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第12回 電脳なる道具にて希伯来語(ヘブライ語)をしたためる



1996年1月号 UNIX USER誌掲載「ルート訪問記」の過去記事

第12回 電脳なる道具にて希伯来語(ヘブライ語)をしたためる

京都産業大学(京都府京都市)の外国語学部 [注1] で、言語学、
とくにヘブライ語を専門に研究されている竹内茂夫(たけうち し
げお)先生を訪ね、マルチリンガル環境の構築の話を中心に伺い
ました。

竹内先生には、以前にも1995年8月号の本連載の取材で京都産業大
学へ行ったときにお会いし、MuleやLaTeXによるマルチリンガル環
境の構築について伺っていました。今回は、非常に人気の高かった
マルチリンガル環境の話を、詳しくお聞きしたわけです。


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[竹内先生からの新規コメント]  

現在,ライデン大学文学部近東言語文化学科の客員研究員として
2000年3月末までの予定でオランダに滞在中。私はヘブライ語のセ
クションに属して、世界的なセム語研究者である村岡崇光教授にお
世話になりながら、博士課程の院生ともフレンドリーな交流を持っ
ている。昨年度後期のセメスターにおいて行われたヘブライ語文法
についての論文を批判的に読んで順番に口頭発表を行うセミナーの
最終回では、私も発表した。

(そのセミナーの様子は
http://www.kyoto-su.ac.jp/~atake/leiden/TKHG.html として掲載
してある。)

現在私は、古典ヘブライ語を中心に、フェニキア語、ウガリト語、
アマルナ・カナン語、アッカド語も含めたセム語全体に共通するあ
る文法形式の研究に主に従事している。こちらにはMacのPowerBook
G3を持参してきている。

ライデン大学は1575年創設のオランダ最古の大学であり、この近東
言語文化学科(TCNO)はヘブライ語、アッシリア学、エジプト学のセ
クションに分かれていて、これらのオリエント学では昔から伝統が
あり現在も研究や出版が盛んである。この分野の図書館の充実度は
世界の五指に入ると言われ、単行本、雑誌、写本などが中央図書館
のO.L.G.というコーナーに集められているだけではなく、この分野
に特化したオランダ近東研究所(NINO)とそれに付属する図書館が設
けられており、外部からの多くの研究者にも利用されている。

ライデン大学のWWWサイトは http://www.leidenuniv.nl/ であり、
NINO は、http://www.leidenuniv.nl/nino/nino.html である。な
お、出版に関しては、ライデン市内にある1683年創業のBrill社(
http://www.brill.nl/ )が、学術出版社として古くからこの分野の
研究書も数多く出版していることで世界的に有名である。

(1999.7.31、竹内 茂夫)
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*Macでヘブライ語を扱う環境の構築

私(以下Y):お久しぶりです。MuleやLaTeXでヘブライ語 [注2] 
を扱う環境を構築されているとのことですが、まず、2年前 [新規注] 
から愛用されているMacintosh(以下Mac)上のヘブライ語環
境について、その構築方法を紹介していただけますか?


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[新規注]  2年前

1995年夏の取材時からの2年前なので、1993年のことである。
(1999.7.31、竹内 茂夫)
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竹内先生(以下T):Macのマルチリンガル環境は、'92年に発表さ
れた漢字Talk 7.1というバージョン以降、WorldScriptという技術
が導入されたために、構築しやすくなりました。[新規注]  
各種言語のサポートを、入力機能も含めてすべてシステムの基本部
分で行うようになったため、若干のファイルなどを追加するだけで、
各言語 [注3] を扱えるようになっています。


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[新規注]  漢字Talk 7.1

もちろんこれは日本語バージョンのことであり、英語版のSystem
7.1というバージョン以降である。(1999.8.15、竹内 茂夫)
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 WorldScriptでは、世界の言語をおおまかに3つのグループ [注4]
に分けて扱います。

 WorldScriptでは、複雑な1バイト・スクリプトを処理するアル
ゴリズムがWorldScript I という機能拡張ファイル(Macでは「書類」)
に、2バイト・スクリプトを処理するためのアルゴリズムが
WorldScript II という機能拡張ファイルに入っています。

Y:なるほど。

T:Mac(漢字Talk [新規注] )を購入すると、当然、英語と日本
語の環境は含まれています。それ以外にも、この環境は、フランス
語のアクサンやドイツ語のウムラウト、北欧の特殊文字などの近代
西欧諸言語に対応しています。すなわちISO-8859-1またはLatin-1
と呼ばれているものです。


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[新規注]  漢字Talk

現在では日本語システムに対して「漢字Talk」という名称はなくな
り、「Mac OS」に統一された。(1999.7.31、竹内 茂夫)
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 しかし、漢字Talkには上記のWorldScript I のロシア語や東ヨー
ロッパ言語の環境、複雑な1バイト・スクリプト(アラビア語、ヘ
ブライ語など)の環境、WorldScript II の日本語以外の環境は含
まれていません。たとえば、ヘブライ語が使いたい場合は、自分で
WorldScript I を入手して、漢字Talkに追加しなければいけません。
それに加えて、WorldScript I に対応しているワープロ・ソフト 
[注5] を入手する必要があります。私は、Waltz Word [注6] を
使っています。[新規注] 


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[新規注]  Waltz Word を使っている

最近私が使っているのはもっぱらPascal Writeで、Nisus Writerほ
ど多機能ではないが、その分使いやすく軽くて何より安い(7千円前後
で購入可能)。

Waltz Wordは軽くて使いやすかったが、日本語版は68k対応版のまま
開発が止まっているので、現在は全く使っていない。
(1999.7.31、竹内 茂夫)
==========


Y:ヘブライ語を扱うためには、WorldScript I とそれに対応して
いるワープロ・ソフトを入手するのですね。

T:はい。そのほかに、ヘブライ語のキーボード配列が記述された
ファイル [注7] と、ヘブライ語のフォント [注8] も必要になり
ます。[新規注] これらが必要だということは、アラビア語 [注9] 
やペルシャ語、すなわち、右から左に書く言語についても同じです。


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[新規注] ヘブライ文字の入出力

ヘブライ文字の入出力に関しては、WorldScript Iなどを用いない
で欧文スクリプト上で動くヘブライ文字のフォントを利用するとい
う方法がある(フォントの入手先は [注8] 参照)。しかし、欧文ス
クリプト上で動くので右から左への入力はできずに、左から右へす
なわち逆向きに入力する必要があり、さらにはワードラップ時に問
題が生じる。電子化された旧約聖書ヘブライ語テキストのいくつか
はこうしたフォントを用いており(ワードラップは内部的に解決して
いる様子)、上記の制約があるものの容易にヘブライ文字が扱える
ようになっている。(1999.8.15、竹内 茂夫)
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 Nisus Writer [注10] というワープロと、Language Key [注11] 
を購入すると、上記のファイルやフォントも付いてくるので、より
簡単にヘブライ語の環境が作れます。

 2バイト・スクリプトの言語については、WorldScriptに対応し
たワープロ以外に、中国語ならCLK(Chinese Language Kit)、韓
国語ならKLK(Korean Language Kit)を購入します。漢字Talkでは
ないMac OS、たとえば System 7.1以降で、日本語を扱いたい場合に
は、JLK(Japanese Language Kit)を購入します。[新規注]


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[新規注]  JLK(Japanese Language Kit)を購入

Mac OS 8.5以上を購入するとMultilingual Internet Accessが含ま
れており、Language Kitを購入しなくてもいくつかの言語につい
ては多言語環境を容易に構築できる。システムのインストール時に
「カスタムインストール」することで、日本語(英語システムなど
の場合)、朝鮮語、中国語繁体字、中国語簡体字(以上出力のみ)、
アラビア語、デーヴァナーガリー、グジャラティー、グルムキー、
ヘブライ語(以上入出力の両方)を扱えるようになる。

すなわち、機能拡張書類のWorldScript I とWorldScript II、各言
語のキーボード書類、フォントなどがインストールされる。ただし、
キーボード配列に関してはヘブライ語とアラビア語言語ではQWERTY
配列のものは含まれていないので、それらを使いたい場合には別途
Arabic Language KitもしくはHebrew Language Kitを購入してイン
ストールする必要がある。(1999.7.31、竹内 茂夫) 
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*Muleでヘブライ語の環境を構築

Y:Mule [注13] でヘブライ語を扱う環境を構築されたそうですね。
では、Muleでヘブライ語を入力されるデモを見せていただけますか?
 Muleはquail [注14] とits [注15] という2種類の入力メソッド
を提供していますが、ヘブライ語は、quailの方を使うのですね。

T:はい。まず、Muleの画面 [新規注] で、“CTRL- ]”(あるい
はM-x quail-mode)を入力すると、モード行にquailのモードが表
示されます。もう一度、“CTRL- ]”(あるいはM-x
quail-exit-mode)を入力すれば、このモードは終了できます。日
本語と英語しか使わない人が、たまたま“CTRL- ]”を入力して驚
いてしまわないように、このサイトでは、“CTRL- ]”を入力する
前に、エディタのメニューのFileの項目の1行目で、
Multi-lingualを選んでからしか、“CTRL- ]”は利かないように設
定されています。


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[新規注]  Muleの画面で

当然、X Window Systemを起動した後でMuleを起動する。
(1999.7.31、竹内 茂夫)
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Y:何気なく CTRL - ] と入力してしまい、急にquailモード
([IPA] と表示される)になってしまって困った経験が私にもありま
すから、それはありがたい設定ですね。どのようにすれば、その設
定ができるのでしょうか。

T:.emacsファイルに、必要事項を記入しておくのです(リスト)。


------リスト-------

(setq *Multilingual* nil)
(define-key menu-bar-file-menu [multi] '("Multi-lingual" . enable-multilingual))
(defun enable-multilingual ()
	(interactive)
	(if *Multilingual* 
	    (progn 
	      (setq *Multilingual* nil)
	      (global-unset-key  "\C-]")
	      (define-key menu-bar-file-menu [multi] '("Multi-lingual" . enable-multilingual)))
	  (progn
	      (setq *Multilingual* t)
	      (global-set-key  "\C-]" 'quail-mode)
	      (define-key menu-bar-file-menu [multi] '("Only-Japanese" . enable-multilingual)))))

------リストおわり-------


Y:さっそく、私も設定してみます。

T:quailモードでの言語の選択は、“M-s”です。“M-s”の後に
スペースを入力すると、入力できる言語の一覧が表示されますので、
その中から“hebrew”を選びます。また、“M-z”で、その言語の
ヘルプ画面が表示されます。

 デフォルトで、ヘブライ語のパッケージがロードされていない場
合、“M-x load-library”で自分が使いたいパッケージを呼び出し
ます。 [注16]

 これでヘブライ語が入力できるモードになったわけですが、この
ままの状態だと、ヘブライ語ネイティブのキーボード配列を使わな
ければなりません。私はヘブライ語をラテン・アルファベットに準
じたキーボード配列で入力するために、hebkey.elファイル [注17] 
を使って、自分にとって使いやすい環境を構築しています。この場
合は“M-s”でhebkeyを選択します。

 カーソルを右から左に動かすモード [注18] への切り替えには、
“CTRL-x CTRL-k r”を入力します。当然、ヘブライ語のフォント
が使えるようになっていなければ、表示はできません。自分の環境
で使えるフォントは、“M-x list-fontset”と入力すると表示でき
ます。ちなみに、ヘブライ語の文字セットは、ISO-8859-8 [注19] 
です。

 また、Muleのソースに含まれるdemoファイル [注20] を呼び出し
てみて確かめてもいいでしょう。当然、フォントのない言語につい
ては、画面に表示できません。

 Xに含まれているheb6x13およびheb8x13というフォントは、小さ
すぎて日本語や英語とのバランスが悪いので、私は、電総研で作ら
れたヘブライ語のフォント [注21] を入手して使っています。

Y:ヘブライ語に関しての操作方法が分かれば、他の言語も使えま
すね(画面1)。

T:Muleで作ったヘブライ語と日本語や英語の混じったファイルを
保存するためには、“CTRL-x CTRL-k f”で、ファイル・コードの
選択で“*junet*”あるいは“*ctext* ” [注22] を選び、保存し
ます。また、印刷には、通常、any2ps(あるいはm2ps)コマンド 
[注23] を使えば、多言語を含むファイルをPostScriptプリンタで
印刷できる形式に変換できます。



*LaTeXでヘブライ語を扱う環境を作る

Y:LaTeX [注24] で、ヘブライ語も扱われているそうですね。

T:はい。いろいろ試してみた結果、アスキー日本語TeXでは失敗
しましたが [新規注] 、NTT jTeXを使えば、ヘブライ語が混ざった
日本語のドキュメントでも、コンパイルできるようになりました。
印刷結果のクオリティにも満足しています。


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[新規注]  アスキー日本語TeX

現在ではpTeX (アスキー日本語TeX)でも扱うことができる。
pTeXは慶応大学の内山孝憲氏によってMac用にも移植されており、私は
普段はそれを使っている。
( http://macptex.appi.keio.ac.jp/~uchiyama/macptex.html )

1999年5月27日発売の内山孝憲・中野賢著『日本語LaTeX2eインストー
ルキット Macintosh版』アスキー出版局(ISBN4-7561-3100-X C300
4 Y2800E)では、「添付のCD-ROMに展開されているバイナリは、ハー
ドディスクにインストールすることなく、CD-RO Mのまま実行する
こともできます」とのことである。また、Mac OS X Serverでも動
作することが内山氏のWWWページで報告されており、画面表示は
Display PostScriptなのでDVIファイルをdvipskでPSファイルにし
て付属のビュアで表示するだけでよく、xdviなどのプレビュアは
不要とのことである。(1999.7.31、竹内 茂夫)

なお、多言語TeXとしてはYannis Haralambous氏の「Babel」や
「Omega」が有名であるが、2バイト文字の処理の関係で日本語との
共存はできないようである。
==========


Y:日本語の扱えるTeXでヘブライ語も扱えるのですね。

T:はい。ArabTeX [注25] というマクロ・パッケージを利用して
います。これは、アラビア語を扱うためのものなのですが、ヘブラ
イ語が扱えるマクロも含まれています。ヘブライ語のフォントだけ
は、別に入手しなければいけませんが。私の場合、イスラエルのサ
イトからhclassicというpkフォントをFTPで入手しました。[新規注]


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[新規注]  hclassicというpkフォントをFTPで入手

最近のArabTeXのパッケージにはhclassicの300pkのフォントが付属
するので、それを使うのであれば他のサイトからFTPする必要はな
くなった。また、hclassicのmetaf ontのソースも付属するので、
プリンタの解像度に合ったフォントをMETAFONTを使って生成するこ
ともできる。hclassicは母音記号も表示できるので聖書ヘブライ語
を扱う場合には必要であるが、フォントの形がエレガントとは言え
ず不満が残る。

最近のバージョンでは、hclassicだけではなくJerusalemなどのフォ
ントも(子音文字だけではあるが)出力できるようになった。少し前
のバージョンではフォントによって表示できる文字や記号が異なる
というバグがあったが、3.09では同一の出力結果が得られるようで
ある。(1999.8.15、竹内 茂夫)
==========


Y:つまり、「日本語の扱えるTeX + ArabTeXのマクロ・パッケー
ジ + ヘブライ語のフォント」で、扱えるようになったということ
ですね。

T:最初、日本語の扱えるTexではArabTeXのマクロ・パッケージは
使えないだろうと聞いていたので、NTT jTeXの代わりにLaTeXを使っ
ていたのですが、日本語が扱えないと不便だったので、試行錯誤し
てみたところ、NTT jTeXでできることが分かりました。しかも、一
行の中に、複数の言語が混在できるんですよ。

 そのためには、まず、\documentstyleで、オプションを指定する
必要があります。アラビア語だけならば“[arabtex]”、ヘブライ
語(単独ででも)を使うのであれば“[arabtex,hebtex]”というオ
プションが必要です。ソースに入力する時点では、アラビア語やヘ
ブライ語はラテン・アルファベットで入力します。すると、コンパ
イル時に、実際のフォントになるのです(図1)。[新規囲み、参照]


# 雑誌記事に掲載された 図1 も、書籍に掲載。


============新規囲み原稿(1999.7.31追加原稿)スタート


最近のArabTeXでは、ヘブライ語を処理する際でもarabtexオプショ
ンは不要になり、hebtexオプションだけでarabtexのファイルも自
動的に読み込まれて処理されます。

参考までに、LaTeX2εを用いてhclassicとJerusalemフォントを使っ
たソースファイルの例を挙げておきましょう。hclassic以外のフォ
ントの場合、どういうフォントを使うかを宣言します。スタイルファ
イルを書き換えることによって、デフォルトのフォントをhclassic
以外にすることも可能です。

同じ行の繰り返しなので本来なら定義してしまうところですが、いっ
たんhebtext環境に入ってしまうと使えるコマンドが著しく制限さ
れてその定義ができないので、繰り返しています。(新規画面)

# 新規画面は、
# karatepe-smpl309.gif
# です。 


----ここから新規ソースファイル----

\documentclass{jarticle}
\usepackage{hebtex}
\begin{document}
\sethebrew %これがなくてもhebtexと指定すれば自動的にヘブライ語と解釈され
\begin{hebtext}
<hclassicフォントの例>

w--brk <(そして−彼が祝福するように)> b`l <(バアル)> kr[n])3(tryS <(KRNTRY\v
{S})> 'yt <(を)> 'ztwd <(アズィタワダ)>

\Jm % Jerusalemフォントを使う場合
<Jerusalemフォントの例>

w--brk <(そして−彼が祝福するように)> b`l <(バアル)> kr[n])3(tryS <(KRNTRY\v
{S})> 'yt <(を)> 'ztwd <(アズィタワダ)>
\end{hebtext}
\end{document}
----ここまで新規ソースファイル----


============ここまでで、新規原稿おわり



*MacとUNIXのマルチリンガル環境の違い

Y:竹内先生は、MacとUNIXの両方で、ヘブライ語の環境を整えら
れたわけですが、それぞれのメリットとデメリットについて、どの
ように思われますか。

T:コンピュータに詳しくなくても、環境を構築できるのがMacを
使うメリットですね。自分が入力したい言語に対応しているワープ
ロ・ソフトさえ購入すれば、使えますから。[新規注]


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[新規注]  Macを使うメリット  

別の大きな利点として、ヘブライ語の旧約聖書テキストはいち早く
電子化されたが、形態素分析までされている聖書テキスト、それに
連動した辞書や注解書のような研究用のツールはMacとWindows用し
かなく、UNIX用はおそらくないと思われる。そうした点で、研究や
論文作成には圧倒的にMacあるいはWindowsが便利なので、最近は私
もMacでヘブライ語を扱うことが多い。(1999.7.31、竹内 茂夫)
==========


 私の場合は、大学のネットワークとして UNIXの環境があって、
UNIXだとネットワークにつながってさえいれば、大学のどのコンピュー
タからでも使えるから便利ということで、そのような環境を整えま
した。

Y:UNIXのマルチリンガル環境のメリットとしては、多くの言語を
画面表示したり、入力したりできる環境をフリー・ソフトウェアと
して持っていることですね。MacやWindowsのパソコンの世界だと、
ユーザーが「○○言語を入力したい」と思った時点で、そのための
ワープロ・ソフトを買うことになります。[新規注]


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[新規注]  そのためのワープロ・ソフトを買う

かつてのWindowsの場合はまさにそうであって、アプリケーション
によって使える言語が異なる場合があるが(例えば中国語なら
Chinese Writerのみ)、最近は "cWnn for Windows" を使うことに
よって他のアプリケーションでも中国語を扱えるようになってきて
いるようである。

Macはその登場以来多言語の入出力が既に可能になっていた。特に
上記のように'92年にWorldScriptが導入されてからは、システムと
して一度多言語環境を作っておけばそれに対応したアプリケーショ
ンを使いさえすれば容易に多言語出力ができるようになったので、
多言語を扱う場合には好んで用いられていたようである。実際に、
京都産業大学の外国語学部の情報処理教室では中国語やロシア語も
含む多言語を扱う必要があったために、'93年以来継続してMacが導
入されている。(1999.8.15、竹内 茂夫)
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UNIXだとX、Mule、Wnn 4.2などを利用することで、多くの言語が扱
える環境が手に入りますから、各言語ごとに異なった方法で文字を
入力するのではなく、統一された言語入力システムが使えるという
のも、メリットの一つですね。[新規注]


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[新規注]  UNIX上では統一された言語入力システム

ただし、Muleで使われるXのフォントの ISO-8859-8 の場合、ヘブラ
イ語が子音しか扱えないのが旧約聖書テキストの研究ではどうして
も不十分である。母音記号やアクセント記号まで含めて入出力でき
るような作業も進められていると聞いているので、期待したい。
(1999.7.31、竹内 茂夫)
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 とくに最近だと、ネットワーク上でも使えるコードに変換してファ
イルが保存できる、Muleなどのシステムは、とても重宝しますから
ね。ただ、フリー・ソフトは自分自身でインストールしなければい
けませんが。

T:そうですね。私は、Muleのヘブライ語やHebTeXを使うにあたっ
て、この大学の立木秀樹先生(理学部)や大学院生の柏野俊明君
(外国語学研究科)と松浦正和君(理学研究科)にとても世話にな
り、感謝しています。[新規注]


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[新規注]  立木秀樹先生、柏野俊明君、松浦正和君

立木先生は他大学に移動され、柏野君と松浦君は研究科を修了した。
柏野君とは現在もArabTeXについて情報交換を行っている。
(1999.7.31、竹内 茂夫)
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なお、この記事をまとめるにあたって、電総研(通商産業省工業技
術院電子技術総合研究所)のMule開発メンバー [注26]、およびオ
ムロン株式会社のマルチリンガル・チームの方々に協力していただ
きました。ありがとうございました。[新規注]


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[新規注]  電総研のMule開発メンバー、およびオムロンの
          マルチリンガル・チームの方々

1996年9月には、このメンバーが主な著者となり、そこに私が加わっ
て書いた、『マルチリンガル環境の実現』 錦見 美貴子 他著(プレ
ンティスホール刊) が発行された。実は当時(1995年秋)、私が竹内
先生を訪れたのは、この本のための情報収集を兼ねていた。実際に
苦労して環境を構築されている竹内先生の情報が、この本の貴重な
情報源となり、感謝している。(1999.7.31、よしだともこ)

この本以外に、『マルチリンガルWEBガイド 〜マルチリンガルWebペー
ジの見方と作り方〜』三上吉彦・関根謙司・小原信利 著 (オライ
リー・ジャパン、1997)も発行されており、非常に役立つ本です。
(1999.7.31、竹内 茂夫)
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[注1] 外国語学部

京都産業大学の外国語学部には、英米語学科、ドイツ語学科、フラ
ンス語学科、中国語学科、言語学科がある。へブライ語は、外国語
学部の研究語学科目として履修できる。


[注2]  ヘブライ語

ヘブライ語は、イスラエル共和国およびその他のユダヤ人居住地域
で使用される言語。右から左に向かって横書きする。


[注3]  各言語

MacOS 7.5は、'95年4月現在で37の言語にローカライズされている。


[注4] 3つのグループ

@単純な1バイト・スクリプト
A複雑な1バイト・スクリプト
B2バイト・スクリプト


[注5]  WorldScript Tに対応しているワープロ・ソフト

WordPerfect 3.0、Nisus Writer、MS-Word、All Script、Waltz
Word、Pascal Writeなど。


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[新規注]  WorldScript Tに対応しているワープロ・ソフト

また、Macに標準でついてくるSimple Textや、その他に多書体対応
のエディタでも対応しているものがある(iText, Jedit3,
LightWaytext, NuEdit, Tex-Edit Plusなど)。
(1999.8.20、竹内茂夫)
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[新規注]  WordPerfect

WordPerfect 3.5 for the Macintoshという2年近く前にリリースさ
れたバージョンが、8月中旬にフリーウエアとなった。ダウンロー
ドサイトは 
http://www.corel.com/products/macintosh/wpmac35/index.htm
で、これとほぼ同内容のCD-ROM版も25ドルで発売され、175ドルの
商品版も在庫がなくなるまで販売され続けるということである。
(1999.8.20、竹内 茂夫)
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[注6]  Waltz Word(ワルツワード)

フランス製ワープロ・ソフトを日本語版に移植した製品で、
WorldScriptに対応しているため、多言語環境が構築できる。サム
シンググッドから2万4800円(CD-ROM版の場合)で販売されている。


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[新規注]  Waltz Word

ただし、日本語版はこの数年まったくアップグレードされておらず、
もしショップ等で見かけるとしても古い68k版のものである。
(1999.7.31、竹内 茂夫)
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[注7]  ヘブライ語のキーボード配列が記述されたファイル

ヘブライ語ネイティブ(MagenDavid)と、アルファベットに準じた
もの(TransHebrew)の2種類がある。竹内先生は後者を愛用して
いる。


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[新規注]  ヘブライ語のキーボード配列

Multilingual Internet Accessをインストールすると、「Hebrew」
「Hebrew Powerb ook」というキーボード書類がインストールされ
るが、いずれもQWERTY配列(アルファベットに準じたキーボード)で
はない。(1999.7.31、竹内 茂夫)
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[注8]  ヘブライ語のフォント

Mac用のフリーのフォントは、FTPサイト(mac.archive.umich.edu)
サイトに多く置かれている。ヘブライ語のものも、
/mac/system.extensions/fontの下にある。フォントに関する情報
は、comp.fonts というニュース・グループでも流れる。


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[新規注]  ヘブライ語のフォント

その他に、Yamada Language Center Font Archive
( http://babel.uoregon.edu/yamada/fonts.html  )などからも入手
できる。(1999.8.15、竹内 茂夫)
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[注9]  アラビア語

アラブ諸国で使われている言語であり、イスラエルのパレスチナ人
も使っている。アラビア語の場合、右から左に向かって横書きする
が、単語の先頭にくるのか、真ん中にくるのか、最後にくるのかで、
文字の形が変化するので特殊な処理が必要となる。


[注10]  Nisus Writer

WorldScript に完全対応しているワープロ・ソフト。1つの書類内
に日本語や英語以外にも、アラビア語、ヘブライ語、ロシア語、中
国語(要 Chinese Language Kit)など、多くの言語を使用するこ
とができる。マーキュリー・ソフトウェア・ジャパンが7万8000円
で販売している。

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[新規注]  Nisus Writer

現在はこの半額以下で発売されている。また、もし ISO-8859-1 で用
が足りるのであれば無料で入手できる4.1.*で十分であろう。雑誌
のCD-ROMにも収録されていることがある。ただし、使用の際は登録
が必要である。バージョン4を軽くしたNisus Compactというものも
ある。(1999.7.31、竹内 茂夫)
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[注11]  Language Key

Nisus Writer で、非ローマン系1バイト(アラビア語、ヘブライ
語、ロシア語、東ヨーロッパ言語)および日本語以外の2バイト言
語を扱うために必要となる。マーキュリー・ソフトウェア・ジャパ
ンから 1万5000円で販売されている。


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[新規注]  Language Key

これは5.0以降不要になった。ADBポートに刺す必要があり、最近の
iMacのようにADBポートが付いていない種類のMacでは対応が面倒で
あった。(1999.7.31、竹内 茂夫)
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[注13]  Mule

GNU Emacs を拡張し、多言語表示、コード変換などの基本機能を追
加したシステム。Mule 2.3 は、Wnn 6 の jserver にも対応している。

なお、MuleはEmacsとの統合が進められており、本家のEmacsにも、
多言語表示の機能が付加さられるようになった。1999年8月現在の
最新バージョンはEmacs 20.4である。


[注14]  quail

「クェイル」と読む。キーボードからいろいろな言語の文字を入力
するために使われる。使える言語は、“CTRL-]”で、quail モード
([IPA]と表示される)に移行し、“M-s”と入力した後にスペースを
入力すると、一覧が表示される。


[注15]  its

入力文字変換系(Input character Translation System)。「イッ
ツ」と読む。「たまご」の一部分。使い方についてはUNIXまめちし
き1参照。


[注16]  自分が使いたいパッケージを呼び出す

日常的にヘブライ語を使うのなら“ (set-primary-environment 'hebrew)” 
を~/.emacs に記述しておくとよいだろう。パッケージには、
quail/hebrew.el(ヘブライ文字用)、quail/cyrillic.el(キリル
文字用)、quail/greek.el(ギリシア文字用)などがある。


[注17]  hebkey.elファイル

ヘブライ語をラテン・アルファベットに準じたキーボード配列で入
力するためのパッケージ。竹内先生のリクエストにより、電総研の
高橋直人さんが作られた。


[注18]  右から左に動かすモード

r2l(right to left)モード。


[注19]  ISO-8859-8

ISO-8859-8 は、ISO(国際標準化機構)が定めたヘブライ語の文字
セット。ISO-8859は、ラテン・アルファベットとそれ以外の1バイ
トの文字を含む「1バイト文字セット(SBCS)言語」としてまとめら
れた規格で、ISO-8859-1からISO-8859-10までの10種類がある。


[注20]  Muleのソースに含まれるdemoファイル

約30種類の言語で「こんにちは」が記述されたもので、Mule のソー
スに含まれている。各種のMule の紹介記事に載っている有名な画
面。


[注21]  電総研で作られたヘブライ語のフォント

etl14-hebrew.bdf、etl16-hebrew.bdf、etl24-hebrew.bdf の3種
類。Mule で使えるいろいろな言語用のフォントは、ソースにも含
まれているが、etlport.etl.go.jp:/pub/mule/fontsからも入手
できる。*.bdf というのはソース・コードで、*.pcf に変換して、
PCFフォントとして使うのが普通。


[注22]  ctext

compound textのこと。文字のエンコーディングの一つで、
ISO-2022 のサブ・セット。多言語を扱う場合に使われる。


[注23]  any2ps(あるいはm2ps)コマンド

any2psコマンドもm2psコマンドもMuleのソースに含まれている。
m2psコマンドは“*internal*”しか受け付けないため、普段
“*junet*”と呼ばれる文字コードを使っている人(つまり大部分
のユーザー)にとって、不便だというので、any2psコマンドが追加
された経緯がある。any2psコマンドは“*junet*”と“*internal*”
の2つの文字コードを自動判別する。ただし、m2psコマンドと
any2psコマンドの両方とも、右寄せで印刷できない。


[注24]  LaTeX

DECのLeslie Lamport氏が開発した TeX用のマクロ・パッケージ。
TeXとは、スタンフォード大学のDonald Knuth教授が開発した組版
システム。英単語の“technology”が、“τεχ”から始まるギリ
シャ語からきていることに由来して命名された。


[注25]  ArabTeX

ドイツのStuttgart大学のKlaus Lagally氏が作ったもの。
以下のところから入手できる。

  ftp://ftp.informatik.uni-stuttgart.de/pub/arabtex/     (本家)
  ftp://ftp.tex.ac.uk/tex-archive/languages/arabtex/     (UK)
  ftp://ftp.dante.de/tex-archive/languages/arabtex/      (Germany)
  ftp://ctan.tug.org/tex-archive/languages/arabtex/      (USA)
  ftp://ftp.u-aizu.ac.jp/pub/tex/CTAN/language/arabtex/  (日本)


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[新規注]  ArabTeX

ArabTeXの1999年8月現在の最新バージョンは3.09である。ただし、
HebTeXはpTeX 2.1.5以降とは日本語と2バイト文字の割り当てが
ぶつかっているらしくTeXで処理中エラーが発生し、そのまま強引
に処理を続けると画面表示や印刷時におかしな文字列が出力される。

私は3.09というバグを直したと宣言されているバージョンを使って
いるがこのバグはまったく治っておらず、ヘブライ文字をすべて正
常に出力させるためには特定のファイルを読み込まないようにした
りスタイルファイルを書き直さなければならない。幸いなことに、
ぶつかっているのがヘブライ文字の基本的な部分とは無関係なので、
書き直すことによる弊害が特に起こっていないようである。
(1999.8.15、竹内 茂夫)
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[注26]  mule開発メンバー

Mule の開発プロジェクトは、電総研の3つの部、4つの研究室と
いう、組織的にはぜんぜん別の合計4人(情報アーキテクチャ部言
語システム研究室の戸村哲さん、知能情報部推論研究室の半田 剣
一さん、知能情報部自然言語研究室の高橋直人さん、情報科学部認
知科学研究室の錦見美貴子さん)から構成されている。


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UNIXまめちしき@

Mule から「たまご」を使って中国語、韓国語の入力に挑戦!

 Muleから「たまご」を使えば、日本語以外にも、中国語、韓国語
の入力ができる。私が挑戦してみたので、その手順を紹介します。
 
●まずは中国語の入力に挑戦!

・Wnn4.2のソースに含まれるcserverをインストール
・cserverを起動

  % cserver 

・Muleを起動(もちろん、事前に起動しておいてもよい)と
cserverの動いているホスト名をセット(.emacs であらかじめ設定
してもよい)

  % mule

Muleが立ち上がったら、

  M-x set-cserver-host-name <cr> 
  ホスト名 <cr>

・自分が使いたいフォントがあるかどうかを確かめる

  M-x list-fontset <cr>
	  ↓

  Font #13 for Chinese GB2312 -- OPENED
   request: -*-*-medium-r-*--*-gb2312.1980-*
    opened: -Omron-Fixed-Medium-R-Normal--18-130-100-
  100-C-160-GB2312.1980-0
	:

・ピンイン入力を指定

  M-x its:select-mode-from-menu <cr>(CTRL-x CTRL-k m でも同じ)

  0.PinYin にカーソルを合わせて <cr>

・変換モードに移行
   [--]となっている変換モードを [] にするために、“CTRL-\”を入力

・中国語をピンインで入力
 たとえば、“nihao”と入力すると、画面に「Ni@hao」あるいは
「Ny Hao」のように表示される。四声を番号で入力してもよい。

・変換キー(“CTRL-w”あるいは space)で漢字に変換
 操作方法は、日本語のかな漢字変換と同じ。

・ファイルを保存する前には、ファイル・コード
(file-coding-system)を、*junet* あるいは *ctext* に
変更

 “CTRL-x CTRL-k f”と入力した後に、*junet*(あるいは 
*ctext* )と入力し、変換モード行を「 [ ]J.:--**-Mule」
(あるいは 「[ ]X.:--**-Mule」)に変える。


●韓国語の入力に挑戦!

 ハングルの入力と韓国語漢字(Hanja)の単漢変換は、“quail”
でも入力できるが、its を使うことで、kserver を利用したハングル
から漢字への連文節変換ができるようになる。その操作手順は、基
本的に、日本語や中国語と同じ。

 まず、kserverをWnn 4.2のソースからインストールして起動し、
“M-x set-kserver-host-name”で、サーバーをセットしておき、
続いて“M-x its:select-mode-from-menu ”<cr>(“CTRL-x
CTRL-k m”でも同じ)で、hangulを選ぶ。

 デフォルトでは、its/hangulはロードされないので、“M-x
load-library”<cr> “its/hangul”<cr> と入力してロードするか、 
~/.emacsファイル中に (set-primary-environment 'korean) と
いう行を追加し、起動時にロードする必要がある。

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(UNIX USER誌連載「よしだともこのルート訪問記」より)
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