ、面白さに病み付きになり、それが自分でNEXTSTEPを買う直
接のきっかけになりました。


*個人で千葉県船橋市の地域ドメインを取得

O:スタンド・アロンでNEXTSTEPマシンを使っていてもしょうがな
いので、外とつなごうと思ったのも自然の成り行きでした。ちょう
どそのころ、IIJ [注4] が個人向けのUUCP [注5] サービスを開
始したので、ISDN [注6] を導入してIIJにつなぐことにしました。

 ’93年当時、JPNIC [注7] の地域ドメインの実験が始まった時
期だったので、地域ドメインを取ることにしました。そのときは、
千葉の船橋に住んでいたので、funabashi.chiba.jpという地域ドメ
インを取って、UUCPを始めたのです。地域ドメインは実験プロジェ
クトのため、無料で取得できました。

 私が京都に転勤になったときに、この地域ドメイン名は変更した
方がよいのではないか、とネット・ニュースで議論したこともあり
ました。結局、このままで問題はないだろうとのことで使い続けて
います。

 私の自宅のドメインの名前が、“dammers.funabashi.chiba.jp”
なので、「京都から船橋につないでるの?」と聞かれることもあり
ますが、地域ドメインというのは、“funabashi.chiba”の部分が、
通常の“co”や“ac”に相当する部分で、会社名や大学名のような
組織名に相当する部分は、“dammers”なんです。ですから、船橋
につないでいるわけではありません。

 現在のところ、京都にはIIJのアクセス・ポイントがないので、
大阪のアクセス・ポイントにUUCPで接続しています。日本では、転
勤のあるサラリーマンや学生さんなどには、地域ドメインは根付か
ないかもしれませんが、学校のように地域に属している組織の場合
は、どこの地域にある学校かが一目で分かってよいのではないかと
思います。

Y:なるほど。UUCPでは、どのくらいの頻度でポーリングしている
のですか?

O:1時間に一度、cronコマンド [注8] を使って、メールとニュー
スをポーリングしています。

Y:本格的な運用なんですね。UUCPに加えて、ダイヤルアップPPP
でも接続されているそうですが。

O:ホーム・ページ の開設のために、昨年の夏に、
NEXTSTEPにダイヤルアップPPPの設定を行い、BEKKOAMEに
ダイヤルアップPPPで接続しています。


*ISDN機材価格は3年間で半額に

Y:ISDNでインターネットに接続しているということは、NTTの
「INSネット64」 [注9] を利用されているのですね。これについ
て、詳しく教えてください。私自身、すごく興味を持っているので。:-)
 先日もNTTに電話して、値段などをしつこく聞いていた
んですよ。普通の電話回線(アナログ回線)+モデムでインターネッ
トにアクセスしている人は、みんな興味を持っていると思います。

O:契約費用ですが、これまで使っていたアナログ回線をINSネッ
ト64に変えてしまう場合は、800円の契約料のみです。これまでの
回線はそのままにして、回線を増設する場合は、7万2,000円の施
設設置負担金がプラスされます。そのほかにかかるのは、工事費で
す。

 私の場合は、アナログ回線をISDNに変更しました。いままで使用
していた電話は、TA [注10] のアナログ・ポートに接続すれば、そ
のまま使えます。私の場合は、電話番号が変わってしまいましたが、
これまでの電話番号と変わらない場合も増えてきました。

 私がISDNを導入した当時、ちょうど沖電気から10万円を切るTA
(PCLINK/TA)が出たころだったので、それを購入しました。この
TAは、アナログ・ポートが1基付いているタイプです。DSU [注11] 
は当時はレンタルしか選択できなかったのでレンタルにして、いま
もそのままにしています。

 最近、NTTから出たMN128 [注12] というTAなら、3万9,800円で
非同期38.4Kbps、同期64/128Kbps、全自動同期PPPなどの機能を
搭載しているうえに、アナログ・ポートが2基付いています。その
うえ、DSUの買い取り価格が2万3,900円ですから、やっと6万円程
度まで下がってきたところですね。また、TAとDSUがいっしょになっ
たものも登場しています。

Y:INSネット64にすると、通話料金は同じものの、毎月の基本料
金が約2倍になりますね。

O:毎月の基本料金は、住宅用の場合2,830円になります。私の場
合は、1回線あたり900円のダイヤル・インの番号を2回線取って
いるので、それだけで1,800円になり、それにDSUのレンタル料が毎
月1,700円かかっていますので、毎月の基本料金だけでも6,000円以
上払っています。

Y:ダイヤル・インの番号を2回線取るというのは、どういうこと
ですか?

O:もともとの電話番号が「代表番号」となります。INSネット64
を導入しても、このままでは、同じ電話番号(代表番号)の回線が
2つになります。このままでは、外からの電話は両方の回線につな
がってしまうので、2回線別々に使いたいときには、それぞれに別
のダイヤル・インの番号を取得する必要があるのです。

Y:なるほど。最近では、INSネット64でのインターネットへの接
続を意識して開発された7万円前後の安価なISDNボードも続々登場
しているようですね。


*ネット・ニュースのtnn.game.rpgを申請

Y:小川さんが趣味としている「メール・ゲーム」について、説明
していただけますか?

O:私がやっているのは、郵政省メール [注13] を使って物語を1
つ作り上げていくロールプレイング・ゲームです。このゲームは、
アメリカなどでは「Play by Mail」といって、わりとメジャーなの
ですが……。日本でも、これを専門にやっている会社がいまは5〜
6社あって、大きいところだと、何万人単位の人が参加しています。

Y:そのような世界が存在することは、全然知りませんでしたけど……
あるんですね。

O:あるんですよ。私の友達は、履歴書の趣味の欄にこれを書いた
ら、面接で「何ですかそれ?」と尋ねられて、説明するのに30分ぐ
らいかかったそうです。

Y:私が面接官でも聞きますね。とっても怪しいし。ひょっとして、
メジャーになる前のインターネットも、同じような存在だったのか
もしれない。:-)

O:郵政省メールを使っていると時間がかかるので、代わりにイン
ターネットを使っていこうとの動きもあるようですが、日本の商用
で運営しているメール・ゲームでは、まだそこまではいっていませ
ん。

 ネット・ニュースには、“tnn.game.rpg”というニュース・グルー
プがあって、メール・ゲームについての情報を交換しています。実
は、これは私が申請して作ってもらったのですが……。

 メーリング・リストもあって、これも私が中心となって、IIJの
メールのサーバーを借りて運用しています。私のホーム・ページの
下に、このメーリング・リストのホーム・ページも置いています。

Y:見せてもらいますね。それから、ずいぶんと小さいころから、
パソコンを使っておられたそうですね。

O:小学校の低学年の頃に、親戚のお兄さんが持っていたMZ-80Bを
触ってマイコン/パソコンという言葉を覚え、その数年後にはPV-7
(MSX)を買ってもらい、小学校5年生からパソコン通信を始めま
した。当時は、通信速度が300bps半2重でした。その次のパソコン
がHB-F900(MSX2)で、その次がX68000です。パソコン通信で、家
の電話代をすごく使ってしまった時期もあったのですが、うちの親
が理解のある人で「将来的に役立つことだから」と続けさせてくれ
ました。そのおかげで、通信の経験がそのままいまの仕事につながっ
たという感じです。

Y:理解のあるご両親で、本当によかったですね。

O:続けさせてくれたことが、いまの私にとてもプラスになってま
すから、両親には感謝しています。


*文房具としてのNEXTSTEPの魅力と今後

Y:NEXTSTEPの一番の魅力は何でしょうか?

O:一般的なNEXTSTEPの解説では、「オブジェクト指向のシステム
であることによる、プログラミング環境の快適さ」を中心に述べて
あることが多く、それはそうなのですが、私は「文房具としての
NEXTSTEP」に、より注目しています。標準の状態で、使いやすいツー
ルがそろっているし、それらのユーザー・インタフェースが統一さ
れているのが魅力ですね。

 NEXTSTEPの面白い機能としては、プリンタの紙が切れた場合に、
その旨を音声で報告してくれるというものがあります。それから、
「NEXTメール」と呼ばれる、マルチメディアのデータを含んだ電子
メールに対応しています。

 こちらから送った、画像データや音声データなどを含んだメール
が、相手のNEXTSTEP上で自動的に画像や音声が展開されるという仕
組みです。いまは、このNEXTメールがMIME [注14] 対応となりまし
たから、MIMEに対応しているメーラーなら、機種が異なるコンピュー
タとも、同じようにマルチメディアのデータを含む電子メールが交
換できます。

Y:なるほど。

O:今後は、NEXTSTEPはOPENSTEPに統合されていき、 OPENSTEPは
SOLARISにも実装されます。 SOLARIS以外にも、DECのDigital UNIX、
HPのマシン、Windows NT、Windows 95などにも載ります。そうなる
と、NEXTSTEPとは、ネクストが出すMachベースのOPENSTEPのことを
指すようになります。

Y:今日は、貴重なお話をどうもありがとうございました。



[注1]  NEXTSTEP

オブジェクト指向の先進的な OS。アップルコンピュータの創設者
の1人、スティーブ・ジョブスが設立したネクスト社は、1988 年
10月、マイクロ・カーネル・ベースのMach OSを採用したNeXTコン
ピュータを発表。先進機能を装備したシステムとして [注目された。
そのアプリケーション環境としてNEXTSTEPが搭載されていた。同社
がハードウェア・ビジネスから撤退した後も、NEXTSTEP はオブジェ
クト指向OS としてこの分野をリードしている。


[注2] Mach(Multiple Asynchronously Communicating Hosts)

マークと読む。米カーネギーメロン大学が、米国防総省高等研究開
発局の資金援助を受けて開発した分散OS。特徴は、(1)UNIX 4.3
BSD 互換 (2)タスクとスレッドの概念を導入し、マルチプロセッサ
処理を効率化 (3)ポートとメッセージによるプロセス間通信 (4)ハー
ドウェアから独立した仮想記憶管理機構などである。


[注3]  NEXTSTEPの値段

値段は、NEXTSTEPリリース3.3Jが9万8,000円、 NEXTSTEP
DEVELOPERとのセット価格が24万8,000円。(当時)


[注4]  IIJ(Internet Initiative Japan Inc.)

株式会社インターネットイニシアティブは1992 年12月に設立され、
翌年7 月に UUCP サービスを開始した。


[注5]  UUCP(Unix to Unix Copy Protocol)

ユーユーシーピーと読む。UNIXシステム間で電話回線を使用してファ
イルを送るためのプロトコル。


[注6]  ISDN( Integrated Services Digital Network )

アイエスディーエヌと読む。統合サービス・ディジタル網。


[注7]  JPNIC(JaPan Network Information Center)

ジェーピーニックと読む。日本ネットワークインフォメーションセ
ンター。日本のインターネットの管理・運営を目的として、1991年
12月に設立された団体。日本でのドメイン名と IPアドレスをすべ
て管理しており、インターネットに接続されている組織は、JPNIC
が管理するDNSに登録されている。JPNICのDNSに登録されているネッ
トワークを運営するためには、JPNICの会員になる必要がある。


[注8]  cronコマンド

cronは、crontabファイルに記述された内容を参照して、指定され
た日付時刻で定期的にコマンドを実行する。


[注9]  INSネット64

NTT による高速デジタル通信の公衆網サービスの名称。INSとは、
Information Network Systemの略。送る情報や相手の通信機器に応
じて、通話モード、ディジタル通信モード、パケット通信モードを
自由に選択して利用できる。1本の契約者回線で、複数の相手と同
時に通信できるのも魅力の1つ。


[注10]  TA(Terminal Adapter)

ティーエーと読む。ISDNに対応していないデバイスをISDN回線に接
続する装置のこと。ここでは、一般のアナログ回線用電話機をISDN
のデジタル回線に接続できる「アナログTA」を指している。


[注11]  DSU(Digital Service Unit)

ディーエスユーと読む。デジタル回線用の回線終端装置。ISDNや高
速デジタル専用線を利用するときに必要になる。


[注12] MN128

ビー・ユー・ジーの低価格TA。販売・サポートはNTTテレコムエン
ジニアリング東京が行っている。


[注13]  郵政省メール

電子メールと区別するために、通常の郵便のことを、郵政省メール
と呼ぶこともある。


[注19]   MIME(Multipurpose Internet Mail Extensions)

マイムと読む。画像データや音声データなどのマルチメディア情報
交換や、メールによるアプリケーションの遠隔実行などの、多目的
なメッセージ通信を実現するための枠組み。


以上


(UNIX USER誌連載「よしだともこのルート訪問記」より)
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