チェックリストを使ったWebページの批判的評価とその効果
〜第56回の情報処理学会(平成10年3月17日〜19日開催)にて発表〜

発表番号「2B-07」
タイトル「チェックリストを使ったWebページの批判的評価とその効果」

吉田智子*・有賀妙子** 

*立命館大学大学院社会学研究科(1998年4月以降、ノートルダム女子大学 共通教養学科)
**京都芸術短期大学ビジュアルデザインコース

A Web Page Critical Evaluation Checklist and its Efficacy
by Tomoko Yoshida, Graduate School of Social Sciences, 
Ritsumeikan University, 56-1 Kitacyo Toujiin Kitaku, Kyoto, JAPAN,
and Taeko Ariga, Visual Design Course, Kyoto College of Art,
2-116 Uryuyama Kitashirakawa Sakyoku, Kyoto, JAPAN.


1. はじめに

  インターネットの普及は、情報収集の手段、また調査結果の伝達手段として
のメディアの形態に大きな変革をもたらした。特にWebページは印刷物に並ん
で、重要なものとなっている。近年、テクニカルライティングあるいは文書技
法といった名称で、論文、報告書、解説書など印刷された文書を対象に、「書
く」ことによるコミュニケーション能力の養成を目的とした講座が高等教育機
関でも設けられている。Webページの登場は、この教育内容に、以下のような
新たな視点を追加することになる。

  ・Webを通しての情報の捜し方
  ・Webの通して得た情報の評価
  ・技術文書としてのWebページの書き方

  本研究では、Webページを読む、あるいは書くという後者の2点に注目し、
Webページを批判的に読むための規準を定め、それに基づくチェックリストを
提案する。Webページの評価規準は、英語圏を中心にすでにいくつか提案され
ている[1]。これらは、印刷物に対する評価項目[2]にWebの特性を付加したも
のである。そこで我々は、Webの現状を考慮し、新たな視点を加えたチェック
リストを作成した。

  そして、このチェックリストを使い、Webページを批判的に読む学習をする
ことで、内容の理解が深まったかの測定を試みた。Cunningham(1997)は、評価
規準をまとめた上で、質の高いページだけでなく、低品質のページを読ませ、
議論する過程で評価力をつけることを提唱している[3]。本研究では、さらに
一歩踏み込み、批判的評価がどのような効果を与えるかを調べた。

2. 対象とするWebページとその特性

  Webページは知識提供型、自己主張型、商売型、娯楽型などに分類される。
本研究では、このうちの知識提供型のページを対象とした。さらに、以下の
Webページの特性に注目した。

  ・関連情報へのリンク機能
  ・著者へのフィードバック機能
  ・更新、変更の容易さ
  ・査読過程の欠如
  ・メディアの多様性
  ・読む環境の影響

3. Webページの評価規準とチェックリスト

  上で述べた特性を踏まえ、下の大項目ごとに規準を設け、それに対する評価
リストを作成した。

(1)領域、範囲

  印刷物同様、目的や概要が冒頭に明示されることが望ましい。Webページは
  画面上で見るという特性から、さらにその一覧性が求められる。

(2)出所、姿勢

  著者の肩書きが必要とされないこと並びに査読過程の欠如という特性から、
著者が誰であり、どのような意図や立場でそのWebページを公表しているのか
を読者に明らかにすべきである。

(3)内容

  わかりやすい見出しが使われているか、使われている用語は適切か、文法的
誤りや漢字の誤りはないかという基本項目に加えて、Webページならではのチェッ
ク項目が必要となる。具体的には、Webページがいつ最後に更新されたかが明
らかにされているか、古いリンクが放置されていないか、文字以外のメディア
がまったく機能しなくとも、目的とする情報が伝わるような工夫がされている
か、などである。

(4)デザイン、構成

  Webページはリンク機能を使っての立体的な構造をもつ。それが構成を単に
複雑にするのではなく、理解を助けるものになっている必要がある。また、画
像や音声、映像による、視覚的、聴覚的効果は、情報を補強するものでなけれ
ば、逆効果である。

(5)環境

  読者がどのような環境で、ページを読むかは想定できないため、特定の環境
を前提としたページは情報を提供する姿勢としては望ましくない。そこで、チェッ
クリストでは、自分のマシン環境を確認する項目を設け、自分の環境について
まず意識させてから、評価ページが複数の環境を意識しているかを問う項目を
加えた。

(6)主観

  チェックリストにはあえて、読者の主観を問う項目を入れた。「主観」自体
は評価項目ではないが、他人の編集・査読過程を経ないWebページの場合、上
に述べた項目を踏まえた上で、編集者としてのセンスが要求される。そのため
他のWebページを見た時の印象をことばで書き留めることで自分の主観を客観
視し、センスを鍛えることをめざした。

4. 効果測定の方法と結果

  評価実験用に同じような長さ、難易度のWebページを2つ選び(A:コンピュー
タウィルスに関するページ、B:ネチケットに関するページ)、専門学校の情報
デザイン学科の4クラス46名の学生に対し、次のような手順で実験を行った。

  (1)評価用ページの一方を自分なりに読む(20分)
  (2)ページの内容に関するテストを実施する(10分)
  (3)Webページの評価規準およびチェックリストについて講義を行う(40分)
  (4)別の評価用ページをチェックリストで評価しながら読む(20分)
  (5)ページの内容に関するテストを実施する(10分)

  テスト(10点満点)はWebページの記載から容易にわかる選択および記述式の
質問からなり、Webページを見ずにテストを行った。選んだWebページの内容の
違い、テストの難易度、保持知識の差を考慮し、対象学生の2クラスにはAペー
ジを先に、別の2クラスにはBページを先に読ませた。チェックリストを使った
評価の前後のテストの結果を比較した結果、どのクラスでも平均点は上がった
(表、参照)。

  個別の点数を見ると半数の学生の点数が上がり、このうち2点以上増加した学
生は、15名であった。このことから、チェックリストを使って批判的に読むこ
とが、その内容の理解を促進することが確かめられた。

5. まとめ

  情報収集の際、価値のあるWebページを選択するための規準となるチェック
リストを提案した。また、規準を念頭に批判的に読むことが、結果として内容
の理解を深めることを示した。

  なお、評価実験には下のWebページを使わせていただいた(1997年10月現在)。
http://www.ed.kanazawa-u.ac.jp/~iwasaki/Tips/tips.html 
http://www.sfc.keio.ac.jp/~s95654ht/VIRUS/

添付資料 「表:クラスごとのテスト結果の比較」

平均点(標準偏差) t値
チェックリスト使わず チェックリスト使用  
クラス1(16名)  A  5.3(2.8)  B   5.7 (2.5) 0.46
クラス2(10名)  A  5.5(2.3)  B  6.8(3.1) 1.54
クラス3(8名)  B  6.3(2.0)  A  8.3(1.7) 1.43
クラス4(12名)  B  6.6(1.6)  A  6.8(2.0) 0.52

A:ネチケットに関するページ(http://www.ed.kanazawa-u.ac.jp/~iwasaki/Tips/tips.html)
B:コンピュータウィルスに関するページ(http://www.sfc.keio.ac.jp/~s95654ht/VIRUS/)

t値:関連する2平均のt検定(df = 人数 - 1)      


参考文献 [1] Alexander J., Tate M.(1997) Evaluating Web Resources. http://www.science.widener.edu/~withers/webeval.htm [2] Mathes J. C., Stevenson D.(1987) Designing Technical Reports. Macmillan Publishing Company, New York [3] Cunningham S.(1997) Teaching students to critically evaluate the quality of Internet research resources. SIGCSE BULLETIN 29(2),31-34 [4] Tillman H.(1997) Evaluating Quality on the Net. http://www.tiac.net/users/hope/findqual.html

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