[前回記事] [トップ] [次回記事]

2000年8月号掲載 よしだともこのルート訪問記

第65回 コンピューターが教育の道具となっている小学校
〜京都市立大薮小学校〜

 今回は、京都市立大薮小学校注1を訪ね、教諭の下村貞之(しもむら さだゆき)先生、勝木清隆(かつき きよたか)先生から、同校のコンピュータ環境、ならびにその環境を教育にどのように利用なさっているかを中心にお聞きしました。

■インターネットも利用できるコンピュータ環境

よしだ(以下Y):はじめまして。この学校のWebページの方で、ネットワーク図などを見せていただきまして、いつごろからこういうことをされていたのだろうかと興味を持ちました。公立の小学校としては、かなり進んでいると私は思うのですが、何かきっかけがあったのでしょうか。

下村先生(以下S):京都市では、平成12年度注2(2000年度)を最終年度として、200校近くある京都市の全小・中学校に、22台ずつパソコンを導入するとともに、すべての学校をインターネット接続する計画があります。この整備計画は、京都市情報教育センター注3(以下、センター)実施しています。
 まず、平成5〜6年(1993〜4年)に、計画に先立ってWindows 3.1のパソコンが27校に導入されました。その後、順番にWindows 95が導入されてきました。本校へは、活用が期待されることも考慮され、早くから導入されましたね。

Y:使える先生がいる学校から順に、ですか?

S:そうですね。そういう意味では本校は結構早い段階から入れてもらいました。整備計画は平成7年度(1995年度)にWindows 3.1パソコンが7台入ってきたのが最初でした。
 実は、平成6年(1994年)の段階で、学校にパソコンを独自に入れようと思ったのです。すると、「来年度から整備計画を進めていくからそれを利用してくれ」とセンターの方にいわれて、整備計画が始まった初年度に入れました。

勝木先生(以下K):導入時期によって、入った機種はちょっと違うのですが、NECのPC-9821が一応メインで入っていますね。
 7台しかなかったころは、生徒40人の授業では使いにくかったですね。1台に5人から6人くらいの児童が群がる形ですと、なかなかマウスを握る機会もないですから。
 しかも、ソフトウェアもどう使っていったらいいか、こっちも手探りという状況でした。私は、Windows 95が出てから本格的にパソコンを触り始めたので、最初はどう教育に使ったらよいかなんて分かりませんでした。
 平成9年度(1997年度)に15台追加されてからは、コンピュータルームに20台のパソコンが設置できたので、40人学級だと2人に1台の割合になって、それなりに使えるようになりました。現在、パソコンがある場所と種類は、次の通りです。(2000年当時)

職員室
NEC PC-9821Xc16 Windows 95 1台
Gateway Windows 98 1台
Fujitsu Biblo Windows 95 2台
コンピュータルーム
NEC PC-9821Xc16 Windows 95 14台
NEC PC-9821Cx2 Windows 95 6台
第2図書室
NEC PC-9821Cx2 Windows 95 1台
Fujitsu 4100-D4 Windows 95 3台
NEC PC-9821Ap2 Windows 95 1台
その他(DOS、Windows3.1) 4台
そのほかの設備
スキャナ3台、デジタルカメラ6台(QV10、DS-20、DS-30、C900ZOOM)、プリンタ9台


S:インターネットに接続できる環境は平成10年度(1998年度)に整い、テレビ会議システム(Phoenix)もできる環境を整備しました。インターネット接続は、職員室とコンピュータルームからできます。コンピュータルームからは、MN-128を使い、最大7台同時にインターネットが使えるようになっています。

Y:こういう構成の場合、どうやって外部のWebページを見ることになるのですか。

K:ネットワーク図の中にMN-128がありますよね。これはSOHOでよく使われるISDN用のTAですが、これがルーターの機能を持っていますので、そこから外に出ていきます。
 いったん、サーバーであり、同時にプロバイダとしてのセンターとつなぎます。その後、最大7台のパソコンから外部に接続できるようになります。
 64kbpsでつなぎますから、7台だと負荷が高いですね。通常のページを見るのなら、そこそこ見られるのですが、検索をすると止まった状態になってしまいます。

S:このISDN回線は、通常、1本分の回線をFAXが使っているんですよ。だから、インターネット用に2本両方使えないんです。ただし、テレビ会議のときだけは、FAXを止めて実施しています。

K: LAN環境として、職員室、コンピュータルーム、第2図書室は、Windows 95のネットワーク機能を使ってLANを構築しています。
 第2図書室と職員室は別校舎で離れているので、夏の職員作業注4のときに、配線などもすべて自分たちでやりました。校舎の窓枠に少し穴をあけるので、事前に校長先生に了解はもらいましたが……(笑)。
 LAN内に独立したファイルサーバーを用意していないので、中心になるコンピュータ(コンピュータルーム1台、職員室2台)に共有フォルダを作り、コンピュータを起動した時点で共有フォルダをファイルサーバーのように利用しています。
 ほかの先生方には、フロッピーディスクの持ち運びをしなくてもファイルの移動・コピーができるという基本的なことだけ伝えて、使ってもらっています。
 また、平成12年度(2000年度)には、職員室の無線LAN化も計画しています。ノートパソコンを持っている先生方もたくさんおられるので、とくにファイルの印刷などに便利になるのではと考えています。
 でも、LANについては、専門的な知識があまりないものですから、こうすればもっといいよ、とアドバイスがほしいぐらいです。

図 大薮小学校のネットワーク構成図(2000年当時)
大薮小学校のネットワーク構成図

■使っているソフトウェア教材とは

K:この学校で使われているソフトウェアの種類をまとめると、次のようになります。

この学校に導入されている主なソフトウェア(2000年当時)
統合ソフト スーパーYUKI
音楽ソフト ミュージックPro
描画ソフト キッドピクス、アートスクールダブラー2
Web作成ソフト ホームページビルダー2000

 他に、クリエイティブライター2、算数ランチボックス2、わくわくワード(英語)、マウス体操、キーボードゲーム、宇宙の不思議など

K:考え方としては、コンピュータも1つのツール、つまり、情報をまとめる道具であるとか、新聞や本と同じような感じで、調べる道具であると考えています。
 現在のところまだ取り組んでもらっているクラスは少ないのですが、情報発信の道具としてのインターネットとして、将来的にはホームページに子供たちのまとめたものをどんどん出していくことができたらなぁ、と思っているところです。
 ここにあげた、いつも使っているソフトウェアの中で見ると、京都市の学校のほとんどが「スーパーYUKI」という統合ソフトを使っており、この学校でも、かなりこれを使い込んでいますね。これは、文字入力の練習から使えるもので、マウスで絵を描いたり、スキャナで読み込んだ画像を貼り付けたりしています。リンクできる形になるので、ボタンを押すと次のページに進むこともでき、これを使って、クイズなどを作っています。
 また、4年生の算数で、回転させられる三角形の面積の学習でも使いました。それはどうして三角形の面積が「底辺×高さ÷2」という公式になるのかを確かめるときに、回転させて上に重ねてみて、「2つ分や!」と実感させるために使いました。

S:結局、ここの機材やソフトウェアについては市が何を導入するかなんです。
 市やら県によって動いているところもあれば、学校全体で動いているところもあるんですけれどね。京都市の場合は、もうそれはかなり前から今後のことを考えて、京都市情報教育センターを作って、そこが中心になってコンピュータやソフトウェアの管理とかプロバイダ業務も行っています。
 ソフトについては、センターが選んだものを学校に台数分配っています。そうすれば、コスト的な面でそれぞれの学校に負担がかからないし、担当される先生方にしても、転勤したとき赴任先の学校でそれが使えるというのは安心です。

K:キー入力の基礎注5やマウスの使い方は、低学年から授業の時間にやっていくのですが、一律でそのような機会が持てないという弱さがあるので、平成11年度(1999年度)に、本校では「コンピュータ委員会」を作りました。お昼休み注6に委員会の当番(高学年)がコンピュータルームの鍵を開けて、その時間にこの部屋にきた児童は自由に使える環境を作ったんです。昼休みが終わると、当番がコンピュータを終了させて、部屋の鍵を閉めて鍵を返しにきてくれます。

Y:図書委員みたいな感じですね。

K:そうです。そうです。委員会の児童をインストラクタとして指導させる予定でしたが、当番のほとんどがコンピュータをまったく触ったことのない児童だったので、5月からスタートさせて、実際に当番を完全に任せられるようになったのは、3学期でしたね。

S:仕込みに時間がかかってしまって……(笑)。それから、学年によっても多少の差はあります。

Y:学年ごとに、はやりがあるのですか。

S:担任の教師の持っていき方次第です。幸い、この学校の先生はみんなコンピュータに興味を持っていて、児童にも使わせたいと思う先生が多いです。

K:まだ、「この学年でこの学習を」という決まったカリキュラムがあるわけではありませんから、先生の要望や情報教育部からの提案で授業の中でのコンピュータ活用が図られています。そういった意味ではカリキュラム作りは今後の大きな課題ですね。「総合的な学習の時間注9」の導入で、そのための時間も取られるようになるでしょうから。

Y:学校を超えて先生が集まる研究会の中で、カリキュラム作りを検討することになるのでしょうか。

K:そのカリキュラムを学校に持っていったときに、教えられる先生がいない学校では、なかなか難しいでしょうね。

S:本校は、積極的に使っていきたい先生の比率が多い学校ですね。ほとんどの教職員が、自分のパソコンを持っていますから。

K:無理やり買わせました注10から(笑)。しかも、校内での研修も何回もやりましたし、それで半数以上の教職員がインターネットの利用アカウントを持っています。

S:こちらが「こんなことができる」といったときに、「こんなこともできるの?」「あんなこともできるの?」と聞いてくるような先生のいる学年は、使う児童も多いですね。

Y:大人が興味を持って楽しんでいる様子が、子供にも興味を持たせるんでしょうね。

■インターネットで3種類の学習を

S:インターネットを使って、3種類の学習を実施しています。「情報を集める」、「情報を発信する」、「交流する」ですね。
 最も使い込んでいるのは、「情報を集める」の部分ですね。検索するだけではなく、専門家に質問のメールを書いて、返事を受け取ったり注12しています。
 「情報を発信する」に関しては、コンピュータクラブ注13の部員に「ホームページを作ろう」と声をかけて、実際に作ったりしました。

K:平成11年度(1999年度)に、コンピュータルームの隣の部屋を、第2図書室として整備を始めたんですよ。この部屋は、最初は図書で調べ学習注14をする部屋として整備されたのですが、現在ではCD-ROMやインターネットを使ったパソコンでの情報検索ができるようになっています。
 将来的には、コンピュータルームと第2図書室を1つの大きなスペースとして使えるような形にする要求を出そうと検討中です。

S:京都市内の中心部の小学校は、児童数が大幅に減っているという現実があるんですが、本校の場合は、以前に比べると多少減ってはいるという程度で、大幅な増減はないんですよ。空き教室がないので、コンピュータルームも第2図書室も、非常に手狭になってきているんです。

Y:ところで、この小学校の規模は?

K:児童数は700名弱で、1学年、大体3クラスずつです。

S:これで、京都市南区の小学校の中では一番大きいんです。僕たちは担任を持っておらず、僕らのようにフリーで動ける教員がいることで、コンピュータを使った授業に入ることが可能になっています。
 そのために、担任がコンピュータを授業に取り入れるときのバックアップ体制が作れるんです。
 担任の先生方は、技術的なことや、フリーズしたときの対応の心配はせずに使えますからね。先生方から、「こんな授業に使いたいんやけど。この時間に、サポートに入ってほしいんやけど」と、声をかけてこられます。

■合宿中の児童がテレビ会議で保護者に現地調査をレポート

S:交流学習として、Phoenixを使ったテレビ会議注15を実施しています。

K:本校では、三重県志摩郡大王町にある、京都市の野外教育センター「みさきの家」に行き、主に野外活動を中心とした体験学習を行っています。平成11年度(1999年度)の場合、10月20日から22日まで滞在したのですが、そのときに、テレビ会議を使った交流学習「みさきチャレンジ'99」を実施しました。
 通常の年は、キャンプファイアをしたり釣りをしたりして、自然に触れ親しむんですが、今年はまったく形式を変えて、そこの自然と自分たちの暮らしとのつながりを考える機会にできないかと考えたのです。

S:自分たちの住んでいる京都と「みさきの家」のある地域との生活、文化を比較するという観点で、調べたいもの(方言、食生活、家の構造、産業……)で、18のグループを作りました。まずは自分の地域でそのテーマを調べて、「みさきの家」の滞在を、現地調査の活動に変えたわけです。
 京都での調べ学習の時期から、保護者の方にもグループのメンバーに入ってもらい、京都では一緒に調べ学習を行いました。保護者は、「みさきの家」には行きませんから、その保護者に対して、子供たちが「みさきの家」から現地調査の結果を、ちょうどリポータのようにテレビ会議でリアルタイムに報告するという形にしました。

Y:お留守番の保護者に伝えるわけですね。

S:相手意識を持って調べることで、やる気もわいてくると思ったからです。みさきの家には、回線も何もない状態でしたが、情報教育センターに頼んで、ISDNの臨時回線を引いてもらい、機材をすべて持ち込んで頑張って実施しました。
 1日目、2日目の子供たちの調査結果を整理して、デジカメ注16のデータはあらかじめWebで見られるようにしておき、それで、2日目の夜7時からの約1時間、テレビ会議を使った「報告会」を実施しました。
 小学校の体育館には、保護者に集まってもらい、そちらのセッティングは勝木先生にお願いし、私は「みさきの家」側のセッティングを担当しました。

Y:保護者は何人ぐらい集まられましたか?

S:課題追求の段階でかかわってくださった保護者は約50名でしたが、「報告会」の参加者は150名。家族で(両親と兄弟)参加してくれた家庭が多かったからです。

Y:合宿先の子供の発表を聞けるとなると、家族で行きたくもなりますよね。

K:感動的でね、最後に一緒に歌を歌ったのですが、泣いている保護者もいらっしゃいましたよ。

S:下見の段階から、関係する教員は全員行きましたし、滞在中、寝る暇もないほど忙しく、すごく大変でしたが、やってよかったと思いましたね。

■コンピュータをマニアックな人の道具にしないこと

Y:UNIX系のOSをサーバーとして使わなくても、このように、いろいろと教育に活用できるのだということがよく分かりました。

K:サーバーにLinuxを入れることを考えた時期もあったんですけど、私たちがこの学校から転勤になったときに、次に担当される先生が大変だろうなぁと思い、結局あきらめました。Windowsを使ったいまの状態なら、だれにでも理解しやすいでしょうから。

S:現在は、Windowsのネットワーククライアントの機能を利用して、ファイル共有をしている程度です。一度、ファイルサーバーとなるパソコンも用意することを試みた時期もあったのですが、最終的にそれをしなかったのは、子供たちがメインで使っている「スーパーYUKI」がネットワーク対応のソフトウェアではなかったからです。「スーパーYUKI」に関しては、それぞれのパソコン上でスタンドアロンで起動して使い、各パソコンにファイルを保存しています。
 スタンドアロンは、とても理解しやすいですよね。たとえば「このパソコンの上で自分が作った作品は、このパソコンの中にあって、いつでもそこで続きができる」のですから。これが、児童と、パソコンに慣れていない先生方にとって一番分かりやすいという結論に達しました。
 ですから、よっぽど財産として残したい作品は、でき上がってから、Webサーバーにアップロードするという形で保存していけばいいと思っています。「このパソコンで作った作品が完成したから、別のパソコン(Webサーバー)に提出しよう」なら、子供たちにも容易に理解できます。
 いまは、ホームページ作りの環境にしてもほかの教育利用にしても、「子供たちにとって、分かりやすいのは何か」を模索している状態ですね。ネットワーク対応の「スーパーYUKI」もできているそうなので、近い将来にでもそれを使うようになれば、いまの状況を変えていくことになると思いますが。

Y:いくら「システムとして美しいのは、クライアント/サーバーモデルだ」といっても、それに対して、現場の先生が利用しにくい、分かりにくいと思うなら意味がないということですね。

S:僕が所属している「京都市小学校教育メディア研究会」のスタート時からの発想は、「コンピュータを、いかに特別なものにしないか。いかに単なる道具として使うか」でした。コンピュータに詳しい人が、マニアックなオタクな人しか使えない方法で使うようなことばかりしていては、いつまでたっても一般には広まらないわけです。
 OHPやビデオ教材が、まず先生の教育の道具となったように、コンピュータもだれでも使える道具にしていこう、ということです。まず、僕ら教師の道具になり、最終的に児童の道具になれば、という気持ちです。

Y:小・中・高校の先生のための研究会というのが多くありますね。

S:「京都市小学校教育メディア研究会」は、もともと、放送と視聴覚とコンピュータという、3つの研究会を、1つに統合したものです。いまは、コンピュータがメインになっていますが、僕のもともとの専門は視聴覚教材の研究で、OHPなどに代表される機器を、道具としてどう授業に使いこなすかを研究し、研究授業も実施しています。
 ここ何年間か、コンピュータを道具として扱ってきて思うのは、コンピュータが使えることを児童の武器にしてあげたいということです。

Y:なるほど。これまで弱者とされてきた人が、これを手にすることで強くなれた例注17が多くありますよね。今日は、興味深い話を、どうもありがとうございました。


 この取材は、京都ノートルダム女子大学人間文化学部人間文化学科の斉藤純子さんのアレンジで実現しました。ありがとうございました。

クライアント/サーバーモデルは理解しにくい
注1 京都市立大薮小学校
〒601-8206
京都市南区久世大薮町62
TEL075-921-3303
FAX075-933-3600
http://www.edu.city.kyoto.jp/hp/oyabu-s/
明治6年(1873年)、山城国乙訓郡大薮村に創立される。
明治40年(1907年)、6年制の大薮尋常小学校となる。
昭和16年(1941年)、乙訓郡大薮国民学校と校名を改称。
昭和34年(1959年)、京都市編入により京都市立大薮小学校と改称。

注2 平成12年度
通常、この連載では元号表記は用いないが、今回の取材先である大薮小学校がある京都市では元号表記を用いているため、今回は併記することにした。

注3 京都市情報教育センター
同センターは、プロバイダとしてサーバーを管理し、Web、電子メールなどの各種サービスを提供している。活用に関しての研究や、利用についての支援・アドバイスも行っている。詳しくは、http://www.edu.city.kyoto.jp/参照。

注4 夏の職員作業
いろいろな修繕などの担当を決めて、例年、職員が実施するもの。

注5 キー入力の基礎
小学校でローマ字を習うのは、4年生の国語だそうだ。そのため、それまではカナ入力する児童が多いが、家でパソコンを使っている子供は、ローマ字入力するケースが多いそうだ。

注6 小学校のお昼休み
お昼休みは、合計20分間なので、起動と終了の時間を考えると、正味使えるのは10分ぐらいだそうだ。

注7 2002年に中学校、2003年に高校で情報教育が必修化
中学校では「技術」の時間の50%が「情報」の時間として必修化され、高校では「情報」という科目が新設され、「情報A」「情報B」「情報C」の中から1科目を選択必修することになる。
これに関連した代表的な論文とWebに、次のものがある。
松浦敏雄、武井惠雄、大岩元:『高校新教科「情報」の指導法の提案』、情報処理学会、情報教育シンポジウム(SSS99)論文集、vol.99、No.10、pp.23-30(1999-07)
情報処理学会初等中等教育委員会ワーキンググループ編、試作教科書。

注8 勉強会やフォーラムの類が盛んに実施
本連載でもたびたび紹介している、東海スクールネット(http://www.schoolnet.or.jp/)が、『インターネットの教育利用、全国4万校の先生へのメッセージ』というタイトルの実践報告集を、2000年3月に、教育家庭新聞社から発行された。価格:本体1,143円+税、ISBN4-87381-212-7。

注9 「総合的な学習の時間」
小・中・高校の全学年を通じて、週当たり2〜3時間の「総合的な学習の時間」が設けられることになった。教育内容は学校もしくは教員に任されているが、国際理解、情報、環境、福祉・健康などのテーマに取り組むように指導されており、すべてのテーマにわたって、コンピュータおよびインターネットの積極的な活用が求められている。

注10 無理やり買わせた
個人パソコンには、ノートパソコンを勧めているそうだ。ノートなら、インターネットにうまくつながらない場合などにも、学校に持ってきてもらえば、詳しい人が対応できるため。

注11 同じルーツである
オープンソースの開発効率の高さとネットワーク管理者の目的意識と生産性が高いのは同じルーツであvるということを「'99インターネット教育フォーラム実践報告集」(1999年11月28日に大阪で実施)に書いた。http://www.k12.gr.jp/で、この実践報告集の原稿が公開されている。

注12 メールを書いて返事を受け取る
農業のことを勉強しているときに、畜産協会に「牛のことを教えてください」というメールを書いて、詳しい返事を受け取ったそうだ。大薮小学校が1つメールアドレスを持っていて、それをみんなで使うという運用方法。

注13 コンピュータクラブ
4年生から6年生、20名。男女比は半々。

注14 「調べ学習」
小・中学校では、図書館の資料を使ったり、インターネットを使って情報検索することを、「調べ学習」と呼ぶ。授業で調べ学習をする場合、役立つWebを先生が探して、各パソコンのブックマークに追加しておくそうだ。そうすれば、児童はかなりスムーズに必要とする情報にたどり着ける。

注15 交流学習としてPhoenixを使った「テレビ会議」
Phoenixを使った「テレビ会議」は、相手との通信に電話を使う。NetMeetingなどのようにインターネットを使うわけではないため、遠距離だと電話代が高くつく。Phoenixというソフトウェアをパソコンに入れて使う方法以外に、Phoenix-miniというテレビ電話専用の機器を使う方法があり、こちらの方がよりスムーズ。Phoenixというソフトウェアが重く、パソコンがフリーズすることがあるため。

注16 デジカメ
18グループ、すべての調査にデジカメを持たせたそうだ。

注17 弱者とされてきた人が強くなれた例
「弱者は社会が作るのだから、社会が変われば、弱者は弱者ではなくなる」といわれている。IT革命などといわれて、社会が大きく変動しているいま、弱者とされてきた人が強くなれた例がいくらでもあるのは当然で、逆に、新たな弱者を生み出すことを心配しないといけないのかもしれない。


コラム 小中高校の「教育の情報化プロジェクト」について思うこと
(Written by よしだともこ / 2000年夏)

トップダウンでスタートした、小・中・高校の「教育の情報化プロジェクト」について思うこと

 今回の取材のように、先生方の積極的な試みや考え方を知れば知るほど、「新しく環境を作り活用するのは、とりわけ元気な人である。教育現場を変えてきたのは、チャレンジ精神のある先生だ」ということが実感できる。従来からある組織に、新しくネットワークを引き、それを活用する環境を作り、自分以外の人も快適に使えるようにすることは、並たいていのことではない。
 これ自体はルート訪問記がスタートした1995年から変わっていないことで、ルート訪問記に、毎回、元気な人々が登場してくださっているのは、読者の皆さんもご存じのとおりだ。
 ただ、現在、大きく変わってきていることは、日本の小・中・高校の「教育の情報化」が、トップダウンで急速に進んでいることだ。文部省は「すべての先生がコンピュータを持ち、すべての教室がインターネットに接続できる」状況を2005年までに実現すると発表し、首相直属のプロジェクトとして「教育の情報化プロジェクト」に取り組み始めた。
 そして、1999年12月に発表された報告書の中には、
  • すべての教室にコンピュータを配置し、インターネットへのアクセスを可能に
  • すべての教員に1人1台の専用コンピュータを配置
  • すべての教科で、すべての教員がコンピュータを活用して指導できる体制作り
  • 教員以外の人材を「情報推進化コーディネータ」として学校に配置
  • 質の高い情報コンテンツの開発を促進
 などいったことが書かれており、2001年度内には、全国約3万8000校すべての小・中・高校をインターネットに接続することが予定されている。
 また、2002年に中学校において、2003年には高校において、情報教育が必修化注7される。さらに、小中高校を通じて「総合的な学習の時間」が設けられるようになり、この時間の学習に、コンピュータやインターネットを、道具として活用することが求められている。
 これまでの数年間は、現場の先生方の中で、意欲と技術のある人物が中心となって、インターネットを教育に利用する環境作り、教育内容を模索してきた。
 その代表的な試みが、1994年から1998年に通産省と文部省が実施した教育利用実証事業「100校プロジェクト」であり、多くの成果が報告された。本連載でも、中学・高校の先生方が、人、物、お金が得にくい中で、いかにしてネットワーク環境を作る努力をしてこられたかを、たびたびレポートしてきた。
 しかし、トップダウンでのこのような動きが進み始めた今日、状況は明らかに変わり始めている。物、お金が比較的容易に得られるようになると、それをうまく教育に使える人、システムをうまく運用できる人が、最も不足することになるからだ。実際、現場の先生方の多くが、数年後にスタートする予定の授業の具体的なイメージがつかめずに不安な思いをされている。勉強会やフォーラムのたぐいが盛んに実施注8されているのは、そのためである。
 もちろん、そのような先生ばかりではなく「より詳しい先生、より若い先生に努力してもらえばよい……」と、逃げ腰の先生も多いと聞く。従来の仕事は減らないところに、負担が増えるわけなのだから、そう考える先生が多いのは不思議ではない。
 逆に、今回の取材先の先生方のように、これまで、いろいろな工夫しながら積極的な試みを実施してこられた方は、物とお金が得られるようになることで、ますます活発に動かれることになるだろう。やはり、もっとも重要なのは、目的意識を持って自ら動く人なのだ。
 トップダウンでの動きが進む中で、とくに、このことは頭に入れておくべきだと思う。参考にすべきは、「オープンソースの開発効率がよいのと、ネットワーク管理者の目的意識と生産性が高いのは、同じルーツである注11」ということである。

オープンソースの開発効率がよい理由

 オープンソースとは、メーカーが独占的に開発する市販のソフトウェア製品とは異なり、インターネットを通じてボランティアベースで開発・改良するという方針を前提に、ソース(プログラムコード)がインターネット上に公開されているソフトウェアのことである。
 この方法で開発されたソフトウェアの代表的なものにLinuxというOSがあり、インターネットを通じて配布、改良され、急激にユーザー数を獲得していることから、ここのところ注目を集めている。メーカーが作るソフトウェア製品というのは、会社員が給料をもらって、それにふさわしい仕事をした結果できあがったものだ。多くの機能を持つソフトウェアを開発するためには、当然、大きなお金が必要になる。
 ここで「ソースコードが公開され、ボランティアベースで開発・改良するスタイル」が確立した理由を考えてみる。それは、インターネット上にAUP(AcceptableUsePolicy)、いわゆる「商用には使えない」規則が存在した時代が長かったからだと考えて間違いない。商業的な利益を伴わない世界でのやり取りが繰り広げられたことが、独自の文化の誕生に発展したのだ。
 ボランティアベースでの開発に自ら参加する人は、目的意識も高く、楽しみながら作業をするため、生産性が高くて当然だ。それが、結果的に優秀なソフトウェアを生み出すことにつながり、いま、注目を集めているのだ。

ネットワーク構築を支えてきたもの

 大学のような教育機関のネットワーク構築の過程においても、商業的な利益を伴わない活動の存在が、大きく影響している。つまり、同じような目的に向かって努力している仲間と力を合わせることが、ネットワーク構築を支えてきたのだ。給料にふさわしい仕事をした結果でき上がったというより、必要性を感じた人が、自分の自由な時間を費やして作り上げたケースが非常に多いのだ。オープンソースを育ててきた人たちと、ほぼ同じ理由や動機で動いてきたのだから、同じ理由で、生産性が高くて当然だ。その後、ネットワークの構築や管理の仕事は、給料をもらって、それにふさわしい仕事をするスタイルに移行していく方向にはあるが、まだまだ不十分だ。本来なら、自らの意志でネットワーク構築に携わってきた人の生産性がいかに高かったかに注目が集まるべきであるが、それもまだだ。
 その理由は、能力の高いネットワーク管理者の働き(苦労や努力)が、一般の人からはよく見えないからではないだろうか。技術に詳しくなければ、正当に評価できない部分であるために。
 さらには、これまで環境を構築する学校の数が少なかったために、能力の高い人々のサービス残業的な働きでなんとかなってきた(彼らが努力してなんとかしてきた)ために、問題の深刻さを現実化しにくかったという背景もあるのではないか。
 小・中・高校の「教育の情報化プロジェクト」をトップダウンで進めている組織には、そのような背景を理解していただき、現場のあらゆる先生方と(元気な先生方だけではなく…)、歩調を合わせて進めていただきたいと思っている。
(Written by よしだともこ / 2000年夏)

[前回記事] [トップ] [次回記事]

Last modified: Mon May 21 14:15:43 JST 2007 by Tomoko Yoshida