[Date Prev][Date Next][Thread Prev][Thread Next][Date Index][Thread Index]

第6回 りんごの国と国交を結ぶ



1995年7月号 UNIX USER誌掲載「ルート訪問記」の過去記事

第6回 りんごの国と国交を結ぶ

ディアイティの大阪オフィスの百合啓雅(ゆり ひろまさ)さん
(営業部大阪SP1課)を訪ねました。インタビューには、大阪オフィ
スのネットワーク管理を担当されている橘俊男(たちばな としお)
さん(カスタマサービス部)と、本社(東京)から、その日たまた
ま大阪に来ておられた菅志津夫(かん しずお)さん(経営企画推
進室)にも加わっていただきました。


*ネットワーク関係のハードとソフトを売る会社

私(以下、Y):初めまして。まずは、会社について教えていただ
けますか。

百合さん(以下、U):ディアイティは1985年に設立された会社で、
当初から、ネットワーク関係の研究活動を行っておりました。87年
に、LocalTalk [注1] とイーサネット [注2] を接続するゲート
ウェイの「FastPath」の販売をスタートし、その後、Macintosh用
のイーサネット・ボードの「Etherport」も販売した関係で、UNIX
とMacintoshとのネットワークに特化したものを中心に扱うように
なりました。

Y:フリー・ソフトウェアとして、Macintoshからワークステーショ
ンを使うときに広く利用されているNCSA Telnet [注3]を日本語化
されたのがディアイティさんでしたよね。

U:はい。私どもの会社の吉田昭男(よしだあきお)が、日本語化
しました。会社から配布していたのは、バージョン2.5J [注4] ま
でです。

 わが社は、もともとUNIXの方からスタートしているんですよ。86
年の第1回UNIX Fair [注5] から、毎年出展してきましたから。
89年には、MacintoshをXのディスプレイ・サーバーとして使用す
るソフトeXodus [注6]の販売も始めました。

 当時は、UNIXマシンが高額でしたから、パソコンを端末として
UNIXを利用する環境は不可欠だったのです。パソコンの中では、
Macintoshが一番、UNIXマシンとの接続性がよかったのです。

Y:UNIXマシンが高かった頃は、X端末 [注7] も大活躍してまし
たね。X端末だと、UNIXの端末としてしか使えないわけですが、パ
ソコンを端末としても使えば一石二鳥ですものね。

U:ここ数年は、Macintosh関連のものだけではなく、DOS/V関連の
商品も扱っています。ただし、すべてネットワークに関するもので
す。というのは、「ネットワーク関係のハードウェア、ソフトウェ
アを売る。CPUは売らない」が、私どもの会社の基本的なスタンス
なんです。事業内容としては、ネットワークの設計や構築、コンサ
ルティング、ネットワーク機器の販売、ネットワークの設置および
維持管理です。わが社の商品のカタログをお渡ししておきましょう。

Y:ありがとうございます。(カタログを見ながら……)この、
「Internet Startup Service Program [注8]」という商品は、ず
ばり、インターネットへの接続をサポートするものですね。「専用
線IP接続 [注9]」と「ダイヤルアップIP接続 [注10]」のどちらか
をユーザーが選び、商用プロバイダ [注11] への接続申請からハー
ドとソフトのインストールや環境設定、そして初期導入教育まで、
すべてをサポートしてもらえるんですね。これはすばらしい。:-)


*UNIXのクライアントとして社内システムでも大活躍するMacintosh

Y:ディアイティが自社で構築されているネットワークについて教
えていただけますか。「ネットワーク専門会社のネットワーク」に
興味があります。:-)

U:本社が東京ですから、ネットワーク的には東京から外部、すな
わちWIDEと東京インターネットにIP接続されています。東京にある
ゲートウェイから大阪オフィス(以下、大阪)の分をルーティング 
[注12]して持ってきています。

Y:では、ここ大阪のマシン構成を教えていただけますか?

U:サンが1台、Macintoshが7台、PC/AT1台、プリンタが1台で
す。サンがセカンダリーのDNS [注13] として動いています。この
サンでSMTPやPOP [注14] を動かし、メールはMacintoshのEudora
[注15]で読み書きするようになっています。SMTPとPOPについては、
大阪のネットワークを管理している橘俊男君に説明してもらいましょ
う(まめちしき参照)。

Y:あのー、橘さんって、以前、jus(日本UNIXユーザ会)関係の
イベントでお会いしたことのある橘さんですよね。

橘さん(以下、T):そうですよ。

Y:お久しぶりです。あ、どうぞ説明を続けてください。

T:メールを出すときにはSMTPを使えばいいんですけど、SMTPでは
メールは受け取れません。そのようなわけで、POPというものを使っ
てメールをMacintoshに取り込んでいると理解してください。大規
模なサイトで、たとえ1人1台のワークステーションがあったとし
ても、それぞれの上ではSMTPは使わせずに、集中したサーバー(メー
ルのスプールがある)に、POPでメールを取りにいかせるという運
用をしているところもあります。

 「POPを使ってメールを受け取る」ことで、何がうれしいのかを
説明しておきます。たとえば、まずMacintoshどうしの場合でうれ
しいのは、自分とメールを受け取る相手の両方がEudoraを使ってい
る場合、バイナリ・ファイルをダイレクトに送れるという便利さが
あります。バイナリ・ファイルを意味不明の暗号に変換してメール
で送って、受け取った人が元に戻して、というのは、面倒臭いでしょ
う。その必要がなくるわけです。

「バイナリ・ファイルを添付する」という情報だけ送るときに指定
しておけば、メールを送信している最中、すなわちSMTPで通信を行っ
ている最中には、テキスト・ファイルの形式に自動的に変換して送
信してくれるというわけです。後はすべてEudoraにお任せです。こ
の便利さは、Eudoraの便利さでもありますが。

U:ところで、よしださんは何を使ってメールを読み書きしている
のですか?

T:彼女はEmacs [注16] 使いですから、mh-e [注17] ですよ。

Y:あれ?  よくご存じですね。

T:連載を読んでいれば分かります。:-) 話を戻しますが、POPを
使って一番うれしいのは、POPで通信ができれば、DOSであろうが
Macintoshであろうが、もちろんUNIXであろうが、メールが取り込
めることです。さらに便利な使い方としては、メール・サーバー側
に読んだメールも残したままにすることができますから、自分の机
の上にあるMacintoshがいきなり壊れてしまったとしても、別の
Macintoshからメールを読み直すことができるというメリットもあ
ります。

 実はPOPにも問題点はありまして、最大の問題は、パスワード認
証をするときに、パスワード文字列を暗号化せずにそのままプロト
コル上に流すため、ネットワーク上をパスワードがそのまま流れて
いるという点です。まあ、どのプロトコルでも似たようなものなの
ですが、とくにPOPはいっさい変換をせずにそのまま流すというこ
とで、盗聴されやすいという危険をはらんでいます。それでも、
「POPを使うのはやめよう」という話にはならなくて、POPが使える
便利さというのは、その欠点を補ってあまりあるというわけです。

Y:なるほど。

T:POPは自分自身でメールを配送せずに、常にユーザーに徹して
いますから、ユーザーのために一番軽くて便利でオープンで使いや
すいプロトコルは何だといわれたら、現状では選択肢はPOPしかな
いわけです。

 よしださんがmh-eでメールを読んでいても、メール・サーバーと
は違うマシンからPOPを使ってメールが読めるというわけです。マ
シンは、MacintoshであろうとDOS/Vであろうと何でもよいし、UNIX
を使っているとしてもインタフェースが変わっても使えるというメ
リットがあります。

Y:勉強になりました。ご講義、ありがとうございました。:-)


*自宅でも会社でも同じ環境を使いたい

Y:自宅からもメールを読み書きされているんですか。

U:はい。MacintoshのPowerBook Duo 270cというラップトップを
常に持ち歩いて、自宅からだけではなく、外出先からも読み書きし
ています。このラップトップは、面白いことに、家に置いている
Duo Dockという箱にガチャンとはめ込むと、デスクトップになるの
です。モニターも別にあり、箱側にディスクが何百Mバイトかあり、
拡張できます。自宅からは、PPP [注18] で会社にアクセスしてい
ます。最近では、公衆電話でもISDN [注19] のものが増えています。

Y:ところで、公衆電話で通信されたこと、ありますか?

U:もちろんありますよ。

Y:あれって、すごく勇気がいると思いません?

U:たしかにかっこ悪いですね。Macintoshを会社や自宅など、い
ろいろな環境で使う場合、MacTCP [注20] の設定の書き換えにけっ
こう手間がかかります。接続するサーバーのアドレスをいちいち書
き換えなければいけませんから。それを簡素化するために作られた
ユーティリティとして、「MacTCP Exchanger [注21]」というもの
があります。これは、私どもの社員の重田洋子(しげた ようこ)
が作って、フリー・ソフトウェアとして提供しているものです。

 私もこれを利用して、手軽にチェンジして使っています。よく似
た機能のものに、「MacTCP Switcher」というアメリカで作られた
フリー・ソフトウェアも存在するのですが、より使いやすいものと
して、純国産のものを重田さんが作ったというわけです。

Y:日本人にはやっぱり日本語を使えるのが一番ですよ。

U:「インターネットの間口を広げていきたい。一般の人にも使い
やすくしたい」という思想から生まれたものだといえますね。


*成長途上のインターネットに対してわれわれができること

Y:最近、インターネットが本当に 注目されていますね。

管さん:八重洲ブックセンターなんか、インターネットフェアを定
期的に開いていますよ。地下鉄なんかでも、インターネットの本を
読んでいるサラリーマンをよく見かけますし。

U:インターネットはいままで、クローズな環境で(技術者、研究
者などが)、特殊な目的(学術、研究)で使ってきたものです。し
かしこれからは、一般の人たちが、一般の目的で使っていく時代で
す。たとえば、主婦の方が料理の情報を得るとか、学生が映画の情
報を入手したりチケットを購入したりするのに使うとか。テレビの
番組の内容が面白くなければ誰も見ないのと同じように、提供する
中身が問われる時代になってくるわけです。

Y:私の場合、数年前まで、コンピュータ関係の仕事をしていない
友達と、インターネット関係の話をすることはまったくなかったの
ですが、最近、そのような友達から「インターネットって何?」と
聞かれた場合は、具体的な説明 [注22] を、できるだけ分かりやす
くするようにしています。

U:これまで、インターネットを育ててきたわれわれは、これから
使う人たちに「何だ、つまらない」といわれないように、もっともっ
と考えていかなければいけないと思います。内容を充実していくこ
とと、使い勝手をよりよくしていくことが不可欠ですね。インター
ネットは、いま、成長途上なんですね。

 いまのブームで、ある程度まではユーザーが増えるでしょうけど、
そこから先は、インターネットで提供できる情報やサービス(内容)
がどれだけ増えるかで、変わってくると思います。価値があれば、
多くの人が利用するようになり、その相乗効果で資本が投下されて
いきますから、よくなっていきますよね。そうすると、いままで使っ
ていた人たちも、得るものが多いわけです。

 たとえば、回線のスピードが速くなることも考えられますし、い
ま、いろいろなメディアに個別に存在する情報が、インターネット
に集約されてくるかもしれません。インターネットが強力になるこ
とは、これから使っていく人にとっても、これまで使ってきた人に
とっても、よいことだと思います。ちょうどいまが、大きく変革し
ていく重要なはざかい期だと思います。よしださんは、そう思いま
せんか?

Y:実は、そこまで深く考えたことはありませんでした。なんとな
く、利用者がこれから増えるだろうな、と思っていたぐらいで。

U:ぼくは痛切に思っていますよ。将来はきっと、いまは想像がで
きないくらいの規模のものになりますよ。

Y:楽しみですね。今日は本当に、貴重なお話をありがとうござい
ました。



[注1]  LocalTalk

AppleTalkプロトコルを使ったMacintosh独自のネットワーク・シス
テムで、Macintoshと周辺装置を接続するための通信方法。配線が
やさしく装置が安価であるが、速度が遅く(230.4Kbps)、接続距
離が短く(300m)、台数も少ない(最大32台)。小規模で一か所
にまとまった環境で使用するのに適している。


[注2]  イーサネット

米ゼロックスとDEC、インテルが共同で開発、80年に製品化したバ
ス構造のローカル・エリア・ネットワーク(LAN)。配線が比較的
簡単で、速度が速く(10Mbps)、装置が安価である。特殊ケーブ
ル(同軸ケーブル)が必要である。1つの伝送路をすべてのユーザー
が共有するため効率が悪く、過負荷に弱い。


[注3]  NCSA Telnet

Macintoshとホスト間でファイル転送を行ったり、VT100準拠の端末
エミュレータとして使用するためのフリー・ソフトウェア。 Jim
Browne氏とClint Popetz氏によって作られた。


[注4]  2.5Jまで

最新バージョンのNCSA Telnet 2.6Jは、会社から配付されているの
ではなく、ボランティア団体により配付されている。


[注5]  UNIX Fair 

86年から毎年、日本UNIXユーザー会(jus)の主催で開催される、
国内UNIX業界最大の展示会。今年(1995年)のUNIX Fairは、12月6
日〜12月8日にパシフィコ横浜で開催される。


[注6]  eXodus

MacintoshをXのディスプレイ・サーバーとして使用するための商
用ソフトウェア。「エクソダス」と発音する。 現在のバージョン
は5.0で、PowerPCにもネイティブ対応している。


[注7]  X端末

Xサーバーの機能だけを専用のハードウェアで実現したもの。


[注8]  Internet Startup Service Program

詳細な内容について、 (株)ディアイティで、
で受け付けている。


[注9]  専用線IP接続

専用線で商用プロバイダにIP接続して、インターネット上の各種サー
ビスを利用したり、情報を発信したりするネットワークの接続形態。


[注10]  ダイヤルアップIP接続

商用プロバイダのホスト・コンピュータにそのつど接続して、イン
ターネット上の各種サービスを利用する形態。


[注11]  商用プロバイダ

電気通信事業法の第2種通信事業者のこと。回線を持たずに1種事
業者(自分で回線を資産として敷設して運用する事業者)の回線を
利用して、サービスを提供する。


[注12]  ルーティング

ルーターがIPアドレスを見てデータ(パケット)の中継経路設定を
行うこと。


[注13]  DNS

Domain Name Systemのこと。メインのDNSは東京にあるため、大阪
のマシンは、セカンダリーのDNSとして動いている。


[注14]  POP

Post Office Protocol。「ポップ」と発音する(まめちしき参照)。


[注15]  Eudora

「ユードラ」と発音する。Macintoshでメールを読み書きするため
の、POPクライアント(まめちしき参照)。原作者はSteve Dorner
氏。日本語版制作者はアシックスの中田 了氏。なお、95年5月現
在の最新バージョンは1.3.8-J13。


[注16]  Emacs使い
Emacsユーザーのこと。


[注17]  mh-e

EmacsからMHのコマンド群を使うために利用される。


[注18]  PPP

Point-to-point protocolのこと。ダイヤルアップIP接続時に用い
られるプロトコル。


[注19]  ISDN

Integrated Services Digital Network(統合サービス・デジタル
網)のこと。単一回線上で同時に音声とデジタル・データの通信が
可能。インターネット・プロバイダへのアクセスに際し、高速にデー
タ通信の可能なISDNが注目を浴びている。


[注20]  MacTCP

MacintoshにTCP/IPの機能を追加するためのコントロールパネル。 
以前は別売りだったが、漢字Talk 7.5から標準で組み込まれるよう
になっており、昨今のインターネット・ブームに拍車をかけている。


[注21]  MacTCP Exchanger

最新バージョンは、2.0である。日本語版のNCSA Telnetを配布して
いるのと同じグループによって配布されている。このツールは、今
月号のCD-ROMの/rensai/Rootデイレクトリに収録されている。


[注22]  具体的な説明

初心者には、「電子メールを利用して、アメリカの出版社に本を申
し込んだら、航空便で送られてきた」という話を、具体的にするこ
とにしている。最初は、本の名前さえはっきり分からなかったので、
メーリング・リストを利用して複数の人に問い合わせていたところ、
たまたま電子メールで注文できるという情報が入手できたのだった。


===================================================================
UNIXまめちしき

SMTPプロトコルとPOPプロトコルの基礎知識

 Macintoshユーザーの多くは、Eudoraでメールの読み書きを行い
ますが、Eudora自身には、メールの配送と受信の機能はありません。
そこで、一般的に、メールを配送するためにはSMTPを利用し、メー
ルを受信するためにはPOPを使います。SMTPとPOPは、それぞれプロ
トコルの名前です。ここで簡単に説明しておきましょう。

 SMTP(Simple Mail Transfer Protocol)は、TCP/IPを用いたメー
ル配送のプロトコルです。SMTPサーバーとは、SMTPでメールを配送
するプログラムのことで、配送されてきたメールを受け取る機能も
持っています。UNIX上では通常、sendmailというSMTPを利用してメー
ルの送受信をするサーバーのプログラムが動いています。Eudoraは、
SMTPサーバーの機能を持っていないため、直接相手先にメールを配
送することはできません。そのため、SMTPサーバーが代わりにメー
ルを配送する仕組みが一般的に使われているわけです。

 また、POP(Post Office Protocol)は、配送されてきたメール
の置かれる(スプールのある)計算機にログインすることなく、配
送されたメールを読むことを可能にするプロトコルのことです。そ
して、POPのプログラムをPOPサーバーと呼びます。Eudoraは自分で
はスプールを持っていないため、指定されたPOPサーバーに、POPを
使ってメールを受け取りにいくことで、メールを受信するわけです。
POPは現在、POP3というバージョンが広く利用されています。

 なお、SMTPサーバーとPOPサーバーは同じ計算機で動いているこ
とが多く、その計算機は一般的にメール・サーバーと呼ばれます。

===================================================================


(UNIX USER誌連載「よしだともこのルート訪問記」より)
http://www.tomo.gr.jp/root/ に戻る